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 ダンジョンの入り口には扉が作られ、それを守るため建物で囲うことが多い。それは国の利益を守るためでもあるが、ダンジョン側からモンスターが上がって来ることを防ぐ意味もある。


 ゆえに、人間の世界側に入り口に扉を作り、洞窟側にも扉を作ることが一般的である。


 ここダンジョン・プレヌールも入り口の扉を開け、地下への階段を下りた先にも大きな扉がある。内扉を守る兵が、シルシエにダンジョン内の注意などを軽く説明したあと、扉の小さな小窓を開けダンジョンの内側を守る兵とやり取りをして、外と中の閂を開け扉が開けられる。


 兵たちに頭を下げ、ダンジョンに足を踏み入れるシルシエは、地下へ入ったはずなのに明るい天井を見上げる。


 天井や壁に埋まっている月光石と呼ばれる石は、洞窟系のダンジョンに存在していることが多く、自ら発光し月のような優しい光をダンジョン内にもたらしてくれる、人間にとってありがたい存在である。


 月光石と呼ばれてはいるが、実際には石ではなく、石に付着した粘菌の集合体であり、発光することで虫をおびき寄せ、触れた虫を捕え溶かし捕食する立派な生き物である。


 虫の取り合いにならないように自然と月光石はバラバラに配置され、ダンジョン内を明るく照らしてくれるのである。


「月光石がこんなに沢山あるってことは、ここは生命の循環が盛んなところっぽいね。珍しい透明な花にも期待できそう」


 明るいダンジョンに幸先の良さを感じ、シルシエは奥へと向かって進んでいく。


 この世界のダンジョンは、大きく分けて三つの種類が存在する。


 一つは横に向けて広がっていく『拡散型』


 これは入口から左右向けて広がるダンジョンで規模的には小さなものが多く、比較的奥まで探索が簡単な部類になる。


 二つ目が縦に伸びていく『塔型』


 言葉の示す通り、上へ上へと伸びるダンジョンで、大きいものになると雲を超えるものもあるという噂もある。

 上に行くほど、モンスターも強く、罠も狡猾になり攻略は難しくなっていく。

 頂上に登ると莫大な富を得る、人を超えた力が手に入るなどとよく噂されるのも特徴の一つである。


 三つ目が『深層しんそう型』


 ダンジョンと言えばこれだと言われるくらいオーソドックスでありながら、『拡散型』や『塔型』と違いどこまでの大きさがあるか分からない未知を抱えているダンジョン。


 下へ下へと向かう最深部には何があって何が待ち受けているか予想もつかない。


 深くなればなるほどモンスターは強くなるが、手に入る物の質も量も良くなると言うのはどのダンジョンも同じであり、それ故に人は奥へ奥へと進んでしまう魅力を感じてしまうのかもしれない。


 また小さなダンジョンでも、後に新たな道が発見されたりと冒険者を飽きさせないダンジョンである。


「階段があるタイプとは聞いていたけど、こんなに歩きやすい階段は珍しいね。わりと親切で助かるなぁ」


 大きな荷物を背負ったシルシエが幅の広い階段を下りる途中で足を止め壁に手を触れる。


 途端にシルシエがこれから足をつけ下りていく階段の一部が一斉に開き底が抜ける。


 もし誰かがそこに立っていたら底が抜け、出現した穴から落ちていたであろう状況にも、シルシエは驚くどころか興味深そうに穴を覗く。


「チームを組んで誰かが壁に触れる。すると自分以外の仲間が落ちて、その下には大量の水が流れている……。水の生命循環に凄くこだわったダンジョンかぁ。前言撤回、全然親切じゃないねここ」


 階段が開いてできた穴の下に大量の水が流れているのを見たシルシエは文句を言いつつ、ゆっくりと罠の穴が閉じて、もとに戻るのを待って先に進む。


 地下二階に下りると、一階と二階の隙間に大量の水が地下二階の中心に向かって流れ、各方面から集まった水は中央にある巨大な穴に落ちていく。


「さっきの階段で、もし落ちたなら、この水の流れに乗ってここから下へ行くわけかぁ。ふ~ん綺麗な光景だけどなんとも残酷な罠だね」


 呟いたシルシエが上を見上げ一階から落ちてくる水を見つめる。


「これだけの水はどこから来てるんだろうね。ダンジョンは不思議でいっぱいと言うけれど、これはなかなか興味深いなぁ」


 独り言を呟きながら流れる水を見るシルシエが気配を感じ振り向くと、これからシルシエが向かう方から来る人影が見える。


「丁度いいや、色々聞いてみようっと」


 大きなリュックの肩ひもを握るとシルシエは近づいてくる人影に向かって歩く。

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