第65話 善悪問答
俺の名前は人呼んでアイアンソルジャー。
俺は戦地で瀕死の重症を負って、実験により鋼鉄の体にされてしまった。こんな体にした世界全てを憎み、軍を脱走した後に志を同じにする手下を引き連れて軍施設などを強襲。悪名高いヴィランとして名を馳せた。
しかし、それもどうやら終わりらしい。いつもの様に軍基地の襲撃中に、ライオンの仮面を被った全身タイツのムキムキマッチョヒーローがやって来て、鋼鉄の俺の体を完膚なきまでに砕き、俺の命はもう尽き果てようとしていた。このまま死ぬのはつまらないので、このヒーローであるマイティライオに一つ言葉を投げ掛けてみることにした。
「さぞ気分が良いだろうな……お前等は悪い奴なら誰を何人殺しても良いんだから、この大量殺人者」
俺達は悪の名の元に人殺しをして、コイツ等は正義の名の元に人だった物を殺す。この事に何の違いがあるのだろうか?理由はどうあれ人殺しには違いない。
これに対してライオは仮面に反響する声で、こう答えた。
「俺は別に正義とか悪だからとか知らんよ、ただお前等が良い人まで殺そうとするから、場合によっては殺さないといけなくなるだけだ。俺を正義と区分するのは不愉快だからやめてくれ。決めつけられると反吐が出る」
これは予想もしない答えが返ってきた。正義のヒーローとは思えない発言である。
「お前は悪を倒したいから正義のヒーローしてるんじゃないのか?」
「そんなイカれた大義名分知るもんか、俺はお前等がやり過ぎてムカつくから、お前等を止める為にヒーローやってるだけだ。正義だの悪だのくだらない。そんなの人の主観によっていくらでも変わるじゃないか。己を正当化すれば正義、開き直って悪ぶれば悪。俺にとって大して変わりは無いね」
「じゃあ、お前は何か?別に正義とか悪とか関係無く、人殺しをする輩に腹が立つからヒーローやってるのか?」
「そうだよ。いっそスーパーパワーなんて与えられなければ、憤りを感じているだけの男で居られたのに、お前等を止めることが出来る様になったら、そりゃ出来る範囲で止めたくなる。まぁ、大概の場合はやり過ぎて殺してしまうから、どうせ俺も地獄生きだろうな。地獄でまた会おうぜ」
マイティライオがこんな男とは知らなかった。普段は寡黙で無口のイメージがあったのだが、そんなイメージすら俺の勝手な決めつけに過ぎなかったのだろうか?
今更自分の生き様に後悔なんてありはしないが、この男の様に、こういうスタンスで生きるのも悪く無いと思えた。
いよいよ最後の時が近づいてきたので、俺は最後のお願いをしてみることにした。
「なぁ、後生だから仮面を取って顔を見せてくれないか?」
「何処で誰が見ているか分からないから嫌だ。俺にも生活があるんでな」
「……つれない奴だな。まぁ良いか。お前が死んだら会おう」
「あぁ、死んだら会おう」
こうして俺の波乱に満ちた一生を終えることになった。
正義だの悪だの人が勝手に決めた倫理観だが、善悪の問答はこれからも続いて行くことだろう。
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