第12話 金貸と用心棒

「今日こそ払ってもらうからなぁ!!」


 そう言って怒鳴り込んできたのはガラの悪そうな二人組、給仕の少女は慌てて奥へと引っ込んで行き店主と思われる人物を連れてきた。


「おう、居たな。約束の金を払ってもらおうか」

「そんな…何度も言ってますけど借りた金は返したじゃないですか……」


 奥から出てきた店主は少女と同じ獣の耳があり、父親なのだろう。少女を後ろに隠しつつ応対する。


「だーかーらー、こっちも何度も言ってんだろ? 利子だよ、利子」

「契約書にはそんな事一言も…」

「あぁん!? こっちの契約書には書いてあんぞ? テメェのサインだってあるんだよ!」


 後から付け足したのか、それとも何かの技術か、双方の持っている契約書の内容が違う。

 一目見ると、金貸の方が何か悪さをしてるようだと仙波は感じた。

 部外者である仙波がここでしゃしゃり出ると事態が余計に混乱しそうな為、ひとまず様子を見る事にした。


 続けて金貸の方が自信たっぷりに店主に告げる。


「なんだったら裁判したっていいんだぜぇ? だが移住してきた獣人と長くこの街に住んでる人間。どっちの方が信用あるのかなぁ?」

「そうだ、アニキの言う通りだ! 借りたもんは返すのが筋だぜ!」

「しかし…今はとても…」


 すると、アニキと呼ばれた男の方がニヤリと笑いながら言う。


「まぁよ、俺達もよ鬼じゃねぇ。金が無いならよ、この土地で良いさ。な? 優しいだろ?」

「そんな…この土地と店の為に金を借りたのに……」

「仕方ねぇよなぁ。金がねぇならそうするしかねぇ。でないとよ、その可愛いお嬢ちゃんが大変な事になっちまうかもしんねぇ」


(これは酷いのぅ、幼な子を盾にするとは。しかし、ワシがずっと守ってやるわけにもいかんし…)


 仙波は考えてみたものの上手い解決方法は思い付かなかった。

 が、黙って見過ごすのも目覚めが悪い。

 しかし、1つだけ、仙波の得意とする解決法があった。


 圧倒的な暴による解決。

 組織毎潰して仕舞えば良い。

 どうせ他にも悪い事をいっぱいしているだろう、潰した方が世の為人の為なのでは無いか?

 うん、きっとそうだ。そうしよう。


 思考時間は約2秒。


 若返った事による作用かは分からないが、大分脳筋な仙波は立ち上がり、男達の後から話し掛ける。


「店主よ、飯はまだかのぅ」


 さっき食べたでしょ。と言われそうな物言いで、未だ出てきていない食事を催促する仙波。

 当然、この状況で会話に割り込んできた仙波に対して男達は突っかかる。


「オイ、なんだテメェ。ガキは引っ込んでろ」

「ワシは飯を待っておる。未だ届いておらぬ。何故かわかるか?」

「あぁん!? 知らねぇよ!!」

「お主達が騒いで店主がここにおる。ということはワシの飯を作る人は今厨房にはおらぬ。ワシの飯の邪魔をしているのは誰だと思う?」


 そう言い放つと仙波は二人組の手の指を握り、捻りあげる。

 痛みにより、飛び上がらんばかりにつま先立ちをする二人組。


「イデデデデデ!! テメ、殺すぞ!!」

「ヤ、ヤメロ! 放せ!! イテェ!!!」


 そのまま2人の指を握りながら店外へと歩いていく仙波。

 外に出ると握っていた両手を勢いよく合わせる。

 その動きに連動して二人組は頭と頭をぶつけて倒れた。


「これ以上邪魔をするなら、その腕使えなくしてやろうかのぅ」

「くっ、くそ!! 覚えてろよガキ!!」

「ま、待ってくれよアニキ!」


 典型的な捨て台詞を吐き、逃げていく2人を見送り、仙波は店内へ戻る。

 すると、店主が頭を下げてきた。


「助けていただきありがとうございます…しかし…いえ…何でもありません。食事ですね、すぐにご用意を」

「あー、店主よ。お主が気にしているのはアヤツらの報復じゃろ? その辺憂いが無いようにワシがしようと思うんじゃよ」

「え? あの、すみませんお客様はまだ子供なんじゃ…」

「まぁ、色々あってなワシの心配はいらん。食事を食べながら話を聞かせてもらおう」


 店主は訝しみながらも、仙波に食事を用意しポツリポツリと事情を話した。


 金を借りたのはギョエンという金貸。

 元々、別の街にいたのだが、商売の為に治安が良いとされるこの街へやってきて、たまたま入った食事処でギョエンと相席した際に色々話を聞いてもらい、流れで金を借りたとの事。


 最初は信用できると思ったのだという。

 だが、徐々に返金の催促が厳しくなり、返したと思ったら利子があるという。

 今までなんとか返せる額を返し続けてきたがもう限界近くなっており、もう店を畳むしか無いと思っていたところに仙波が居合わせたということらしい。


「ふむ、ギョエンという名か。なるほどのぅ、まぁ何かの縁じゃワシに任せてみんか?」

「え、いや…」

「お客さんがアイツらやっつけてくれるんですか!?」

「おう、お嬢ちゃん。ワシに任せておけ」


 そう言って店を出た仙波はシロガネフ邸へと戻る。

 すると、ちょうど良くソイファがいた。


「ソイファ殿、少し良いか?」

「センバか、早かったな。何かあったか?」


 仙波はソイファにギョエンについて尋ねるとどうやら聞いた事があるようだ。


「ギョエンファミリーか、最近良く聞く名だな」

「何処にいるか知っておるか?」

「確か…二丁目の奥に店があったと思うが、何をするつもりだ? 何をするつもりだ?」

「住み良い街作りの一環じゃな、掃除みたいなものじゃよ」

「良くわからんが、気を付けろよ」


 最近、強い用心棒を雇ったという噂がある。とソイファは言った。

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