第18話 ヤバい奴
「それで、どうしてあのような事が起きたのですか?」
凄まじい強風と、それに続く爆音。そしてその原因。
俺は二人と別れてからの行動を彼女らに伝えた。
「ふむふむ、二つの異界が間接的に繋がったらどうなるのかを試した、という訳ね」
しかしシェリフは途中で言葉を区切り、はっとした表情を見せた。
「そ、それじゃあ私のダンジョンは!?」
言い終わるが早く、シェリフは玄関へ向かい、勢いよく扉を開け放つ。
「あ、あ、あ……」
そしてその場に力なく座り込んでしまった。何かと感情表現が豊かな奴だ。
「森、だな……」
「森、ですね……」
俺とパーミラは、どう言葉を掛けていいのか分からず、目で見たものを呟くことしか出来なかった。
しかし、それから少し時間が経った後。
「そう言えば、私の家って狭いからさ、こういう屋敷に泊まるのってちょっと新鮮!」
客間で騒ぐシェリフの姿があった。ただただ切り替えが早い、その一言に尽きる。呆れるやら感心するやら、俺たちの方が反応が難しいほどだ。
「配信出来ればバズり間違いないのに。それだけが残念よ」
「そう言えば、結局今はスマホを持っていないだったな」
「そうよ、誰かさんに壊されちゃったから。……でも」
「でも?」
「ま、まあ、今度来た時は徹底的に撮るからね!」
夜も更けた頃合い、俺は自室にてぼんやりと考えてをまとめていた。
そう言えば、結局シェリフとパーミラの二人の会話はどうなったのだろう。色々あって、今日の所は何だか聞きそびれてしまった。
ちなみに、二人は隣同士の部屋で、俺は向かいの部屋になる。
そして謎の生物だが、少し目を離していた瞬間に消えてしまっていた。三人で手分けをして探したのだが見つからず、その日は諦めることにした。
どうせ俺は屋敷を出ることは出来ないのだ。暇つぶしがてら、捜索するのもいいだろう。
そして予想通り、シェリフはパーミラに懐いているように見えた。パーミラ一人で外部の捜索を頼むのも、どことなく心配していたのも事実だ。その点で、シェリフが協力してくれるのならありがたい。
頼んだ時の返事がある。
「仕方ないわね、実を言うと、私もまだ封印について調べられなかったの。一応、お願いしている人はいるんだけどね。で、その間、少し暇だから遊びに来たって訳よ。封印されているあなたの友人には悪いけど、もう少し辛抱してもらってね」
そして朝が来た。
俺は二人をいつも通りに送り出し、ぽつんと屋敷に残った。
さて。
良く分からないが、誰かが来たり、何かが起きるとしたら、大体このくらいのタイミングになる事が多い。とはいえそれをただ待ち構えている訳にもいかず、俺は昨日の謎の生物の捜索も兼ねて、屋敷内をのんびり見て回ろうと考えていた。
すると玄関の方で音がする。
まあ、予想出来ていたことだ。次は誰だ?
俺は早速、玄関に急行した。
「うぃ~、ひっく」
ダボっとした服を着たメガネの男が、千鳥足でホールをふらふらと歩いている。酔っ払いだ。
館内を汚されては敵わない。丁重にお帰り願うとするか。
特に目立った装備はなさそうだ。俺はさっとその男に近づき、声を掛ける。
「お帰りはあちらですよ」
すると、男は座った目で俺を睨みながら言う。
「誰だ!?」
突然怒鳴られて、思わず俺は後ずさりしまった。
「お、俺はロジタール」
「そうか、私は犯罪者」
!?
「犯罪者?」
「そう、犯罪をする者だ。ほらよ、まずは家宅侵入ッ!」
自称犯罪者は、一歩二歩と大股で歩き出した。
やばい、こいつはやばい匂いがするぞ。
「そして、これが器物破損ッ!」
小さく叫びながら柱にチョップをする。生憎と柱の方が強かったようで、男は手の側部を痛めてしまった。
「あいたっ! くそ、変な抵抗しやがって……」
「ちょ、ちょっと……」
「ああ何か盗みたい、おらおら、大事なものを窃盗させろ!」
快方へ向かうビジョンが思い浮かばない。俺は男を強制的に眠らせるしかないと判断した。
どうせ酔っ払いだ、少々のことは忘れる。
俺は男が明後日の方向を見ている隙を突いて、無言のまま、背後から弱めの衝撃波を放つ。
「はっ!」
男の低い声が轟いた。なんと、男は気合を込めると同時に、身をよじって俺の攻撃を躱してしまったのだ。
「な、何だって……」
俺は一瞬、何が起きたのか良く分からなかった。
「ひっく……」
男は依然として、酔っ払いにしか見えない挙動をしている。
偶然なのか、それとも俺のオートガードよろしく、危険を自動的に察知する系のスキルなのか、とにかく判断がきかない。
全てがこれまでにない不気味さだ。敵に回すと面倒な気がする。
男が酔っぱらっているのは明らかで、酔いが覚めたら普通の男に戻るかも知れない。下手に刺激するよりも、それに賭けた方が良いだろう。
ならば、ここはいっそ普通に接してみるべきだ。それに、どこがどう、と明白には言えないが、俺はこの男に興味を抱き始めていた。危険を好むなどという感覚ではない。何か、もっと本能的な感覚だ。
「そういえば、あなたのお名前は?」
「私はロジタール。ははは、虚偽罪だ、どうだ、思い知ったか」
「それではロジタール様、こちらへお部屋を用意しております」
「おお、そうかそうか、ここだったか。ところで、無銭飲食になるぞ!」
「ええ、大丈夫ですよ」
正直に言うと、少しだけ真面目に取り合うのがバカらしいと思い始めていた。どうせ酔っ払いだ、細かい問答は適当にあしらっておくのが正解だろう。
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