第15話 夜間の再来者

「実力者であっても、森は完全に安全な場所とは言えないのだろう。夜になると、俺たちの知らない存在が徘徊している可能性もある」


「そうであれば、夜間の調査もしておいた方がいいかも知れませんね」


「もしかすると、空間そのものが歪んでいる、といったことはないだろうか。パーミラが見た外の実態が、昨日と今日とで異なっているような、そんな様子はなかったか」


 我ながら奇妙な事を言っているな、と思ったが、もはや確かなものはない。何であれ、疑ってかかった方がいい。


「ぱっと見た感じ、目立った変化はないようでしたが、ディバルドの件とも合わせて、その方向で考えてみる必要もありそうですね。次回はもう少し注意してみます」


「そうだな、俺たちはまだ、事象の何一つも解き明かしていない。そして、更に奇妙な事が起きたんだ」


 俺は魔導士ロングランの出現と、合わせて勇者キリンジと、その恋人の魔王ロトーニャの話を告げた。


「えっ、魔導士と勇者の戦い!? 見たかったです、残念……」


「食いつくのはそこか……」


 パーミラは少しばかり戦闘ジャンキーの気があるのかも知れない。俺は一人で興奮するパーミラを諫め、自分たちの身の守り方について意見を求めた。


「その者の出現は、一階の拡張された範囲でしたね。今後、二階も拡張される可能性がありますが、玄関との中間地点でしたら、そうそう不意打ちを食らう可能性は減るでしょう」


「鍵をかけたり、戸を打ち付けなくても良さそうか?」


「そもそも、玄関口は鍵を掛けていても彼らは来るのでしょう? それならば完全な防衛は無理ではないかと思います。屋敷内にいる限り、常に敵の襲撃を考えておくということで、今までと変わりないのでは?」


「なるほど」


「現状、マダイの王国の者達の存在は気になりますが、明確に敵対している者達がいないのは幸いですね」


「まあな、迷い込んで来るような者がほとんどだ。ただ、その点で確かにマダイの者達は気になる。情報を整理しよう。俺は実際に彼らと向かい合ったから、しっかり記憶できているが、パーミラは俺が言葉で伝えているだけだからな。


 1.配信者シェリフ: 活発な少女。カラフル。友好? 戦闘力は未知数。


 2.マダイの王国の者達: 忍者っぽい男が三人。息の合った連携。敵対。リーダー名は不明、他はガルン、ソール。


 3.古の魔導士ロングラン: 屋敷の留守を預かる前任者。友好? 他の者達は玄関からの侵入だったが、ロングランは一階、左側の奥地から出現。


 4.勇者キリンジと魔王ロトーニャ: 友好? 世界を二分して戦う長同士でありながら、駆け落ちして安住の地を求める。


 5.スローライフ志願者ディバルド: 別の世界か、もしくはこの世界の者かは不明。激戦を経て、静かな生活を求めるように。


 とまあ、こんな所か。ディバルドはパーミラの方が詳しいな」


「そうですね。着古した感じの軽装鎧をまとった長髪の男です。年齢は私たちより少し上のような気がします。落ち着いた雰囲気の中に、並々ならぬ実力を秘めた者です」


 改めて考えてみても、彼らの中に繋がりを見出すことは出来そうにない。


 そして気になる点は人間だけではない。屋敷にも何か秘密がありそうだ。大体、勝手に大きくなるなど言語道断ではないか。


 その後、俺たちは寝床を移すべく、荷を持って一階と二階を何度か往復した。次第に日は暮れ、冷ややかな空気が忍び込んで来る。


「マスター」


 二階へ荷物を移動している時、パーミラが小さく呟いた。


「どうした?」


「何か、空気の流動を感じませんか?」


「うん? いや、特に……」


 そう答えようとした矢先、玄関口で何やら物音がした。俺とパーミラは無言で顔を見合わせる。


「遂に夜にまで現れるようになったか」


「思えば、私は異世界者と出会うのは初めてです」


「誰が来たのか気になるが、それよりも今、君は彼らの到来を感じることが出来たのか?」


「はい、何やら空気が少し、揺れたような気がして」


「そうだとしたら、その感覚は非常に大事だ。しっかり覚えておいてくれ」


「わ、分かりました!」


 俺たちは身を隠しながら、共に階上から玄関を見下ろした。


「あれはシェリフ? しかし様子がどこかおかしい?」


 シェリフは何かぼそぼそと呟きながら周囲を見回している。


「どういう状況でしょう?」


「もしや、臨場感を撮りたい、というやつかも知れない。俺は彼女に配信の独占権を与える可能性を伝えたが、その状況で撮影されたとしても、それは安全性が確認されたものだ。実際には、俺たちのような者にいつ襲われるのかと、ドキドキしている方がエンタメとしては面白いだろう?」


「確かに、敵地での話は聞いていて面白いですよね」


 それはちょっとニュアンスが違う気がするな、と思ったが、全くの的外れでもなさそうなので黙っておいた。

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