第6話 ナメクジ配信者
「ごめんけど知らないわ。でも、アタシは知らないけど、他の冒険者たちなら何か知っているかも」
「そうか、まあ、何か分かったら教えてくれ。しかし、配信者っていうのは儲かるのか?」
「うっ……、私のような新米ナメクジ配信者は雀の涙だけど、一攫千金の世界だからね。明日は何があるのか分からない、それが魅力!」
「でも、死ぬかも知れないんだろう?」
「まあ、その時はその時よ。人間、誰だって死ぬ時は死ぬでしょう?」
潔い考え方だ。俺はこれまで、どちらかと言えば慎重な人生を歩んで来た。結果はどうあれ、自分にあった生き方だったと思う。その点、全く正反対に生きているこの少女がどこか魅力的に映った。
ただ、話していて疑問に思うこともある。
「シェリフ、その扉を開ければ、君が来たダンジョンが広がっているはずなんだな?」
「そうだけど、何よ」
屋敷の入口とダンジョンが繋がったというのなら、俺の封印はどうなるのだろう。屋敷の境界線が曖昧になり、ダンジョン内部まで邸宅内と判断されるとしたら、俺もダンジョンに足を踏み入れることが出来るかも知れない。
「いや、見てみたいと思ってな」
俺は少し緊張していた。封印がどうということもあるが、何よりダンジョンがどういうものなのかという興味もある。
「別に面白いものでもないと思うけど……。まあ、ちょうどいいわ、私もここに長居していても仕方ないし、早く帰って作業したいから、そろそろ帰ろうかな。あ、さっきの独占権の話、忘れないでね!」
「ああ、そちらも封印に関する情報集め、頼んだぞ」
そうして俺は彼女を玄関まで送り、そして彼女に扉を開けさせようとした。
俺が鍵を開けた時のように、それを行った者の動作がトリガーになる可能性もある。俺が扉を開けた所で、無表情な森が広がっているだけかも知れない。そう思うと、俺は扉に手を掛ける気にはなれなかった。
俺はシェリフが扉を開ける様を眺めていた。だが。
「あ、ちょっと待ってくれ!」
何か変だ。俺は違和感を覚えて、シェリフの動きを制止した。
「どうしたの?」
「何か聞こえないか」
耳を澄ますと、小さいが扉の向こうから話し声がする。
「あら、こんな低級ダンジョンにこんなに人がいることなんて無いのに……。しかも、私は五階でこの扉を見つけたの。五階っていうとレアアイテムもモンスターも特にない、ただ通り抜けるだけの所よ」
「一体何が起きているんだろう」
「それは開けてみなきゃ分からないよ。……開けるよ?」
俺は小さく首を縦に振った。
シェリフがおそるおそる、外を覗き込むように扉を開ける。
「大丈夫、ダンジョンだよ。でも、確かに声が聞こえる」
「シェリフを心配して、集まったんじゃないか?」
「えっ、こんなナメクジ配信者を……!? どうしよう、もしかしたらバズっちゃってるのかな!? 有名な冒険者なんかもいるかも!」
「俺はスマホを狙ったが、見ている人にとってはシェリフがやられたように映ったかも知れない。そんな危険、低級ダンジョンでは考えられないことなんだろう?」
「そうかも! 誰もがネタを探っているからね! そうなると、こうしちゃいられない。ここは私だけが入れる屋敷なのよ! さあ、見つかってしまう前に早く出ましょう」
シェリフが先に薄暗いダンジョンへ向けて飛び出す。俺もそれに続こうとしたが、やはりというか抵抗があった。
出られないのだ。
くそ、やはりだめか……。
シェリフに下手な警戒を与えない為にも、俺は何でもない風を装って声をかける。
「いや、やはり俺はこの屋敷にいよう。また、情報が手に入ったら戻って来てくれ」
「そ、そう、急に? でもまあ分かったわ、それじゃあね!」
シェリフは特に名残を惜しむ素振りもなく、そのまま飛び出していった。薄暗い中、階段を進む小さな足音が遠ざかっていく。
俺は扉を閉めた。するとどうだろう、途端に外の物音が止んだ。再び扉を開けると、なるほど外には明るい光が満ちて、視界一杯に木々が広がっている。
「まだ始まったばかりだ。焦っても仕方がない」
俺の今のゴールは封印を外す事だ。その後はまだ決まっていないが、この世界の探求ということになるだろう。開拓するべき世界は広く、俺自身が何者かということも調べなければならない。
それから俺は屋敷の調査を再開するべく、再び屋敷の奥へ向かった。昨夜は到着した時には既に薄暗く、疲労もあって、あまり調べる気にならなかったのだ。
屋敷は二階建て、部屋は全部で十以上はあるだろうか。玄関口から入るとホール正面に階段があり、左右にドアがある。奥には廊下があって、様々な部屋に繋がっている。その造りは一階、二階ともにそれほど変わらない。
改めて、一つ一つの部屋を見て回ってみよう。
基本、室内には最低限の調度があるばかりで、特に目立ったところはない。そうして見て回ることしばらく。
うん?
再び玄関口で音と気配がした。先ほどのシェルフのように慎ましいものではなく、どことなく荒々しい。
あまりいい予感はしないが、まずは向かうしかない。
俺は再び玄関へ急行した。
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