第13話 死の宣告

高校生の僕は、死神から今日死ぬのだと宣告された。

最初は黒いローブを着た怪しい女の言うことなんて誰が信じるかと思ったが、実際に車に轢かれてみると、信じざるを得ないな。

体感で5,6メートルは飛んだだろうか?体の節々が痛く、力も抜けていくみたいだ。

あぁ、これで死ぬんだと思うと、一つだけやり残したことがある。

それは幼なじみの女の子に愛の告白をすることだった。

互いに好きということが分かって居るのに、互いに素直になれず恋人になる事が出来なかった。だが死を目の前にした今なら僕は素直な言葉を彼女に言う事が出来るだろう。まぁでも、目の前に彼女が来ないことにはそれも叶わない。


「翔太君‼大丈夫⁉」


と、ナイスタイミングで現れる加奈子ちゃん。僕を抱きかかえて目には涙をためている。これはきっと神様が僕にチャンスを与えてくれたのだろう。ここで言えなきゃ男が廃る。


「か、加奈子ちゃん、僕は君のことが好きでした。恋人になって下さい。」


「えっ?嘘?・・・嬉しい、喜んで。」


恋人になって下さいと頼んだのは僕だが、僕が死にそうなのに嬉しそうな顔をする加奈子ちゃん。付き合えたとしても数分もすれば僕は死んで・・・。


「あっ、すいませーん。前見てなくて。」


軽い感じの第三者の声、僕はそちらに視線を向けると、自転車に乗って白いヘルメットを被った中学生の学生服を着た男の子が見えた。


「すいませんじゃありません‼でもグッジョブ‼アナタが翔太君を轢いてくれたおかげで私達付き合えたの♪」


「それはおめでとうございます♪」


ん?ちょっと待て。もしかして僕は自転車に轢かれたのか?そういえば体は痛むが、力は元に戻って来た。僕は自分の足で立ち上がり自分が生きているのだということを実感した。

じゃあ、僕に死を宣告した、あの黒いローブの女は何だったのだろうか?




天空より下界の様子を覗き込む黒いローブの女は、一人でほくそ笑んだ。


「自転車に轢かれたの予想外だったけど、無事に付き合えるようになって一安心ね。」


そう言うと黒いローブを脱ぎ捨て、女は背中の大きな白い羽を広げた。

彼女の名はキューピット、男女の恋を結びつけるのが仕事である。

多様化の時代に伴い、彼女も色んな手を使って男女を結びつける様になったわけである。


「でも死神の真似なんかしたのバレたら、神様から怒られるだろうなぁ。」


そんな独り言を言いながら、次のターゲットの元に向かうキューピットであった。


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