第15話 その力の源
仙波の攻撃を喰らい、天井から落ちてきたラピスはベチャっと潰れたカエルのように動かない。
それを見たギョエンが焦ったように叫ぶ。
「ふ、ふざけるな! 妹がどうなっても良いのかぁ!? 立てラピスゥ!!」
(む、妹? …人質かのぅ?)
そんなギョエンの台詞に反応し、ラピスは震えながらも立ち上がる。
だが、その目は焦点があっておらず、ブツブツと独り言を呟いている。
「妹…ラズリ……ラズリはアタシが……らなきゃ……」
◇
ラピスは龍人が多く住むヒワデという国の出身である。
ラピスには双子の妹がいる、名をラズリといい姉妹は親の顔を知らない。
産まれた時にラピスもラズリも片方の角しか生えておらず、忌み子として奴隷商に売られそこで育てられた。
幸いその奴隷商は真っ当な商人であり、商品であるラピスとラズリは最低限の食事は取らせてもらい育っていった。
そして程なくしてラピスには闘気があることがわかった。
幼くも自分の才を理解し、この力で唯一の家族である妹のラズリを守ると決めた。
奴隷商もラピスの才を見抜き、高額の売値が付けられ、買取は出来ずとも短期護衛などで貸し出す事で商品としての価値を高めていった。
奴隷商の元で戦闘奴隷として過ごす日々、だがここメグラの街に来てラピスの運命は変わる。
ラピスの噂を聞き付け、その強さに目を付けたギョエンが奴隷商を脅し、自分の命には変えられない奴隷商はラピスを破格の値段でギョエンに売ることになったのだった。
だが、売られる際ラピスはギョエンに条件を付ける。
「アタシは闘う。でも妹は身体が弱い、アタシが勝ったら妹に薬を与えてくれ」
そうして、ラピスは妹の為にギョエンに従う事になる。
ギョエンの切り札として数々の仕事を行なった。
ラピス自身も闘技は嫌いではなくむしろ自分に向いていると思っていたので苦にはならかった。
そして、多くの商売相手やそれが雇った闘技者と対峙してきたが、殺しには手を染めていなかった。
ギョエンは殺せと命令するがラピスは理由なく殺す事を拒否。その度に制裁を受けたが、妹の為それを甘んじて受けていた。
このまま自分が従っていれば妹は無事で、身体の弱い妹の為に薬も与えられる。
今まで闘ってきた者達の中には強い奴もいた。
怪我もいっぱいしたし、痛い思いも沢山してきたがラピスは妹の為なら何だって出来たし、妹を思うと力が沸いてきた。
だが、今かつてない窮地に立っている。
◇
「アアアアアアアアア!!!!」
ラピスは吠え、勢いよく立ち上がる。
焦点のあっていなかった目には力が戻っている。
いや、むしろ先程よりも力が漲っている。
何よりも、その身体を覆う闘気が目視でわかるほどに分厚く輝きを放つ。
(これは…なるほど、馬鹿げた膂力の正体はこの異常な闘気ということじゃな…)
ラピスは疾る。
仙波に対して全てをぶつけるかのような打撃。
まともに喰らえばそこで間違いなく終わる。そんな凶暴な打撃を仙波は受け流す。
先程よりも鋭く速い、その為全てを躱すのは困難であり仙波は力を逸らし直撃は避けていた。
(受け流した手が痺れる…これは長く保たぬ…)
少し大振りになったラピスの右を避け、担ぐように一本背負で投げ飛ばす。
だがラピスは空中でくるりと反転し、しなやかに着地をし、再度仙波へと向かう。
そこで仙波は後ろにいるラグを見て、口を動かす。
ラグは仙波と目が合い、一瞬驚愕したがすぐに動き出した。
ラピスはラグへは目もくれず、仙波を倒す為に再び仕掛ける。
だが、相手がいくら人外の膂力といえど、仙波とて前世で地上最強であった者。
その技量の差は力だけでは覆すことは叶わない。
受けに回っていた仙波は隙を見てラピスに攻撃を加える。
普通の打撃ではラピスの闘気に弾かれる。だから仙波コンビネーションの中に軽い浸透勁を混ぜ合わせて徐々に効かせていた。
発勁は貯めが長く隙も大きい、その為勁が通る前に硬直を狙われる事がある。
仙波が喰らったのは正にそれだった。
今は極力隙を無くして通常の打撃に織り交ぜている。
数分後。
あれほど猛威を振るっていたラピスの動きも精彩を欠き、最早ダウン寸前のボクサーのよう。
仙波は一瞬階上を見やり、すぐにラピスの首に腕を回し足を刈り床に抑え付けた。
「うぅ…ヒック…アタシが、守らないと……」
「これ、泣くでない。妹はこちらの手にある」
「…えっ?」
ラピスは涙を流しながら悔やんでいると仙波からそう告げられた。
「良くやったラグ殿。やはりお主只者ではないのぅ」
「いや、センバ殿の人使いが荒いんすよ。いつ気付いーーーいや、いいっすわ、とりあえずこの娘で良いんすよね?」
「恐らくな」
階段の上からラグが少女を担いで降りてきた。
その少女はラピスに似た顔立ちをしており、ラピスとは反対側に角が伸びている。
そして薬か何かの副作用かぐっすり眠っていた。
それに気付いたギョエンが叫ぶ。
「んなっ!? テメェどうやって!? 部屋の前には部下がいたはずだ!」
「あー、いましたけど今は眠ってるんじゃないすかね。あと、ついでに別の部屋からこんなものも見つけてきたっす」
ラグはヒラヒラと封筒を掲げる。
それを見たギョエンは焦りから汗が吹き出す。
「そ、それは!? 返せ、殺すぞ!!」
「いやー、元々こっちが目的だったっすからね。返すわけにはいかないんすわ」
「くそっ!」
ギョエンは懐からナイフを取り出してラグへと襲いかかろうとする。
「うわー、怖いっす。センバ殿助けて」
「まぁ、よかろ」
いつの間にか仙波はギョエンの後ろに居た。
既に拳を引き、いつでも打ち出せる体勢になっている。
「まっ、待て! 金か? 金なら…」
「往生せい」
この日ギョエンファミリーは壊滅した。
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