第27話 魔王の膝に子猫ちゃん
「そろそろ時間ですね。」
魔法使いのマホちゃんがそういうので、時計を確認すると時刻は12:58分、もうすぐ魔王の定時連絡が空に映し出される頃である。
僕は勇者ユウ。伝説の勇者の末裔である僕は、ある日王様に城に呼び出され、魔王を倒して正解を救ってくれと言われた。
正直、自信は無かったけど、かの暴君である王様の命令である。断れば一族みんな皆殺しにされてしまうだろうから、僕に従わない道は無かった。
というわけで男戦士のセン、魔法使いのマホちゃん、女僧侶のリョウちゃんを引き連れて旅に出たわけだけど、旅は過酷を極め、僕らは何度も何度も死にかけた。
多忙かつ、いつも死と隣り合わせの旅の中、僕らの顔からは笑顔が消え、喧嘩も絶えなくなっていったのだが、最近は敵である魔王の毎日の定時連絡によって癒しを得ている。
えっ?何を言っているか分からないって?そうか、敵である魔王の定時連絡がどうして癒しになるのか、初めて聞く人にはよく分からないのも当然かもしれない。
実は最近魔王が黒い子猫を飼い始めて、これが可愛いんだ。
“ブォン‼”
いつも通り、原理は分からないが大空をスクリーンにして映し出される女魔王の姿。今日も装飾の凝った大層な椅子に座って、ふんぞり返っている。ハイグレレオタードにマントという奇抜な格好でも許されるのは、魔王が長髪の美人で、胸が大きくスタイルが良いからだろうか?
いやこんなことは今更どうでも良かった。今は魔王の膝にチョコンと乗っている黒猫のクーちゃんに注目である。クーちゃんはお昼を食べた後で眠たくなっているのか、魔王の膝の上で丸くなって寝ている。ありていに言えばギザカワユス♪
「やぁ、勇者の諸君。砂漠の中で行軍とは大変だな。そのまま息絶えてくれるとコチラとしては嬉しいのだが。フハハハハハ♪」
「な、なにおーーー。ゆ、ゆるさんぞ魔王ーーーー。」
口ではそう言い返したものの、可愛いクーちゃんを凝視して魔王が何を言っているのかも半分しか理解出来ない。砂漠の熱さも、吹雪の冷たさも、クーちゃんの可愛さの前には無力である。
「フフッ、まだ強がりが言える元気はあるみたいだな。しかし、いい気になるもの今の内だ。貴様らがこの間、死力を尽くして倒した四天王の一人ザビスは、四天王の中でも最弱の・・・。」
「ミャア。」
あっ、クーちゃんが起きた。可愛い背伸びしてる。
「可愛いなぁ。なぁマオちゃん。」
「そうですねセンさん。リョウさんまた写真撮ってるんですか?」
「そ、そりゃそうよ。推しの写真はいくらあっても足りないからね♪」
クーちゃんを好きになったおかげで、僕のパーティの仲も改善された。ゆえにクーちゃんには感謝しても感謝しきれない。
「クーちゃん♪起きたの♪可愛いねぇ♪」
魔王もクーちゃんが起きたことで我を忘れたのか、すっかりデレデレの顔になってクーちゃんの体を撫で始めた。もう親バカであることを隠すことも無い。
最近、魔王って実は良い奴なんじゃないかと思い始めた。
だって猫好きに悪い奴が居るわけ無いし、魔王が砂漠地帯に植林とかオアシスを作ってくれたという噂も最近聞いた。
もしかすると王様は早とちりして魔王討伐を僕たちに命じた可能性もあるかもしれないので、魔王に会った時に話し合いもするのも一つの手である。
クーちゃんの飼い主を倒すのも気が引けるしな。
「ニャア♪」
クーちゃんが魔王の顔を舐め始めたので、今日はこの辺でサヨウナラー♪
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