第19話 ハンター
「分かった、私も相手が嫌がらないような犯罪は興が乗らない。故に、仕方なく貴殿の言葉に従ってやろう」
酔うと人間はその本性というか、秘めた感情が出るとも聞く。ならば、この男は自らをきつく隠しているか、もしくは真正のクズか、そのどちらかだろう。
その後、俺は男を奥の部屋に案内して、適当に水を飲ませた。
「よし、寝る」
直後、男は無造作に服を脱ぎ散らし、その場に脱ぎ捨てた。
!?
男の体は傷だらけ、かつ先ほどまでのダボっとした服装からは想像がつかないほどの筋肉だ。
改めて、俺は自らに言い聞かした。こいつは本当にやばいか、もしくは非常に有用な者かだ。とにかく、扱いは慎重に行わなければならない。
俺は男が寝入ったのを見届けると、そのまま玄関口へ舞い戻った。パーミラとシェリフが帰って来た時、物音で彼の眠りを妨げるようなことは避けたい。
時刻は昼過ぎ。早ければぼちぼち二人が戻って来る可能性もある。男が寝ているのは一階の奥だから、よほどのことがなければ眠りを妨げることもないだろう。
だが。
不意に、荒々しく玄関が開く。
二人組の男だ。長い金髪のイケイケ兄ちゃんと、青染みた短髪の冷静沈着なタイプ。熱血の金髪と、冷静な青髪と考えると分かりやすい。
「ひゃっは~、遂に見つけたぜ、幻の生息地! おらおら、早く姿を見せろや!」
「バカ、そんな大声出すと気付かれるだろう、まあ、ここまで追い詰めれば、そんな事も言ってられないか」
「おいおいおい、誰かいる……うわっ!」
俺は反射的に金髪男の腹に衝撃波を叩き込んでいた。もちろん加減はしている、一瞬だけ、ちょっと息が詰まる程度だ。
「てめえ、一体何のつもり……、うん?」
俺は口元に手を当てて、あまり騒がないでくれというジェスチャーをした。
「ほら、怒られたじゃないか」
「いや、様子が違うぞ?」
まずは、いきなり襲われるようなことがなさそうで安心した。
「事情がある。すまないが、少し静かにしてくれないだろうか」
すると二人は顔を見合わせ、ひそひそと話し合う。
「そもそも、秘境にこんな場所があることからして怪しいもんだ。こいつはもしかすると、まやかしの一種かも知れない」
「言われてみればもっともだ。どうする? やるか?」
すかさず二人は戦闘態勢を取った。二人の格好はレンジャーといったところか。いかにも身のこなしが軽そうだ。
「待て待て、まず、諸君らは何者だ?」
「良くぞ聞いた! 俺たちは人呼んで秘境ハンター! 危険を顧みず、ぐいぐいっと食い込む奴らとは、あ、俺たちのことよ!」
「ちょっと誇張があるが、だいたい間違いはない。そういうあんたは一体何者だ?」
「俺はロジタール」
「ロ、ロジタール!?」
二人から同時に声が飛んで来る。その勢いにはこちらも驚くほどだ。
「まさか、何か知っているのか!?」
俺は何となく嫌な予感を覚えつつ、それでも溢れる思いを抑えきれずに尋ねた。
すると陽気な金髪男が、神妙な顔をして言う。
「何だったかな、なんか聞いたことがあるんだよな。あ~っと、この辺りまで出かかってるんだよ、なあ?」
男はふざけているのかいないのか、腹の辺りを指さしながら言う。
これは、もしやツッコミ待ちなのか。だが、もしかすると彼らの世界での常識なのかも知れない。そう考えると、野暮なことをしたくないとも思う。
少しばかり、異様な空気が流れた。
「……」
「……」
「……」
その後、沈黙に耐えかねて、金髪が小声で切り出す。
「いや、ちょっと、俺が困るじゃん?」
「無茶するからだ。私がそういうタイプじゃないっていうのは、もう長い付き合いなんだから分かってるだろ」
「それはそうだがよ、しかしアンタだよ、ロジタールって言ったか? そこ、全然違うやないかい、くらいバシッとぶつかって来いや!」
俺はぼんやりと先ほどの先ほど酔っ払いを思い出していた。
今日はもしかすると厄日なのかも知れない。
えっと、何の話だったか。そうだ、自己紹介だ。
「ゴホン、改めて俺はロジタール。この屋敷の留守番をしている」
「留守番? まあいいか。俺はルイン」
「私はグラッフェ。見ての通り、レアなモンスターを捕獲することを生業としている」
モンスターハンターの二人。無粋な金髪がルイン、知的そうな青髪がグラッフェ。互いに補い合う、いいコンビに見える。
「それで、どのような経緯でここに?」
「そりゃああれだ、俺たちは秘境とされるサングラン島へ到達し、緑深い大地を進んだ。もちろん多くのモンスターがいる。珍しい奴もちょくちょくいたが、それでも、この怪しい小屋の中から、もっとすごい奴の匂いを感じて、扉を開けたって訳だ」
「しかし、どういう訳だ? とてもあの小屋の中だとは思えない。それに二階もあるのか? 訳が分からないぞ」
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