第16話 剣舞
「とにかく、屋敷内を無断で撮影されるのは面白くない。彼女に警戒されず、かつ敵対心を持たれないような、良い手は何かないものか……」
シェリフは年齢で言えば十五歳かそこらである。しかもバズり目的の配信者だ。静かに暮らしたいという大人の心理は、今一つ分からないかも知れない。
「話を聞いた限り、彼女の胆力は目を見張るものがありそうですね。マスターの一撃を見ても怯まないとは、恐ろしい少女です」
「うん?」
俺は嫌な予感を感じつつ、横目でパーミラを盗み見る。シェリフに興味を漲らせているようだ。とても年少の娘を見守る目付きではない。
「マスターはこのまま。一つ、彼女を試してみます」
「うん?」
行ってしまった。シェリフに対して何か違和感を覚えるが、それが何か思いつかない。とはいえパーミラを止めたとしても止まらないだろうし、後は成り行きを見守るしかない。
パーミラは女性騎士。シェリフの戦闘力は分からないが、ダンジョン内にはモンスターもいるとのこと。見た目はあれだが、何かしら戦う手段は持っているだろうし、パーミラもやり過ぎることはないだろう。
パーミラが階上から姿を現した。剣を高く掲げたかと思うと、風を切り裂き、剣のきっ先をシェリフへ向ける。
「我が名は騎士パーミラ。屋敷への無断での侵入、その命で償ってもらうぞ!」
思えば俺とパーミラとの出会いも似たようなものだったな。これがモードに入る、ということだろうか。
「えっ、なになに!? そ、そうよ、ロジタールよ。私はあいつのパートナーなんだから! 今日はその話に来たの!」
シェリフが語ったのは、ビジネスパートナーという意味であろう。だがパーミラは少し違った受け取り方をする。
「パ、パートナーだと!? 私を差し置いて……、なおさら生かしておけぬ!」
演技なのか素なのか、ちょっと分からない。不安な気持ちはあるがパーミラなら大丈夫なはずだ、無茶はするまい。
パーミラは階上から颯爽と飛び降りると、予備動作もなくシェリフに斬りかかった。シェリフは表情を引き締め、体を逸らしてそれを躱す。同時に懐から小剣を取り出し、パーミラに向けて突き出す。パーミラは剣の腹で受けて、更に切り返す。シェリフは更に受けて、小さく、しかし鋭く薙ぎ払う。
まるで二人の演舞のような華麗な接戦が続く。俺は感心すると共に、彼らに関して正直な感想を抱いていた。
……強くないか?
思えば、パーミラも含めて二人の戦いぶりを見るのは始めてだ。
俊敏な動作や技のキレを見ていると、マダイの戦士たちとそれほど遜色がない。特にパーミラに関しては、なぜ重ったるい鎧をまとって、ああもキレのある動き出来るのか、不思議でならない。
シェリフのはつらつとした声が響く。
「誰だか知らないけど、やるわね!」
「そちらこそ、見た目に反してかなりの腕前だ!」
ロングランとキリンジを思わせるやりとりだ。剣を交え、互いに認め合う。俺もゲームなんかでは経験があるが、実際にやるとなるとなかなか難しい。思うに俺と彼らとは、色々な物が違うのだろう。
それからも二人は互いの技を試すように、嬉々として剣を振り続けた。
……長くなりそうだな。
だが、そのやり取りを見ていて、俺はようやく違和感の正体に気が付いた。
俺はシェリフが撮影か何かしているのかと思っていたが、良く見るとスマホやカメラらしきものも持っていない。そうなると、さきほどの挙動は屋敷の状況を改めて見ていただけなのかも知れない。
となると、全くの早とちりだ。彼女らを戦わせる理由はない。いや、俺が戦わせた訳でもないが……。
「よし、そこまでだ二人とも!」
俺はなるべく堂々とした所作で、一歩一歩、静かに階段を降りて彼らに近づく。
「あ、ロジタール! っていうことは、このお姉さんも関係者?」
「はい、私もマスターと共にこの屋敷で共に暮らしている者です。あなたのお話を伺っておりました。試すような真似をして申し訳ありません」
「いいよいいよ、私も久しぶりに胸が躍る戦いが出来たっていうか、いい勝負だったっていうか!?」
「はい、こちらもです! やっぱり、こうして剣を交えてみないと分からないものがありますよね」
「うん、そうそう! そう言えば、こないだね……」
この二人、何か波長が合うものをもっているのかも知れない。
「よし、そこまでだ二人とも!」
俺は改めて二人を止めた。こうでもしないと、彼女たちだけの時間で埋められてしまう。二人が仲良くなるのは悪いことではないが、今は俺が寂しい。
「立ち話もあれだろう、奥に部屋がある」
俺は二人を先導しながら、二人にある提案をした。
「シェリフ、話は一度パーミラの方にお願い出来るか? すまないが、俺は少し疲れてしまった」
「そう? 分かったわ」
仲が良くなりそうな二人を引き裂くこともあるまい。また、パーミラには十分な分別がある。俺の立場を理解しながら、しっかりとやってくれるだろう。
だが、理由はそれだけではない。
シェリフの登場により、俺は試してみたいことがあった。二人がいてもいいが、一人の方が都合が良さそうだ。
それは、もし別の異世界同士が同時に繋がった時、何か変化が起きるのではないか、そしてそれを確かめてみたいという好奇心だった。
異世界者同士の交流は、既にロングランとキリンジ・ロトーニャとの間で発生している。だがその時、ロングランの世界に通じる扉は閉じていた。
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