第41話 タヌキングのパルプフィクション

俺の名は松下。殺し屋だ。

相棒の相田とツーマンセルの殺し屋で、相田の運転で今ターゲットの家に向かっているんだが、やはり相棒との良好な人間関係を築くためには、適度な会話が必要だよな。

だから俺は助手席から、いつも話し掛ける様にしている。


「なぁ、相田。お前許せねぇことってあるか?」


「なんだよ藪から棒に。」


「いいから、お前の絶対に許せねぇことを教えろよ。」


「うーん、そうだな。画家の山下清って居ただろ。」


「あー居たな。テレビドラマ見たことあるわ。絵は見たこと無いけど。」


「前に美術館でアイツの作品を見たことあるんだが、アイツはスゲー、貼り絵にしろペンで描いた絵にしろ本当に体がブルっちまう程に素晴らしいんだ。焼き物まで焼いてるんだぜ。俺は天才って本当に居たんだなって思ったね。」


「お前、美術館なんか行くのか?」


「話の腰折るんじゃねぇよ。そこはどうでも良いんだ。」


「悪かった、悪かった。それで話の続きは?」


「知り合いに山下清の貼り絵のポスター持ってる奴がいてな、お前も山下清好きなのかって聞いたら?そうだって答えたんだ。でもそいつは実物の絵を見たことが無いって答えやがった。」


「それの何がいけねぇんだ?」


「いいか?山下清の貼り絵の凄いところは立体的に見えることなんだ。千切った色紙を一枚一枚貼り付けてるから絵が浮き上がって見える。俺は貼り絵を横から見て感嘆の声を上げたね。でもポスターはプリントしてある紙だから平面なんだよ。つまり山下清の絵の20%も再現出来て無いんだよ。そんな絵を見て山下清の貼り絵が好きなんていう奴とは縁を切ったね。」


「なるほどな。確かに知ったかはいけねぇな。」


「あー、思い出しただけでムカムカして来た・・・で、お前の方は絶対に許せねぇことあるのかよ。」


「俺か、そうだなぁ。ベタなんだけど結婚マウント取ってくる奴が許せねぇ。」


「ほぉ、どういう風な奴だ?」


「結婚は良いぞ、どうして結婚しないんだ?相手が居ないのか?ゲイなのか?なんて根掘り葉掘り聞いてくる奴はぶち殺したくなるね。てか二人ほど殺したわ。」


「ははっ、そいつは傑作だ。」


「結婚=幸せなんて、どうしたって俺は思えないのさ。子供は煩いし、一人の時間は取れないし、金も無くなるし、良いことなんて一つも無いじゃねぇか。」


「確かに言えてる。」


「子供が可愛いから幸せなんて言ってる奴は、自分を自分で洗脳してるんだよ。だって他にメリットなんてねぇんだから。お前等がどれだけ苦しもうが知った事じゃねぇが、俺もその仲間に入れようとするから腹立つんだ。だからムカついて俺も引き金を引いちまうってわけよ。」


「あはは、中々痛快な話だな。」


相田と仲良く話している間に(ダジャレじゃねぇぞ)、ターゲットの家までたどり着いた。いよいよ仕事が始まるが、やっぱり相棒ってのは腹割って話し合える相手じゃねぇと背中を預けられねぇよな。





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