彼女と彼とそれから彼女~そして最後は絶対に幸せにたどりつく三角関係~

こばなし

第1話 桃園百合花と砂の城

「男女の友情は成立する!」


 私、桃園百合花ももぞのゆりかは高らかに宣言した。


 5時限目後の休み時間。場所は2年A組の後方扉付近。


「何よいきなり大きな声出して」


 幼馴染の女の子、一ノ瀬一途いちのせいちずが席についたまま、迷惑そうにジト目を向けてくる。


 彼女は黒つやのショートボブと、猫みたいにぱっちりとした目が特徴のとっても可愛い女の子。私は彼女が大好きで、小さい頃からずっと一緒にいる。


「だってほら、私と純って、最高に仲いいじゃん!? ね、純!」


「――ああ、そうだな」


 隣にいる、これまた幼馴染の男の子、宇井ういじゅんと肩を組む。


 決して口には出してやらないけれど、短く刈り上げた短髪が好印象のさわやかなイケメンだ。とてもすてきな好青年だ。ちょっと鈍いところがたまに傷だけど。


 私たち三人はとても仲が良い。


 私と一途は家が近所で、幼い頃から姉妹みたいにずっと一緒。純とも幼稚園からずっと一緒。中学から一途と純も校区が重なり、晴れて三人一緒になった。


 高校も一緒で、もうずいぶんと仲良しでやっている。


 二人とも、私にとって大好きな最高の存在。だから――


「男女の友情は成立する。女と女の友情も、もちろん成立する!」


「……」


 ちょっとかがんで一途の肩に手を回すと、キレイな黒髪のボブカットを「う~ん」と斜めに傾けながらも、私と肩を組んでくれた。


 いや、組んでくれていた。昨日までは。


「……一途?」


 なのに今日は、どこかおかしい。


 ボブカットの黒髪は揺れることなく、日本人形のようにそこに座って微動だにしない。


 私の肩に腕を回し返してもこない。


「なんか怒ってる?」


 肩をゆすっても何も答えてくれない。返ってくるのは沈黙だけ。


「ねえ、一途。ねえってば――」


「ああ~、まったくもう!」


「!?」


 突然、日本人形が立ち上がった!


 ついでに私が無理やり肩に乗せていた腕は振り払われた。それまで微動だにしなかったのがウソみたいに。


「ねえ、百合花。本当にそんなこと思ってるの!?」


「え?? 何、急に」


 突然のことに心臓が高鳴る。バクバクと高鳴って抑えきれない。


「お、思ってるよ? 私、純のことも一途のことも、大切な友達だって――」


「あー、そう」


 一途は突然、日本人形みたいに端正な顔を怒りに歪ませた。もはや日本人形ではなく、阿修羅だ。


「純もそう思ってるわけ?」


「あ、ああ、もちろんだが」


 彼女の怒りは純にも向けられて、私たち三人の空気は一変した。どうしよう。このままでは目を背けていたかったことが浮き彫りになる。


 なんだなんだ、どうしたどうした――と、周囲のクラスメイトからも注目が集まる。


「い、一途、どうしちゃったの?」


「……はぁ。もういいよ。そんなんだったら、もういい!」


「ねえ、意味わかんない。私、そんなに気に入らないことしちゃった?」


 心当たりは、無い――


 こともない、けど。


 ねえ、一途。それって、今じゃなきゃダメなの……?


「百合花。私もう我慢できない。今から大事な話するね」


「え?」


「純。あなた、こないだ『告られたら誰とでも付き合っちゃうかも』って言ってたよね」


「ん? まあ、言ったが……」


 ああ、確かにそんな話をしたなあ。


 純がいきなり『彼女欲しいわー。今告られたら誰とでも付き合っちゃうかも』とか言い出して、それに対して『私というものがありながら!』なんて言ったんだっけ、私。


 で、『百合花は特別だから……』とかバカみたいなことを言うから小突いてやったんだ。


 でもそれは軽い冗談で、いつもの私たちのノリだと思って気にしなかった。


 だから、その話をこの場に持ち出してくる理由が理解できない。というか理解したくない――


「言ったのはちゃんと覚えてるって訳ね。じゃあ言質はとれてる」


 一途は阿修羅の形相から、口の端をあげて一瞬だけにやりと笑った。かと思えば、途端に鬼気迫る表情に変化し、純を思いっきりにらみつけて言った。


「純。あなたが好き。私と付き合って」


 彼女は純に告白した。私の、目の前で。


 作り上げた砂のお城が無惨にもぶち壊されていく。


 2月に入ってしばらく経った、季節外れの生ぬるい風が吹く日のことだった。

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