第21話 消失

 だが男の心配は全くの的外れではないかも知れない。男がモンスターだとしたら、ルインとグラッフェは彼に危害を加えるだろう。


 一方で、男からすると、モンスター扱いされて面白いはずはない。


「別の目的、と言いますと?」


 俺はまだ、ルインらにこの男が怪しいと明確に告げた訳ではない。何とかこの場を切り抜ける方法はないものか。


「この辺りで奇妙な気配がした気がしたのだ。故に俺たちはこの周囲を調べに来た。その一環として、室内を見て回っている」


「そうですか、それではどうぞ」


 どことなく変な気分だが、俺たちは男の案内で部屋の中に入った。男は入口で待機して、俺たちの様子を見ている。


「どうだ?」


 俺は二人にそれとなく様子を聞いた。ルインはどうか分からないが、グラッフェは恐らく俺の考えに気が付いてくれているだろう。


 つまり、男をモンスター扱いせず、距離を置いて判断してほしい。そういう考えだ。


 二人は何事か囁き合う。


「うむ、反応はあるんだが、どうにもぼやけているというか、判断に迷うな」

「姿を隠しているか、化けているか、ってことか?」


 このバカ、とルインを叱り付けようと思ったが、それもそれでよろしくない。


 眼鏡の男はただの優男に見えるが、それは決して違う。どう表現すればいいのか分からないが、その男は色々とやばいのだ。なるべくなら刺激したくない、といった所か。これは俺の本能が告げている。


 そんな中、俺は男が微かな声を漏らすのを聞いた。


「封印……」


 !?


 周囲にはそれとなく張り詰めた空気が漂っている。ハンターの二人は付かず離れずといった具合で部屋を見回り、俺は部屋の中央付近に立っている。


 封印。


 果たしてその言葉が、脈絡なく飛び出すものだろうか。


 すかさず問いただしたくなったが、聞き間違いの可能性もある。


 今はハンターたちに協力しておかなければならない。こちらもこちらで、敵意はないようだが無駄に刺激することもない。


 しかしモンスターか。


 男が化けている可能性もあるが、何か見落としているような気もする。


 モンスター、モンスター……。


「あっ!」


「どうした、何か見付けたか!」


 ルインが急ぎ駆け寄って来る。


「いや、思い出したんだ、モンスターらしきものを」


 思えば、この男の対処に一杯一杯で、例の四つ足の獣のことを失念していた。よくよく考えればあちらの方がずっとモンスターと言える。


 俺は彼らにそのモンスターの特徴を伝えた。しかし、二人の反応は微妙なものだ。


「話を聞く限り、あまり恐ろしく感じねえな。モンスターは人と相容れぬもの。それが肩に乗ったり、大人しく扱われたりと、俺たちが知っているものとは異なる気がするぜ」


 グラッフェもルインの言葉に同意する。


「それに、俺たちは人類の脅威になるようなモンスターを探っているんだ。ほら、探知石も……うん?」


 探知石を見ると、いつの間にか薄い銅褐色に変化していた。


「この色は?」


「周囲に存在が感知できない。つまりモンスターはいない、となる」


 俺はもしや男が姿を消したのではないかと、横目でこっそり男の存在を確かめた。だが、男は変わらぬ様子でその場に立っている。


「姿を消した、ということか?」


「もう少し進んで、存在が消えた、という方がしっくり来る。だが周囲には俺たちだけだ、誰かが討伐したということも考えられない。こんなことは初めてだ」


 グラッフェが冷静な眼差しで言う。門外漢の俺としては何も言えない。


「また、俺たちは探知石に頼らずとも、少しくらいは感覚で察知することも出来る。そちらの感覚でも、もはや周囲には何も感じれない」


 二人の困惑を見ていると、その言葉に嘘はないように感じる。


「なるほど、まあ、それならそれで、俺としては安心だが……」


 どことなくすっきりしない終わり方だが、これでハンター二人がここにいる理由もなくなる。その後、屋敷内に残るだろう男から、彼が口にした、封印の意味をゆっくりと問い詰めればよい。

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