第2話 一ノ瀬一途の純愛
「男女の友情は成立する!」
はあ。また始まった。
私、
「何よいきなり大きな声出して」
席に座ったまま、迷惑そうに百合花を見上げる。
「だってほら、私と純って、最高に仲いいじゃん!? ね、純!」
「――ああ、そうだな」
百合花は隣にいる幼馴染の男子――純と肩を組んだ。
百合花。そいつの顔をよーく見なさい?
そいつがあんたに抱いている感情は、とても友情と言えるものではないと思うけれど。
声のトーンだって……無理してあんたに合わせてる。
幼馴染じゃん。なんで分からないの?
——いや、分からないはずがない。
百合花の観察力のすごさは誰よりもこの私が知っている。
そして、立ち回りの上手さも。
「男女の友情は成立する。女と女の友情も、もちろん成立する!」
「……」
黙考していると、百合花の柔らかな手が私の肩に置かれた。頬をくすぐる長い黒つやの髪から、柑橘系のさわやかな香りがする。私が好きな、彼女のシャンプーの匂い。
心の奥が、ちくりと痛む。
「……一途?」
私が微動だにせずにいると、すぐに名前を呼んでくる。
分かってる。壊したくないんだよね。ずっとこのままで居たいんだよね。
ここで私も彼女の肩に腕を回せば何も問題は起きない。
いつもと同じ、心地の良い日常が続くだろう。明日も明後日も、もしかしたら、卒業してからもずっと。
だけどそれでいいの――?
「なんか怒ってる?」
人一倍、繊細――。だからそうやって誰も傷つかないように必死なんでしょ?
でも、そのままじゃダメなんだ。
私ね、もう我慢の限界なの。
「ねえ、一途。ねえってば――」
「ああ~、まったくもう!」
「!?」
今日この場所で、私たちは決別する。
生ぬるい、まがい物の関係からは抜け出さなければならない。
ホンモノじゃなきゃ。
「ねえ、百合花。本当にそんなこと思ってるの!?」
「え?? 何、急に」
これまでの曖昧な私を脱ぎ捨て、百合花にその言葉――友情がなんたらという言葉の真意を問う。
思いきり詰め寄る。彼女の可愛らしい顔が、至近距離に迫る。
「お、思ってるよ? 私、純のことも一途のことも、大切な友達だって――」
「あー、そう」
嘘つけ。とっくに友情なんて無い。友情なんて、もう、あるはずがない。
百合花と純の間にも、私と百合花の間にも。
「純もそう思ってるわけ?」
「あ、ああ、もちろんだが」
はあ、呆れる。こいつもこいつで本当に意気地がないなあ。
まあでも、私も男女の友情は成立すると思う。
だけどそれはあなたたち二人の間ではない。
そんなものは友情とは言えない。だから今から、私がホンモノの友情ってヤツを教えてあげるとしよう。
友情と……この名に恥じぬ、一途な純愛を。
「い、一途、どうしちゃったの?」
「……はぁ。もういいよ。そんなんだったら、もういい!」
「ねえ、意味わかんない。私、そんなに気に入らないことしちゃった?」
ごめんね、百合花。
私はひとっつも、苦しくなんてないよ。
だから安心して。私があなたを楽にしてあげる。
今まで本当にありがとう。
「百合花。私もう我慢できない。今から大事な話するね」
「え?」
「純。あなた、こないだ『告られたら誰とでも付き合っちゃうかも』って言ってたよね」
「ん? まあ、言ったが……」
自分で言うのもアレだが、私は記憶力がいい。
大事な人に関しての思い出ならなおのこと。数日前のことも数週間前のことも、つい先ほどのことのように思い出すことができる。
純の言ったことは尚更、忘れていなかった。
かんに障ったからだ。
「言ったのはちゃんと覚えてるって訳ね。じゃあ言質はとれてる」
記憶と共によみがえった怒りもそのままに、純を思いっきりにらみつける。
恐らくだが、今の私はこれまでの人生でもっとも恐ろしい顔をしていることだろう。純はたじろぎ、百合花は突然の出来事に口元を押さえオロオロしている。
そんな恐ろしい形相になるくらいには、本気だ。
「純。あなたが好き。私と付き合って」
あなたにその気がないのなら、こうする他ない。
大好きな人は――私が幸せにしてみせる。
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