第17話 不老不死の猫

私はちょっと変わった黒猫らしく、不老不死。

ゆえに200年程旅を続けている。不老不死の猫が一つの場所に留まるのは、あまり好ましい事では無いだろう。


「あー猫さんだ。」


そう言いながら五歳ぐらいの人間の子供が私の頭を撫でて来る。雑な撫で方だが許してあげよう。何せ子供のやることだ。

こんなに幸せそうな子供も居るのに、国を越えれば飢餓に苦しむ子供、戦争で命を落とす子供も居るのだ。本当に人間というのは愚かである。

とある国で私は飛行機の爆撃に当たったこともある。酷く痛かったが不老不死なのですぐに怪我は治った。私の様に不老不死なら良いのだが、人間の命は一つきり、一発の爆弾で大勢の命が死ぬことだってあるわけだ。

平和を謳歌する国もあれば、戦争で悲惨な国もある。同じ地球に住んでいるというのに格差や貧富の差が生まれるのは、憐れを通り越して滑稽である。

一説によれば戦争で利を得る者も居るらしいが、だとしたら余程の無神経な業の深い人間だろう。中々に恐ろしい。

私は様々な人間を見て生きて来て、無感動、無感情になっていった。何かを見て一喜一憂することに虚しさを感じ始めたからである。幸せそうな人を見れば、違う国では酷い目に遭っている人のことを考えてしまうし、酷い目に遭っている人を見れば人生の無情を感じる。ゆえに何も考えていない方が楽なのである。

人間はあと何年繁栄するのだろう?光と影が色濃く分かれるこの生き物の行く末を、私は旅をしながら気軽に見守っていこう。


「猫さんじゃーねー♪」


手を振りながら五歳児が母親の元に帰って行く、再び会う事は無いし、会ってももう気付くことも無いだろう。

せめて、あの子の行く末に幸あれ・・・なんて台詞は言いたくない。あの子が幸せになることで不幸せになる人間が出てくるかもしれないからだ。

私は傍観者、誰の幸せも祈らないし、誰の不幸せも望まない。

さて次は何処に行こうか?

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