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冒険者のブルメイから最下層だと教えられた地下五階に下りたシルシエは、巨大な湖に真上から落ちる大量の水を見上げる。
地下二階部から落ちてきている滝は、豪快な水しぶきに似合う、足もとにまで響く音を響かせる。
「すごい迫力……これはブルメイさんが、見てのお楽しみだって言うわけだ」
降りそそぐ滝を見上げていたシルシエは、壁の方へ向かうと耳をつけて目をつぶる。
「下に落ちてくる水はこの湖に栄養を運ぶ。そして吸い上げられて、この壁の裏を通り各階の下を流れて栄養を運びまた下へと落ちる」
再び湖に近づいたシルシエは眼帯をズラし、中を覗き込む。
「ふ~ん、階層は分かれてなさそうだから、地下六階ダンジョンってところかな。おそらく、この地下六階、水の中が本当のダンジョンだね」
呟いたシルシエが腰から抜いた短剣で、自分の指を切って湖につける。
じわっと滲んだ血は湖の底へと沈んでいく。
次の瞬間、水面を突き破り、数匹の魚が飛び出てくる。子供の頭くらいの大きさの魚は、口にあるギザギザの刃をガチガチ鳴らしながら、大きなヒレを羽ばたかせ宙に浮かんで、シルシエに目を向ける。
「入れ食いだね」
ふふっと笑ったシルシエが、襲い掛かってくる空飛ぶ魚たちを短剣で次々と切り裂いていく。
「ふぅ~、活きがよすぎるってのも考えものだね」
斬り払い地面に横たわる空飛ぶ魚を一匹、摘まみ上げたシルシエはモンスターコアを取り出さずにそのまま湖に投げる。
ちゃぽんっと音をたて、沈んでいく空飛ぶ魚をしばらく見つめていたシルシエが次の魚を投げ入れる。
四匹目を投げ入れたとき黒い影が見え、連続で五匹目を投げたとき、影から長い首が伸びてきて魚をくわえる。
それを素早く手で握って引っ張り上げたシルシエは、自分が握ってぶら下がっているものを見つめる。
握った手からは亀の頭がのぞいており、長い首の先には甲羅の代わりにドクロを背負った背中がある。
「へぇ~これは人骨だね。成長に合わせて甲羅を変える『宿り亀』の一種かな。目はないっぽい? 僕が知っている宿り亀とはちょっと違うような……」
シルシエは、宿り亀を地面に横たわる魚の前に置く。すると宿り亀は長い首を伸ばし、歯のない口でかみつく。
そして魚をくわえたまま背中の人骨の目の部分に持ってくると、中から触手が伸びてくる。その先端には透明の膜が巻き付いていて、魚が近くにくると膜が開き、ユリの花に似た形になると魚の一部に覆いかぶさる。
ユリの花の膜が収縮運動をし波打つと、魚の血を吸い上げドクロの中へと送り込まれていく。
それはまるで透明の花が真っ赤に染まるようで━━
「透明の花の正体はこれかぁ。う〜ん、マルコイさんになんて説明しようかな……」
目の前で血を吸う、宿り亀の触手の先にある透明の花を見てシルシエは考える。
「ん? この人骨……意志を感じる」
ふとなにかに気がついたシルシエは、宿り亀の背中にある人骨に触れ、眼帯を取り右目で見つめる。
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