第22話 お礼
「まあ、そういう訳なら、俺たちはこの辺りで去ろうかな。サングラン島の調査は始まったばかりだ。またその内に寄らせてもらうぜ」
そう言うと、グラッフェとルインは玄関口へ向かい始めた。俺と男も見送るべくその後を追う。
ただ、一つだけ奇妙な点がある。
本来なら、モンスターハンターの二人と、男と俺がセットで歩くべきだ。だが、なぜか男はハンター二人と肩を並べるくらいの距離を歩いている。
俺は奇妙な感覚と同時に、嫌な予感がしていた。
男がハンターらに話しかける。
「あの~、もし差し支えなければ、私も同行させて頂けないでしょうか」
なるほどそう来たか。先手を取って切り出されてしまった以上、俺からは何も言及できない。
「何だあんちゃん、俺たちの旅に興味があるのか? 危険と隣り合わせで、俺たちも自分の身を守るのが精一杯になる時もある。自分を守る手段はあるのなら、俺たちは構わないぜ、いつだって人手不足だ」
「はい、以前よりあなた方のような方に付いて回って修行をしたいと思っていました。私も最低限の防御は心得ております」
俺は明朗に語る男を見ながら、確かな直感を得た。
……嘘だな。
とはいえ、これも先と同じで、俺が踏み入る問題ではないだろう。
「ならば良し! いつ、だれがどういう目に会うか分からない厳しい業界だが見返りはある、いざ行かん!」
ルインの威勢の良い声を聞きながら、グラッフェが冷静なトーンで切り返す。
「おっと、その前に名前を聞いていなかったな」
「そうでしたね、私の名はツァルキーア。以後、お見知りおきを」
その言葉はハンターらに向けられたもののようで、しかし俺に向けて語られたようでもあった。
「よし、それじゃロジタール、また来るぜ!」
「面倒をかけた、だが反応があったのは事実だ、気を付けるんだな」
陽気なルイン、慎重派のグラッフェ。自分たちの利益を優先させつつも、俺の身を案じてくれているのが分かる。
「私はロジタールさんに礼を伝えて、向かいます。すぐに追いつきますから、扉を開けたままお待ち頂けますか」
ツァルキーアは落ち着き払っていた。一方、俺は人知れず身構えて彼と対面した。
「一晩、とまでは言いませんが、それでも寝床の礼はしておかなければなりませんね」
「……あなたは一体?」
「今はまだ何とも申せません。あなたの印象が私の予想と違い、私自身も幾ばくか戸惑っております。さて、それではお礼の内容ですが、一度だけ、この屋敷を出ることを可能と致しましょう。よく考えてお決めなさい。それでは、また会う日まで、ごきげんよう」
「あ、ちょ、ちょっと……!」
ツァルキーアは俺の返事も聞かず、振り返ることなく屋敷を後にした。俺はすかさず追い掛けようとしたが、すんでの所で足を止めた。
ツァルキーアの言葉が正しいのなら、このまま玄関を出て、彼らに追いつくことが出来るだろう。だが、慎重に考えなければならない。
俺が屋敷を出られるとして、それが本当に一度だけだとしたら、その権利は封印を解く為に使うべきだ。
結局、俺はその場に立ち尽くすことしか出来なかった。外の風景はサングラン島のそれで、なるほど深い森の中だが、いつもの森とは植生が異なっている。
しばし沈黙が流れた。
さて、これからどうするべきか。
するとその時、不意に扉が動き始めた。かなりの勢いだ。激しい音を立てて戸が閉まる。
そして閉まったかと思えば、再びゆっくりと開いていく。
話し声はなしない。気配もパーミラとシェルフのものではないようだ。俺は警戒しながら、その者が姿を現すのを待ち受けた。
やがて。
「うおっ!」
やや逞しい声が響いた。聞き覚えがあるような、ないような。
「あ、あんたは確か……」
そう、彼はかつてマダイの国から来たリーダー格の男だ。ただ、以前のような頭巾は装着しておらず、顔が露わになっている。そうしていると全く普通の男だ。
「いや、玄関で待ち受けているとは思わず、これは失礼」
雰囲気がどこかおかしいぞ。以前のような敵対心が見られない。
まあ、これだけ広い屋敷があって、その玄関にぽつんと立ち尽くしているのだ、彼が驚いたとしても不思議ではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます