第40話 呪いのビデオを見る
先日、呪いのビデオというやつを友人から貰った。
友人は最初は渋っていたが、私の熱意に負けて、とうとう私に呪いのビデオを授けてくれた。
興味本位というやつだが、もし死んでしまった時の為に遺書は書いたし、人生に悔いは無い。まぁ感覚的には、この世で生きる事より、知的好奇心の方が勝ったという認識にしておいてくれ。
さて問題のビデオを見てみるか。
・・・長方形の立方体。それが最初の印象だろうか?
タイトルのところに『爆乳未亡人、電車痴漢3』と書かれていたので、おそらく元はAVのビデオなのだろう。爆乳、未亡人、痴漢と結構盛り過ぎであるな。私はもう少しシンプルなモノが好きである。
三日間、呪いのビデオを見たり、手で触れて見たりして過ごしていたが、まったく私の周囲に何の変化も起こらない。世にも奇妙な物語のデレデレデン♪デレレデーン♪という音楽も掛かって来ない。
私は何かを間違えてしまっているのだろうか?
問題解決の糸口を掴む為、ビデオをくれた友人に電話をかけてみることにした。
「もしもし、私だ。一向に私に死が訪れないんだが。」
『おかしいな?そんな筈は無いんだがな。見た奴は100%死んでいる。どうやって見てるんだ?』
「いや毎日ジーッと眺めてるよ。愛着すら湧いてきた。」
『ん?テレビ画面を眺めてるんだよな?』
「・・・何の話だ?ビデオを見たらという話だっただろ?テレビが何の関係があるんだ?」
話が微妙に噛み合わない。これは友人と私の間に何かの齟齬があるらしい。
『まさかお前、それをビデオデッキで再生して映像を再生しないで、ビデオ本体を眺めているだけなのか?』
「当たり前だ。ビデオを見るということはそう言うことだろ。第一ウチにビデオデッキは無い。」
「・・・はぁ、お前なぁ。やっぱり変わってるよ。言わなかった俺も悪いかもしれないが、大抵の人はビデオを見るといえば、ビデオの映像を見るんだよ。」
「何?そうなのか?」
それは初耳である。間違った日本語が流行るとこういうことになるのだ。生き辛い世の中になったものだ。
『とにかく、ビデオの映像を見ないと呪いは発現しない。』
「しかしなぁ。ビデオデッキ買う金が無いしなぁ。このまま頑張ってみるよ。」
『えぇーーー・・・・まぁ、お前がそれで良いなら止めはしないが、とにかく頑張ってくれ。』
「任せておけ。」
友人との電話を切った後、私は再び呪いのビデオと向き合うことにした。今日は話し掛けてみよう。
「なぁお前さん。どうにかしてくれないか?私はお前の呪いを見てみたいんだよ。」
「・・・。」
呪いのビデオは何も語らない。ビデオだから口をきけないのか、それとも私のことが嫌いなのかは分からない。
こうなったらとことんやってやる。
私は呪いのビデオと寝食を共にすることにした。
用事があれば一緒に出掛けるし。二人でテーブルを囲んでご飯を食べた。お風呂も一緒に入ったし。寝る時も枕元に置いて「おやすみ♪」と親しみを込めて眠った。
そんな生活をしていたら、私は不思議な体験をした。
気が付くと真っ白い空間に居て、目の前には真っ白い白装束を着た、黒い長い髪の女が立っており、ギョロっとした目で私を睨んでいるのである。女性に見つめられるというのは男性としての誉れであるから光栄なことだな。
「あ、あんた、いい加減にしなさいよ。ビデオデッキ買うつもりがないなら他の奴に呪いのビデオを渡しなさいよ。」
そんなことを言い出すということは、もしやこの女が呪いのビデオに住み着く悪霊だろうか?ふむ、女性だったとは知らなかった。
「残念だがそれは承服しかねる。私が譲り受けた呪いのビデオだ。呪いというのをこの目で見るまで他の人に渡したくない。」
「なんでだ‼じゃあビデオデッキ買えよ‼ビデオデッキで映像を再生しないと、呪いは発現しないんだよ‼テメーの友達も言ってただろうが‼」
ヒステリックに怒り始める悪霊さん。女のヒステリックを優しく宥めるのが男の仕事と相場が決まっている。
「落ち着き給え。怒りからは何も生まれない。あと私は金がないからな、ビデオデッキは買えんよ。ない袖は振れぬ。」
「ムキ―‼いい加減にしろー‼」
「やれやれ、このままでは会話も困難だな。また日を改めて話すことにしよう。シーユーアゲイン。」
「あっ、ちょっと、待って‼」
目を覚ますと妙に清々しい気分で、カーテンから差し込んだ日光が気持ち良かった。
何か夢を見ていた気がするが内容は全く覚えていない。
私は傍らに置いてある呪いのビデオを見ながら、おはようと声をかけた。
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