5
森の中を歩いていたシルシエは少し見晴らしのいい場所に出ると、地図を広げコンパスを手に取り方角を確認する。
背伸びをして遠くを見たシルシエは再び地図に目を落とす。出発地点であるグスターブから指でなぞって、山を抜けると点線にぶつかる。
「ここが一番近い国境かぁ。真っ直ぐ歩いて行ったとしても三日はかかるかな。ましてや……」
シルシエは言葉を切って周囲を見渡す。木々が生い茂り、藪も多くおおよそ人が歩く山ではないことは誰の目から見ても明らかである。
「山登りに慣れているかは分からないけど、嵐の中装備もないままどこまで行けるものかな……ん?」
なにかに気がついたシルシエが歩き出し屈むと、木の根っこに引っかかっているものを指でつまむ。
「くつ?」
シルシエはつまんだものをじっと見て、ハッと目を開く。
「これってお屋敷で働いている使用人の人たちが履いている靴だよね。んー見た感じそんなに朽ちてないし、最近のもので間違いないかな」
大きなリュックをおろして布を取り出すと、靴を丁寧に包んでリュックの中へ入れる。
「山越えはしてないだろうと言ってたけど、こっちで正解っぽいかも。だけど裸足でこの山を歩いたとして、どこまで行けるものだろう」
靴が向いていた方を見て、屈むと地面を調べる。
「足跡もなしかぁ……」
立ち上がったシルシエが再び先の方を眺める。
「歩いて探してみるしかないかな」
そう言って歩みを進め始める。藪をかきわけ、邪魔な枝や草を鉈で切り落としながら進むシルシエは何度か足を止め、木の枝の折れ具合や草の倒れ具合を見て方向を決める。
「嵐の中を逃げるように進む二人。離れないように手を繋いで走る二人は、雨風に奪われる自分たちの体力と体温にも気がつかないほど必死に走って……」
森の中にあって一際大きな木の前にシルシエは立って幹に手をつく。
「ここで手をついて、一息つく二人は、お互い思いを伝え合う。そこで女性の靴が脱げていることに気がつき男性は気遣いつつ先を急ぐ」
心地好い日の光が降り注ぐ中、シルシエには嵐の様子がまるで見えているかのように状況を言葉にしていく。
「でも、この山道で足の裏を切っていた女性は走れなくなり、男性が背負って進む。そこで男性は気がつく。自分に女性を背負って進む体力がないことに……。気遣う女性と、強がる男性は希望を夢見て進む……と」
そこまで言って足を止めたシルシエが、地面を何度か踏みしめる。
「ん? なんだかこの辺り土が柔らかいね。まるで耕したみたい……」
地面に地図を広げたシルシエは、もう一枚地図を広げる。一枚目の地図はグスターブから隣国の国境周辺までの地図。二枚目はこの山の下にあるダンジョンの地図。
「えーっと、縮図の比率は……」
グスターブ領の地図とダンジョンの地図の大きさを計算しつつ比較したシルシエがおおよその線を、領土の地図に書き込む。
「丁度ここがダンジョンの端っこ辺りだね」
足下を見下ろして地面を何度か踏む。そのまま感触を確かめながらシルシエは進み始める。足の裏で土の感触を確かめながら進むシルシエが、ふと足を止め口を開く。
「ダンジョン
歩き始めてすぐに足を止めたシルシエが、目の前に空いている大きな穴を見ながら呟く。そしてシルシエはリュックをおろし、下を確認するための準備を始める。
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