第19話 この世はポニーテール天国

俺の名前は沙羅部 烈土(さらぶ れっど)。冴えないメガネ男子高校生であるものの、フェチに全てを捧げる男である。

そのフェチというのが女性のポニーテールである。とにかく俺はポニーテールが好きだ。風に揺れる馬の尻尾の様な髪が好きで仕方ないのだ。


ポニーテールをしている人のうなじも、首の後ろも勿論好きで堪らない。

位置も上であろうが下であろうが、長かろうが短かろうが、少し乱れて数本髪の毛が出ていようが、その全てを愛している。前世は馬に関する仕事をしていたに違いない、きっと馬のお尻を見て興奮していたのだろう。前世の俺はエッチな男である。


ツインテールも悪く無いが、ツインだと、どっちのテールを見て良いのか迷いが生じる。俺は集中できるポニーテールが良い。一途な男なのだ、ツインテール好きな世の男性よ、私を責めないでやってくれ。


ポニーテールは世に溢れている。高校生に社会人、主婦に至るまで年齢に応じて色々な姿を見せてくれるのもポニーテールの醍醐味である。

長い髪をまとめやすいからというのもあるのだろうが、俺からすればどんな理由であれポニーテールが増えるのは良いことである。国もポニーテールを推奨すれば、もっとポニーテールが増える事だろう。そうすれば一本一本のポニーテールをウォッチングすることで一日が終わってしまうかもしれないが、それもポニーテール好きに生まれた性だと思って諦めるしかあるまいて。


「よう、烈土。今日もポニーテールをしげしげと眺めているな。」


学校への登校中、俺の肩を後ろから叩く女。この女は長身、長髪を持つ永井 輝(ながい てる)という女であり、俺の幼なじみであり、俺のフェチを知る数少ない女である。


「別に誰に迷惑を掛けているわけではないから良かろう。俺に構うな。あっちに行け。」


「相変わらず酷い男だな。幼なじみとはいえ、女子に声を掛けられるなんて幸せなことなんだぞ?」


知った事か。俺にとってポニーテールじゃない女なんて、ハッキリ言ってアウトオブ眼中である。早く何処かに行け。


「しかし、そんなにポニーテールが良いモノかね。試しに私も束ねてみるか。」


「バカが、ポニーテール一日にしてならず。貴様なんぞの付け焼刃のポニーテールなど邪道だ邪道。修行して出直して来い。」


「まぁまぁ、そう言わずに。一目見てみろ。」


ふん、そこまで言うなら見てやるか。

永井は後ろ髪を両手で束ねており、疑似ポニーテールをしている状態だ。

永井のお尻まで伸びた髪が束ねられ、意外と見事なポニーテールに・・・。


「お、おい、鼻血出てるぞ!!」


「へっ?」


俺は驚いた。自分の鼻から血が出るなんて、キーゼルバッハを傷付ける行為は何もしていないのだが、もしかすると永井のポニーテールを見たことに対する体の反応なのか?確かに悪く無い。というか今まで見た中でも、かなり上位に位置するポニーテールなのかもしれない。今までコイツのことを女として見ていなかったが、今はこんなに胸が高鳴るとは、これもポニーテールのなせる技なのだろうか?


「な、なぁ、これを機に本格的にポニーテールのならないか?へ、ヘアゴムやるよ。」


何で俺がヘアゴム何て持っているのか?そこは突っ込まないでほしい。


「うーん・・・。」


暫く永井は長考する。迷うことはない筈だ。お前にはポニーテールの明るい未来が待っているのだから。さぁさぁ、髪を一本化するのだ。

だが俺の想いとは裏腹に、永井は髪を束ねるのを解除してしまった。

その瞬間、俺は反射的にチッと舌打ちをしてしまった。


「ふふふっ♪残念そうな顔をしているな♪私をポニーにしたければ、お前も頑張るんだな♪」


楽しそうに俺を笑う永井。なにくそ、俺は必ずこの女をポニーにしてみせる。その日が来るのをせいぜい待っているがいいわ。

この日から俺と永井との、残りの青春をかけたポニーテール合戦が始まった。


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