第13話 殴り込み

「ここがギョエンファミリーとやらの根城か」


 時刻は夕方を過ぎ、夜に差し掛かろうとしている時間帯。

 暗い路地を進むと、大きめの建物が目に入る。

 建物の前には、見張りだろうかガラの悪そうな坊主頭の男が所在なさげに立っていた。


「あのぅ…センバ殿。本当に行くんすか?」


 不安そうに仙波に尋ねるのはシロガネフ邸から着いてきた若い騎士の1人でラグという名前だ。

 何かしでかしそうな仙波に気付いたソイファがつけたお目付役である。


「いかにも、さぁ行くぞ」


 軽い足取りでギョエンファミリーの建物に近づく仙波とラグ。

 それに気付いた見張り役の男が誰何する。


「なんだテメェらはここがどこだか知ってんのか?」

「知っておるよ。ワシらはカチコミじゃ」


 そう答えると同時に男の顎を掌底で払う仙波。

 男は脳が揺さぶられ膝をつく、すかさず腕を取り背中側に捻り上げ拘束は完了した。


「イテェ! おい! 放しやがれ!」

「これ、あまり強引に動こうとするとポキっといくぞ?」

「え? うそ? イテテテ」


 仙波が忠告すると、男は大人しくなる。

 そして、仙波は男に注文する。


「お主にはここのボスのところまで案内してもらう」

「なんだと!? イテェッ! わかった、わかったからそれ以上捻るな!!」

「ほぇ〜、すごいっすね」


 ラグは仙波の慣れた手並みに感心し、同時にこの人いつもこんな事やってんだろうな。とも思った。


「ラグ殿、何か?」


 仙波が振り向いて尋ねる。

 心が読める化け物か何かか。とラグは背中に冷たい汗をかきながら「何でもないです…」と回答。

 もう何も考えずにラグは仙波の後をついていく機械と化した。


 そんなやり取りをしつつもカチコミは進行する。


 見張りの男に扉を開けさせると、建物内にいた屈強な男達がこちらを見る。

 見張りの男が捉えられているのを見るや、怒号。

 最早誰が何を言っているのかわからないが、口汚い言葉だろう。

 仙波は見張りの男をラグに預けると前へと進む。


 それなりに広いエントランスには見える範囲で15人ほどの男達がいた。

 見張りを預けられたラグがしっかりと背中に回した腕を掴み、キチンと固定するために手元を見た一瞬。

 ほんの一瞬だった。目を離して戻したら仙波の周りに3人倒れていた。


「は?」


 ラグが呆けている間も男達は襲いかかる。

 仙波はそれを順番に正確に素早く無慈悲に意識を刈り取っていく。


 顎への打撃。


 向かってくる男達が仙波とすれ違うと面白いように倒れていく。

 15人制圧するのに10秒程度。

 流れ作業で簡単にこの場を制圧していた。


「さて、ボスはどこかの?」

「ほら、答えろ」

「イデデ、さ、3階だ。3階の部屋にいつもボスはいる」


 見張りの男がそう答え、仙波はフロアの奥にある階段を見た。

 すると、上から誰かが降りてくる。


 神経質そうな痩躯の男。

 一目見て上質だとわかる衣服を身に纏い、階段をゆっくりと降りてくる。


「お前ら…やってくれたな」


 コイツかギョエンで間違いないだろう。

 ラグは、後はコイツを片付けて違法行為の証拠を見つけて終わり。さぁ、センバさん、やっちゃって下さい。

 そんな楽な気分で仙波を見た。


 だが、仙波は今までが嘘のように警戒を強めた表情でギョエンを見ていた。


 いや、正確にはギョエンの隣にいる人物を見つめている。

 階段を降りてきていたギョエンの隣には年端もいかぬ少女がいた。

 この場にそぐわぬ明らかな異物。


「女の子…なんでこんなとこに?」


 ラグはそう口に出したが、すぐに普通の女の子ではない事に気付く。

 歳はセンバと同い年くらいだろう。

 背は低く150cmと少し、クセのある燃えるような赤い髪をした少女。


 ただ、人間ではない事が分かる。


 その瞳は爬虫類を思わせる縦長の瞳。

 その腕には鱗のような物がついており、体躯に見合わない大きな手。

 何より左の顳顬近くから一本の角が生えていた。


 片角の龍人。


 それがギョエンの連れていた用心棒だった。


「なぁ、ギョエン。今日はコイツらをやっつければ良いのか?」

「そうだ。頼んだぞラピス」

「任せろ!」


 ラピスと呼ばれた龍人の少女は階段の中ほどから跳躍する。

 階段から仙波までの距離は10mは離れていただろう。その距離を助走なしで跳んだ。

 異常な身体能力。


 そして、ドンという着地音と共に仙波と相対する。


「アタシはラピスって言うんだ。お前達、悪い奴なんだろ? ぶっ飛ばしてやるから覚悟しろよ」


 鋭く尖った八重歯を剥き出しに、快活そうに笑いながら自己紹介をするラピス。


「ワシは仙波宗一という。お主はラピスというのか良い名じゃの」

「お前、変な喋り方だけど、良い奴だな。でもギョエンがお前らを倒せっていうからゴメンな」


 ラピスがちょっと困ったように言うと、対する仙波は何も問題無いとばかりに言う。


「気にするで無い。倒れるのはお主じゃからな、いざ尋常に勝負といこうか」

「へぇ、アタシを倒すのか? 面白いなお前」


 空気がビリビリと震えていると感じたラグはその場から動けずにいた。

 超巨大な猛獣が自分の目の前で縄張り争いを今から行うかような空気。

 ラグは絶対に抗えない災害を前に考える事を放棄した。



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