第7話 マダイの戦士たち

 今度は何なんだ。


 玄関口に戻ると忍者のような服装をした三人の男がいた。


 それぞれが細身の剣を携えている。背格好も似通っており、遠目に見ると全く同じ三人のようだ。


「出たか!」

「出たな!」

「出たぞ!」


 俺が姿を見せると同時に、三人が続けざまに叫んだ。その三つ子のような者達は、俺をきつく睨み付けながら、剣を構えて正対している。


 忍び装束のように、地味な鼠色の上下に身を包み、頭巾の色だけが違う。それも鈍い赤、青、茶色とどれも視認性は良くない。一応はそれで個性を分けているのだろう。


「待て待て待て、一体、諸君らは何者だ?」


 物々しい雰囲気を前に、俺は張り詰めた空気を和らげようと、努めて落ち着いた声を発した。


「問答無用、我々はマダイの戦士! それだけで分かるだろう、その首、もらい受ける!」


  一人が叫ぶと同時に、三人が一斉に行動を開始した。斬りかかることに、一切のためらいを感じさせない勢いだ。話し合いは無理そうだ。俺は防衛を試みた。即ち、奴らに向かって衝撃波を放つのだ。


 地味だとしても、俺はその技に絶対的な自信を持っている。というより、武術が使える訳でもなし、それしか技がない。


 三人は一直線になって、左右に怪しく揺れながら迫って来る。それはまるで一人の人間のようであった。ここまで息が合っている様を見ると、ただただ感心するばかり。


「だが、訳も分からない内に、おいそれと命を渡す訳にはいかない!」


 俺は彼らに向けて手をかざし、勢いよく衝撃波を放った。だが。


「行くぞ、ガルン、ソール!」


 先頭の男の号令で、三人が衝撃波を避けつつ分散した。一人が高く飛びあがり、残りは左右に分かれる。まるで一気に三人に分裂したように見える。


「覚悟!」

「覚悟!」

「覚悟!」


 声のユニゾンが発動する。正に一瞬、目にもとまらぬ連携であった。三人が同じ勢いで左右と上段から迫り来る。たった一度の油断、そして慢心が招いた俺の最大のピンチだった。


 だが。


「うおっ!」

「ぐわっ!」

「むうっ!」


 俺自身、予想さえしていなかったことが起きた。どうやら、自発的に、俺の周囲に衝撃波が放たれたようだ。領域を展開した、というと我ながらカッコいい。


 それはバリアのように瞬時に俺を包み込み、触れた者を勢いよく弾き飛ばした。


 空へ飛びあがっていた者は、辛うじて受け身を取って着地したが、他の二人は低い軌道で地面に叩き付けられた。それだけでそれなりのダメージだ。


「おのれ、オートガードとは卑怯な……!」


「不意打ちをしておいて、何という言いざまだ。こちらに交戦の意志はない、一体何が目的だ」


 相手側がクールダウンして来たのを受けて、俺は彼らに語り掛けた。


「知れた事を。貴様によって封じられた、我らが王子の封印を解く為よ!」


 男が叫んでいる間に、倒れていた二人が身を起こし息を整えていた。だが、そんなことを気にしている場合ではない。俺は咄嗟に叫ぶ。


「ふ、封印だと!? 今、封印と言ったのか!?」


 男の一人が、小さく困惑した。


「あ、ああ、そうだが……」


「そ、それはどうやったら解けるんだ!? 俺を助けると思って教えてくれ!」


 せっかく掴んだチャンスだ、これを無駄にする訳にはいかない。すると、彼らは彼らで一様に戸惑い始めた。


「おい、何か様子が変だぞ」

「いや、これは高度な作戦に違いない」

「いずれにせよ、今は引くのが賢明だ」


 三人の意見がまとまった所で、リーダー格の男が俺に向き直る。


「国内には貴様の討伐依頼が出ている。俺たちを破ったとして、それはただの破滅への序章に過ぎない。以降、刺客の陰に怯えて暮らすんだな!」


「待ってくれ、何かの誤解じゃないか。俺はそんな国も知らないし、全く身に覚えがない。そしてなんだ、俺を倒せばその者の封印が解けるのか!?」


「訳が分からないことを言う奴だ。仕留められなかったのは残念だが、今日の所は引いてやろう」


 リーダー格の男が煙玉のようなものを投げ付けたのを合図として、三人は連れ立って玄関口から立ち去っていった。


 後には沈黙が残った。煙がうっすらと晴れていく。窓から差し込む日差しが柔らかく館内を包みこみ、俺の興奮をそっと解いていった。


「一体、何がどうなっているんだ……」


 追放された騎士パーミラに慕われる。

 ナメクジ配信者シェリフに脅される。

 王子の為に戦うという、マダイの戦士たちに命を狙われる。


 昨日今日の出来事だ。当然ながら、どれも身に覚えがない。恐らく、彼らは彼らで、互いに全く関わり合いを持っていないだろう。何より、温度差から意欲、世界観まで全く異なっている。


 とはいえ、俺に出来ることは相変わらず屋敷内の調査くらいだ。俺は再び玄関に背を向けたが、すぐに何者かの到来を感じて振り向いた。


 次は何だ、と思いつつ振り向くとパーミラがいた。


「お、おお、パーミラか」


 しかし、見知った顔を見て安心したのも束の間。パーミラの様子は尋常ではなかった。体のそこかしこに傷を負っており、本人の息遣いもわずかに荒い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る