第5話 俺とリンが居ない間に……

 ……その頃のアス


「……」


 私は、今日もベッドで寝ている。起きているが寝ている。

 スズヤさんやリンさんは、一生懸命お仕事をしているのに、私はベッドで寝ている。


 本当は私も、子どもたちの面倒を見なくては行けないのに、その気力が湧かない。

 その気力が湧かない原因を、私は知っている。


 私はみずからの手でフウゴルを焼き殺した。

 今まで、魔物はたくさん倒してきたけど、人間を倒したのはフウゴルが初めてで有った。


 それも、魔王に魂を売ったと言えども、養護施設仲間で有ったフウゴル。

 同じ釜の飯を食べた仲間だ。


 確かに素行は悪かったけど、フウゴルより悪い人間はたくさん居る。

 フウゴルなんて、可愛い部類に入るだろう?


 フウゴルは変な正義感が強かったから、私はどこか惹かれていた。

 フウゴルがどうして、魔王に魂を売ったかを聞けなかったが、多分食べ物絡みだろう。


 フウゴルは食べる事が好きだ。

 朝食や夕食も必ずお代わりをして、日中は市場の食べ物を食べ歩きする。


 私たち養護施設の子どもたちは、お小遣いが無いから市場で食べ歩きなんて出来ないが、フウゴルはをしていた。

 神父は『善良の人からお金を奪ってか、脅して・盗んで食べ物を食べているのだろう』と、愚痴を零していたが私は知っている。


 フウゴルは市場の見回りを毎日して、悪い人を見付けてはやっつけて、そのお礼で食べ物を買ったり貰ったりしている事を……

 フウゴルもと神父達に話せば良かったのに、それを恥ずかしい行為だと感じたのか、言わず仕舞いにしてしまったので、こんな結果に成ってしまった///


 私があの時。素直にフウゴル元へ行っていれば今頃。私はフウゴルに性行為をされて、フウゴルと一緒に人間達を攻撃しているだろう。

 でも、私は魔王を憎んでいるのに、魔王の支配下で人間達を攻撃するなんて、出来るわけが無い///


 しかし、フウゴルは暴力を使って私を屈服させるだろう。

 そうすると……私は泣きながら、パプテトロン市街地にストッレアエルツを放っているだろう。


 そして、狼狽うろたえながらも、教会や養護施設にもストッレアエルツを放って、神父たちや子どもたちを……


「ううっ//////」


 私の頬に涙が零れる。何度泣いても涙が涸れる事は無い。

 私の、した行動は間違っていない。


 フウゴルを犠牲にして、この国や町は守られた。

 だけど、どうして……この罪悪感が消えないのだろうか。


『スッ』


 私はベッドから出て、寝間着から修道服に着替える。

 今日も懺悔の時間だ。


 私が出来ることは、今これしか無い。

 神やフウゴルからの、本当の許しが貰える限りはしか無い。


 私は静かに自室のドアを開けて、ゆっくり歩きながら教会に向った……


 ……その頃のスズヤとリン


 王から、パプテトロン守備任命を貰った俺とリン。

 用事はそれで終わり、俺とリンは王室から出て、ついでにコハルに会いに行く。


 王者の剣の鍛造状況も聞きたかったし、コハルの力で、アスの心の傷を回復出来ないかも聞いて見る。


 ……


 コハルの部屋


「良く来たね。二人とも♪」

「二人は元気そうだね!♪」


 コハル(大蛇)は、笑顔で俺とリンを出迎えてくれる。

 コハルは笑顔で言葉を続ける。


「……アスちゃんが居ないけど、どうしたの?♪」

「黒魔法(使い)の方にでも呼ばれている?」


「……コハルさん///」

「実はまだ……アスは回復していないのです!」


 俺は弱った表情でコハルに話す。

 コハルは『成る程ね』の表情で、俺に話し始める。


「……そう! アスちゃんはかなり、フウゴルを意識していたようだね」

「魔法の素質が有るのに残念だね……」


 俺の受け取り間違いかも知れないが、コハルの中では、アスを見限る発言にも取れた。

 リンの方も同じだったらしく、焦った表情でコハルに話し始める。


「コハルさん!///」

「アスちゃんを、元気にさせる方法は有りませんか!?///」


「アスちゃんの様な優秀な黒魔法使いを、このまま埋もれさせますのは勿体もったいないです///」


「ん~~?」

「私の力で、なんとかして欲しい!?♪」


 だが、コハルは蛇らしい表情でリンに言う!

 俺は何処かでコハルをだと見ていたが、ここでの本領が出たと言うべきだろうか。


 コハルは苦笑しながら、リンに話し始める。


「それが出来たら、よリンちゃん!」

「私だって、あんな優秀な子。アレ位の事で駄目にしたくは無いからさ!♪」


「でもね……心の傷に関しては、私の力では出来ないのよ(汗)」

「心の傷は物理的の傷では無く、己が心理的に作った傷だからね///」


「私が出来るのはアスちゃんを舐めたり、抱き締めるぐらいだよ///」


(アスを抱き締めるコハル……どう見ても、蛇の捕食シーンにしか見られないな///)


 コハルの言い分ではコハルがアスを抱き締めても、効果が無いと言い切った感じで有る。

 これでアスの母親が生きていれば、まだ効果が有るのだろうけど……


 コハルは笑顔に成って、俺に話し始める。


「スズヤが来てくれたついでに、剣の進捗状況を話して置くけど、後10日ぐらいで完成するよ!♪」

「剣が完成すれば、本格的な冒険に……出られると良いね///」


 最後の文節は困った笑顔で言うコハル。

 コハルの中でも、俺とリンだけに魔王討伐に出るのは現実的で無いと見ているのだろう。


 俺がコハルに話し始めようとした時……ドアがノック無しに激しく開く。


『バターン!!』


「大変です!///」

「コハル様。スズヤさん達!///」


 適正診断室。受付女性で有るマユが素っ頓狂な表情で入って来た!?

 まさか、もう。魔王軍がパプテトロンを再度急襲しに来た!?

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