7

 屈強な男たちが大勢で集まり、壁を破壊していく。


「道ができたぞ! グスターブ様を呼んでくれ」


 声を張り上げた男の指示で後方に控えたいたグスターブがやってきて、穴を確認する。先遣隊を先頭に内部に侵入すると、辺り一面に広がる宝石の壁に皆が感激の声を漏らす中グスターブだけは、足早に盛り上がっている中央へと向かう。


 そして裏側にいる抱き合う二人の姿を確認したとき、グスターブは険しい顔を引きつらせ二人を見降ろす。


「女の方はどうしますか?」


「一緒に連れていけ」


「はっ?」


「何度も言わせるな。このまま一緒に連れていけ、いちいち引き離す方が面倒だろうが!」


「あ、なるほど。分かりました」


 冒険者の男に尋ねられ、苛立ちを露わにして怒鳴るグスターブに指示され、ライアットとニーナは引き離されることなく抱き合ったまま運び出される。


 唇を噛み苛立ちとも、悲しみともいえない複雑な表情で足早にその場を去るグスターブが、少し進んだところでふと足を止める。


「あの手紙をどうやって手に入れた?」


「秘密です」


 壁に寄りかかるシルシエに、背を向けたままグスターブは尋ねるが、はぐらかされてしまう。


「我が子を鍛えるため、千尋せんじんの谷に落とす……それも大切ですけど、相手を一人の人と認めて言葉を交わす、それも大切なことかもしれません」


 シルシエの言葉にグスターブは黙ったまま佇む。


「このような形になっていましたが、一応依頼達成ということでいいですか?」


「あぁ」


 寄りかかった壁から体を起こしたシルシエに、背を向けたままのグスターブが口を開く。


「養子にする話。受ける気はないか?」


「僕は気ままに旅する方が性分に合っているので、申し訳ないですけどお断りします」


「そうか……」


 ポツリと返事をしたグスターブの隣をすれ違うとき、足を止めたシルシエが口を開く。


「ライアットさんの手紙を信じる、信じないはお任せしますが、僕個人としては最後のお願いを叶えて欲しいです」


「あぁ」


 下を向いたまま短く返事をしてグスターブに微笑みかけたシルシエは、足を外に向け歩み始める。


「最後に……「もっと父上と話せばよかったと」言ってましたから、埋葬したあとでもいいですから話かけてください。きっと届きますよ。あ、それと「父上が買ってくれた厄除けのペンダントも一緒に持っていきたい。出て行くとき部屋の机の上に置いてきてしまったから、許されるなら持たせてもらえないだろうか」って言ってました」


 その言葉にグスターブはハッとした顔になって顔を上げるが、目の前にシルシエはおらず、ただダンジョンの壁があるだけだった。


 グスターブが膝から崩れ、手を地面につけ溢れ出す涙で地面を潤していく。


 ***


 グスターブの町から少し離れた小高い丘には心地よい風が吹く。草木を優しくゆらすその中で、使用人の女性は手に持っていた花束を墓標にそっと置く。


「ニーナ……あのとき私が止めれば、こんなことにならなかったのかな……」


 使用人の女性が目に溜まった涙を拭って首を横に振る。


「ううん、違うね。ニーナはあのときの決断を後悔してないって。最後に宝石の海の中で二人でいれて幸せだったって、こうして手紙を私に送って知らせれたことがよかったって言ってるんだもの。最後のときまで幸せだったんだよね……」


 使用人の女性が手に持った便箋を抱きしめる。


 そして墓標に刻まれている名前を目で追う。


『ライアット・グスターブ ニーナ・グスターブ 愛し合う二人ここに眠る』


 そう刻まれた文字を、使用人の女性の涙が濡らしていく。

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