落ちこぼれ
1
冒険者になるのに特に試験などはない。健康であって、ダンジョンを所持する国の決めたルールを守れる人間であれば基本誰でもなれる。
ただダンジョンによっては、明確なエリア分けがされており、資格を取らないと入れる場所が制限されることもある。
基本はチームを組んで行動することが多いが、浅い場所での鉱石の集めや、植物の採取などは一人で行動する者もいる。
もしもダンジョンの奥へ向かう冒険者の中で、一人で行動している者がいれば、それは相当な実力者かお尋ね者。それか……誰もチームを組んでくれない落ちこぼれかだ。
***
「あいたっ!」
ゴツゴツとした岩肌が見えるダンジョンにて、派手に頭をぶつけてしまった女性は屈んで前頭部を押さえる。
「うぅ……またぶつけちゃったぁ」
青い髪ごと押さえた前頭部を擦り、ながらたち上がった女性は、薄手のプレート一式を装備している。大きめの荷物や腰にぶら下げた剣、首にかけてある冒険者タグから冒険者であることが分かる。
「コブにならないと、いいんだけど」
涙目で前頭部を擦る女性とすれ違う別の冒険者が、不思議そうに見ていくので、女性は恥ずかしさをごまかすため、苦笑いをしてしまう。
「はぁ〜なんでこうもドジなんだろな私……」
大きなため息をついて、歩き始めた女性がふと足を止める。恐る恐る壁に張り付き進むと角から、進路を覗き込む。
そこにいたのは二足歩行のトカゲ、リザードマンと呼ばれるモンスター。手には武器を持っており、それなりの知能があり、ときに集団で襲ってくる厄介なモンスターである。
女性は口を押さえ、息を止めてリザードマンに気づかれないように、別の道に足を進める。
バンッ!
静かな通路に響く音は、女性が落ちていた石を踏んでよろけて、壁に手をついたときに出たもの。
振り返ったリザードマンに驚いた女性は、慌ててその場から走り去る。
目に涙を溜め、がむしゃらに走る女性が突然狭くなった通路に引っかかり派手にコケてしまう。
「あいたたたっ……あれ? 私沈んでない? ヤバっ! これ底なし沼だ!」
自分の足と手がズブズブと沈んでいることに気がついた女性は、焦って周りを見渡す。
「誰もいない……ああどうしよう。こんなときどうするんだっけ……あ、そうだ!」
わざと背中から倒れ、接地面積を増やすと、必死に沼から足を抜いて背負っているリュックから腕を抜き沼に浮かべる。
浮いたリュックに体重をかけ足をぬくと、リュックにしがみつき這い上がり、それを足場にして沼から脱出する。
「危なかったぁ〜、落ちたのが沼の手前の方で良かった。じゃなきゃ沈んでた……」
そこでリュックを足場にしたことを思い出した女性が、沼に目をやると八割型沈んだリュックの姿がある。
「あぁ……備品また買い直さないと。収入も少ないのに今月やってけるかな……」
下を向いてトボトボ歩き始めた女性が沼から少し離れたとき、ふと顔を上げると、真っ直ぐな道が見える。
「あ、地下四階へ通じる道だったよねこれ……地図がないから確信できないけどたぶん間違いない」
真っ直ぐな道を歩き目の前に下へ降りる階段が見えたとき、女性は足早に歩き始める。そして足もとでカチッと音がしたかと思うと、下から飛び出てきたトラバサミに足を挟まれ身動きが取れなくなってしまう。
足に食い込むトラバサミに痛みを感じる前に、天井の破れ目から現れたペンデュラムと呼ばれる巨大な刃を持った振り子の刃が女性の腹部に刺さる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます