第4話 ビビットカラー
さて、不安はあるが、未開の地を行く、というのは男子であれば心が躍るものだ。俺は心機一転、館の扉を開け放ち、記念すべき第一歩を踏み出そうとした。
……はずだ。
何か様子がおかしい。
「マスター?」
パーミラは昨夜の内に、俺に付いて来ることを決意し、マスターという呼び方に変えていた。
しかしそのマスターの名がさっそく折れかけている。
俺は玄関でもがいていた。体が屋敷内部から引っ張られているように、扉の先に出ることが出来ないのだ。
「ぐおおおぉっ!」
抵抗してみたが、まるで歯が立たない。せいぜい鼻先や指先を外に出せるくらいだ。そしてその抵抗は激しく、反比例どころではない勢いで、俺を館内に引き戻す。
「はぁ、はぁ……」
「これは、もしかするとマスターが屋敷に気に入られたのか、もしくは誰かしらに封印されてしまったのかも知れませんね」
「……ふ、封印だって?」
「ただ、ここまで強力かつ即効性がある場合には、対象、つまりマスターが何かしら自分で動いて、その為のトリガーを発動させる必要があると思うのですが、心あたりはありますか?」
実を言うと、パーミラが何を言っているのか、すぐには理解出来なかった。封印というと、よくある悪魔や、強大な魔王なんかの行動を封じるものだ。何故俺がそのような目に会わなければならないのか。
しかしその疑問はそれ。現実と向き合わなければならない。
俺は必死に昨夜の出来事を思い出す。そして。
「あっ……」
何かを頼まれて行ったことと言えば、恐らく開錠という作業だ。そのくらいしか思い当たる節がない。
鍵を開けて館に入る。それが封印の手法だとしたら、俺は自ら封印される為にこの場所へ飛び込んだ。全く、何ということだ。
俺はパーミラに前後のいきさつを話した。昨日は重要な事ではないと思い、あまり話していなかったのだ。
「なるほど。私の場合は、玄関口に鍵など掛かっていませんでした。昨日も引っ掛かりましたが、その老人が怪しいですね」
「思うに、見た目と動き、声が不釣り合いだった。変装かも知れない」
いくらか判断材料に欠けるが、黒幕とでも言うべき者はあの老人に違いあるまい。
昨夜に感じた俺の違和感、不快感は、封印された時の反動なのだろう。
差し込む日光を眺めながら、俺はこれからの事を思案した。
そもそも、俺はこの世界についての知識がない。封印されてしまったとして、それを解決することが第一だが、それ以外にも知らなければならないことは多い。また、パーミラ自身も迷い人のようなものだ。お互い、この周辺の状況の理解を必要としている。
「パーミラは外出出来るんだな。すまないが、予定通りに周辺の偵察を頼む。怪しい者には気を付けて、身の安全を第一に考えてくれ」
「分かりました」
俺はまだ、自分が封印されてしまったなどとは考えたくなかった。
パーミラを見送った後、再度、この屋敷内から抜け出ようと頑張ってみた。玄関口から手を伸ばしたり、裏口へ回ってみたり、二階に上がって窓から身を乗り出してみたり。だが悲しいかな、どれをしても全く結果は同じだった。
「本当に、封印されてしまったのか……」
なぜ俺が封印などされなければならないのか。何か原因があるとしたら、解除法を探ると同時に、その原因も考えていかないければならない。
だが、どうやって? 何をどうすればいい?
短い時間とはいえ途方に暮れていると、階下で何やら物音がした。俺はパーミラに何か異変が起きて、急いで戻って来たのではないかと思いつつ、再び玄関口へ踵を返した。
「おおお、これはこれは……」
奇妙な声がした。パーミラではない。女性の、それもやや幼い響きを持つ声だ。
俺は階上からそっと玄関を見る。すると何やらオシャレな女子がロビーの辺りをうろついていた。
服装は黄色や赤といったビビッドなもので、髪は鮮やかな青色。手にはスマホ。
俺はてっきり、この屋敷は辺鄙な所にあると思っていた。それこそ森の奥地だと思っていたが、近くに人間たちの集落があって、その者が迷い込んだのか、もしくは撮影に訪れたのかも知れない。
ただ、待てよ。
パーミラがあの騎士のような格好で、その女性はいかにも現代風。俺はどことなく不審な空気を感じつつ、階上からその者に呼び掛けた。
「おい、そこの者よ、何をしている?」
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