第14話 悪魔の勢力

「い、いや、気のせいだったようだ。ロトーニャは茶目っ気があるから、許してやってくれよな、なっ? それじゃ、俺たちはまた新たな新天地を探しに行くとするぜ。またな!」


 二人はそれだけを告げると、玄関を出て外の闇の中へ消えて行った。後に残された俺たちは、それぞれの頭の中で事情を整理する。


 俺は去り際の二人の態度が気になっていたが、この場で深く掘り下げようとは思わなかった。まずは無難な切り口でロングランに言葉を向ける。


「色々と言いたいことはあるだろうが、まずは、この屋敷が異世界と繋がっていることを理解してくれたか?」


「まあな。俺の時代にも魔王や勇者はいるが、あんな軽い奴らじゃない。とはいえ、俺も一時代の勇者と張り合うことが出来たんだ、これは箔が付いちまうな」


 それからロングランは宙を見て何事か考えていたが、やがて静かな口調で切り出した。


「そう言えば、俺が外へ行こうという時にあいつらが来たんだった。何だか出鼻を挫かれた気分だ、俺は一旦向こうへ帰る。休憩して、その内にまた来よう。俺の屋敷も改めて調べてみたい。もしかすると、他にもどこか異世界へ通じている扉があるかも知れないからな」


「ロングランの時代は、だいたい、ここからどのくらい昔の話なんだ?」


「ここより古い気はするんだが、実際の所は分からない。俺の知っている世界だと、今はガルムンダっていう悪魔の大王が暴れている。聞いたことはあるか?」


「ちょっと分からないな。悪魔? モンスターとは違うのか?」


「感覚で言えばさっきのロトーニャみたいな感じかも知れないが、完全に人間とは意思疎通をしないし、モンスターを使役する奴もいる」


「恐ろしい奴らだな。この屋敷に来ないことを祈るよ」


「それはどうかな。近隣に奴らの基地がある。もしかしたら、俺の留守の間に、向こうの屋敷を伝ってこっちに来るようなこともあるかもな」


「物騒なことを言わないでくれよ。……しかし、留守の間、だって? どこか外出するのか?」


 ロングランの立場からすると、これは何気ない質問に映ることだろう。だが、俺にとってその回答は非常に重要だ。封印が屋敷の主人を対象としているのか、それとも俺個人なのかという判断材料になる。


「そりゃあ、独り身だからな。あんたはどうしてんだ? 見たところ、メイドとかも見当たらないが」


 パーミラの存在は隠しておいた方が良さそうだ。思えば、ロングランはいつでも気軽に屋敷内に侵入出来る可能性がある。パーミラの意思を確認しない限り、特に言及するべきではない。


「備蓄がある。とりあえずは何とかなっているさ」


 この男はそれほど深く考えるタイプではなさそうだ、返答はこれで十分だろう。


「なるほどな。まあいいや、じゃあ俺はそろそろ帰るぜ」


 ロングランは軽やかな足取りで奥へ向かった。よくよく考えると危険性を秘めた男だ。ある程度の力量を持ち、しかも、奴の侵入口は玄関ではない。侵入に気が付くことも難しいのではないだろうか。


 本人に悪意がなさそうなのが幸いだが、用心するに越したことはない。俺はロングランの背中を見ながら、複雑な気持ちを抱いていた。


 時刻は昼に差し掛かろうかという所。階上の窓からは光が降り注いでいる。またもや色々なことがあって、頭の整理が追い付かないくらいだ。


 俺は出来合わせのものを食べながら、身の安全の為、ロングランへの対策を考えていた。だが良いアイデアも浮かばず、ぼんやりと天井を仰いで悩んでいた。


 まずは、玄関や一階奥の侵入口から休憩所、寝床を離す必要がある。奴が気配を消して迫って来る可能性もあるが、そればかりはどうしようもない。俺にはオートガードがあるし、パーミラは何とか切り抜けるだろう。


 とにかく、パーミラと協議が必要だ。と、そう考えていた所に、ちょうどパーミラが戻って来た。


「ただいま戻りました」


「おかえり、何か進展はあったか?」


「いえ、ただ、何と言うか……。ディバルドを探していたのですが、見付けられませんでした」


「スローライフ志願者というのだから、遊牧民みたいにブラブラする部類じゃないのかな、特に気にすることでもないだろう」


「昨日はしばらくそこに留まるようなことを言っていたのですが、何か心変わりでもしたのでしょうか」

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