第42話 子嫌い日記
我は子供が嫌いである。
嫌いというか苦手というべきだろうか?どう接して良いのか分からない。自分が昔子供であったことが信じれられないぐらい未知の生き物である。
ギャーギャーとファミレスなどで金切り声を上げている子供を見る度に眉をひそめてる自分が居た。更にそれを注意もせずに、素知らぬ顔してご飯を食べている親を見るとテーブルをドンと叩きたくなる。
しかし、結婚をして妻と生活をすると、自然と子供は出来るものである。妻は子供が好きであった。
ある時、妻はこう言った。
「君は子供が苦手かもしれないが、自分の血を分けた子供だ。自然と好きになるさ。」
最愛の人のその言葉にすら首をかしげる我。確かに分けたのだろうがそんな大そうな実感はあまりない。あまりかしこまって言われると溜息の一つもつきたくなるではないか。
休日に妻が出掛けるというので、赤子(♀)の世話を頼まれた。渋々承諾したがどうなることやらと肩落とした。
「だぁだぁ。」
赤子はハイハイで部屋中を這い廻っている。そんなことして体力の無駄とは思わないのだろうか?猿の様な顔を見ていると思考があるのかすら疑わしい。
ミルクのやり方、オムツの替え方はレクチャーを受けているのでその点は心配ないが、相変わらずどう接して良いのか分からないので、少し離れたところから見守ることに徹する。それが最善であり、この距離間こそ私と赤子との適切な距離感であろう。
幸いにも赤子はあまり騒がないタイプなので、私の読書の邪魔をすることは無いだろう。これなら夏目漱石の『こころ』を久しぶりに読み直すことが出来そうである。
「だぁだぁ。」
読書も一段落して我が休憩していると、それを見計らったかのように赤子がコチラに向かって来た。この赤子、もしや気を使っていたのだろうか?いやそんなことあるまい、気を使うのはもう少し成長してからだろう。よって偶然ということで片づけることにした。
まぁ、近づいて来たのを邪険にするのもいかんだろう。ネグレクトなんて阿呆な輩にだけはなりたくないしな。
我は赤子を抱きかかえて、興味本位で暫し赤子を観察してみることにした。
やはり猿の様な顔付きで、手足は小さすぎて怪我をさせそうな気がして触れるのが怖い。顔のほっぺはプニプにとしており、つつくとクセになる弾力である。少しだけ抓ってみようか?痛くない様に右手でそっと。
“ぐにっ”
・・・思いのほか力が入ってしまった。大丈夫だ赤子は強い。この程度では泣かないだろう。
「ひっく、ひっく。」
あれ?泣きそうである。いや大丈夫。君は強い子であるはずだ。
「びえええええええええん‼」
泣いちゃった。私はパニックになりそうだったが、とりあえず深呼吸を一つして、ありとあらゆる玩具を使って赤子の機嫌を取ろうとした。しかし、赤子は一向に泣き止もうとしない。困った私はとうとう伝家の宝刀を出すことにした。前に妻にやって一時間笑い転げた伝説を作った変顔である。
「はい‼」
掛け声と共に変顔を作る我。すると赤子の顔が見る見るうちに笑顔に変わった。
「きゃっきゃっ♪」
そうであろう、そうであろう。あまりに面白い顔で妻が過呼吸気味になった私の変顔である。泣く子も黙るに決まっている。
それから妻が帰って来るまで赤子との関係は良好であり、子守唄を歌って寝かせることにも成功した。
「どうだった?少しは子供のことを好きになったかい?」
帰ってきた妻が我にこう聞くので、私は少し考えた後、素直にこう答えた。
「達成感があり、有意義な一日だった。またこういう機会を設けてくれれば、二人の関係は更に良好になるだろう。」
「ふーん、そうかい。」
意味ありげに笑う妻。何故笑われたのか皆目見当もつかないが、次に娘に泣かれた時用に新しい変顔を開発することにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます