第12話 奇妙なカップル
俺はそれらしく言葉を作っただけなのだが、ロングランは思いのほか、この言葉に感銘を受けたようだ。
「ほう、奥ゆかしい。なかなか礼儀のある男だ!」
「あなたに試してもらえれば、俺がそちらに行く必要もないだろう。あなたが改めて屋敷内を見て回って、またこの扉をその方面から開けてみてくれ」
俺はそう言って扉を閉ざした。周囲に静寂が染み渡っていく。
……。
静かだ。
しかし、どうして俺がこんな色々なことに巻き込まれなければならないのだろうか。
そもそも俺は一体何者だろう。
元の世界。それがいつの事かは分からないが、その生活は覚えている。社会に揉まれながらも、ようやく社会に馴染み、同時に嫌気が差していた頃合い。このままでいいのだろうかと不安に沈みながらも、目の前の課題をこなしていく毎日。
そんなかつての生活に思いを馳せていると、再び眼前の扉が開いた。
「……確かに貴様の言う通りのようだ」
ロングランの短い言葉の中には、深い感想がこめられているようだった。
「予想通りで、俺も悔しいやら嬉しいやら分からない」
「しかし、一体なぜこのような事が起きたのだ? そうだ、外も見てみよう」
再びロングランは俊敏な動作でその場から動き始め、ホールへ向かい始めた。しかし、俺はある懸念を思い出し、ロングランに声を掛ける。
「外へ出るのは構わないが、魔物がいるぞ!」
ロングランの屋敷がいつの時代に存在するものかは分からない。そもそも時間軸というより、全くの異世界の類かも知れない。とにかく、彼の世界とは違うはずだ。
「魔物だと!?」
「そうだ、魔物だ」
しかし、俺が実際に知っているのは、あの木の化け物くらいだ。
また、パーミラは昨日、低級な魔物と出会ったと言っていたが、それが実際にどの程度なのか分からない。パーミラにとって低級でも、俺やロングランがどう感じるか予想もつかない。
だがロングランは怯むことなく、むしろ気焔を吐く。
「なぁに、望む所だ。そもそも俺は魔道の道を究めんと森に足を踏み入れた。そこで修行をしようと思ったが、そんなもので本当に強くなれるのかと疑問に思い始めていた折、老人と出会って屋敷の留守を任されたのだ」
「まあ、それなら止めはしないが」
突き放すようで悪いが、それが俺の意見に違いない。変に体裁を繕っても仕方ないだろう。
しかし、ロングランが意気揚々と玄関に近付くと、不意に扉が開いた。
「うわっ、何だ何だ」
ロングランの賑やかな声が響く。
彼の体と扉まで数メートル。扉の向こうは真っ暗で、まだ来訪者たちの姿は見えない。
ロングランは途端に表情を引き締めて後退する。
「どうした、何が見えた?」
「気配はあるが、姿は見えない。向こうも警戒しているのだろうか、いずれにせよ、かなりの手練れだ。留守を狙いに来た奴らかも知れん、気を付けろ」
ロングランの言う通り、その点で俺たちの目的は一致している。一応、留守番としての名目がある以上、屋敷を好き勝手にさせる訳にはいかない。
ただ、まずは相手を見極める必要がある。誰それと問答無用で排除するのはよくないだろう。
「ちょっとダーリン、誰かいるみたいよ」
暗闇から、甘ったるい声が聞こえる。続いて。
「そうだなハニー。大丈夫、誰が来ようが、俺っちが退治してやるぜ」
そのやりとりを聞いた俺とロングランは、軽く視界を交え、ここで初めて協力の意思を示した。
問答無用でやってもいい時がある。
「おいロジタール、俺たちのことは一時休戦だ!」
「ああ、やってやろうぜ!」
それにしても奇妙な風景だ。屋敷内の窓からは日光が差しているというのに、玄関扉の先には暗闇が広がっている。ただ、そのことに言及している暇はない。俺たちは闇の中から何者かが登場するのを待ち受けた。
やがて二人の男女が姿を現した。赤色の長髪を持つ剣士風の男と、額に角を生やした褐色の肌を持つ女だ。
「むさくるしい男が二人いるよ、ハニー」
「そうね、ダーリン。どうにかしてちょうだい」
「あいよ、お安い御用だ」
剣士風の男が一歩前に出る。
「よく分からねえが、相手はやる気みたいだな。奴は俺が引き受けるぜ、力の使いどころを探していたんでな」
こちらもロングランが一歩前に出る。同時に俺は一歩身を引く。
ロングランは口こそ悪いが、根が悪い奴ではない。直情的な所はあるが、それだけに行動が読みやすい。こういう時は是非とも矢面に立ってもらおう。
剣士が静かに構えた。ロングランもまた、懐から木製の杖を取り出し、相手に正対する。
「へい、そんなちっぽけな杖で俺っちを倒そうっていうのかい」
「先代に継ぐ先代が魔力を篭めたものだ。これの凄さが分からないというのなら、所詮、貴様はそれまでの男よ」
二人の勝負がどうなるのか、全くと言っていいほど予想が出来ない。それだけに野次馬根性が湧いて来ないと言えば嘘になる。
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