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 ププレから北へ進むと大きな湖がある。その湖の前にある建物はダンジョンの入り口の上に作られたものである。


 国によって微妙に名称は変わるが、基本的には『出入牢管理局しゅつにゅうろうかんりきょく』と立派な名前があるのだが、冒険者たちは大抵『入口』や『ギルド』などと呼ぶことが多い。


 建物の前には二人の兵が立っていてやって来た者たちから書類を受け取り、中へと案内する。


「お願いします」


 シルシエが差し出した書類を受け取った兵が、シルシエを見て驚きの表情を見せる。


「あんた探索者か? たしかに資格を取るのに年齢制限はないが、こんな小さな探索者は初めて見たぞ」


「よく驚かれます」


 屈託のない笑みで答えるシルシエ。そんなやり取りをしながら、依頼書を確認する兵の隣にいた別の兵が覗き込むと目を見開いて驚く。


「この依頼あれか? マルコイのじいさんのヤツだろ?」


「はい、そうです。マルコイさんが、お花を探しているそうなので見つけようかなと」


 シルシエが答えると、質問をした兵はどこか満足したように大きく何度も頷く。


「俺もここに勤めて長いが、赤く透き通った花なんて見たこともないけどな。でもまあ、あのじいさん最近元気ないし、見つけれないかもしれないと分かっていても、こうして誰かが受けてやるってことが大事なのかもな」


「僕もそう思います。見つからないことよりも、探されないことの方が寂しいですから」


「良いこと言うな、ほら書類の確認は終わったから入っていいぞ。中で手続き済ませたらダンジョンに入れるからな。入って正面に受付があるからな」


「はい、ありがとうございます」


 渡された書類を手に持って、お礼を言うシルシエは建物の中へと入る。


 中に入ると正面に受付があり、その左右には道具や水、食料を売っているショップ。簡単な食事ができる食堂や、情報を売り買いができる場所などがある。


 初めてこのダンジョンに来たシルシエを珍しそうに見る、探求者や探索者の視線を受けながら手続きを受ける。


「あら? これはマルコイさんの依頼じゃない。久しぶりに見たわ」


 受付の女性が書類を見て驚き、そのままシルシエを見てさらに驚いた表情になる。


「よく見たら可愛い探索者さんじゃないの。ボクいくつなの?」


「実はよく分からないんですよね。大体13、4くらいじゃないかなと思います。見た目的に判断してですけど」


 笑顔で答えるシルシエに対して、受付の女性はしまったと渋い表情をする。


「僕は気にしていませんよ。生まれた日が分からないなんて些細なことですから」


「そうは言ってもね、あんまり気分のいいものじゃないでしょ。そうだ、なにか聞きたい情報とかある? タダで教えるからそれでお詫びにならない」


「それは、破格の提案です。正直もらい過ぎだと思いますけど、ありがたくいただきます」


 ごめんと手を合わせる受付の女性に、シルシエは微笑む。

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