第11話 人材発掘

 イジリーケ家からの書状には5名とあるが、シロガネフ家にいる闘技者は仙波とソイファの2人だけ。


「それは…こちらが普通より少ないのかの?」

「違う! 逆だ。考えてもみろ、闘技者は正に一騎当千の猛者なのだぞ、信用に足らぬ者を抱え込んだ挙句、何かの拍子で裏切られてみろ。その家は皆殺しになる」


 実際に信に値せぬ者を多く雇った貴族が当主含め家族全員殺されるという事件があったらしい。

 確かに、当主を殺した後騎士に囲まれたとて余裕を持って抜け出すことは可能だろう。


「元々、我が家にはソイファとその師の2人だったのだ。だがソイファの師は老体でな…既に引退しておる」

「師匠は今年106歳になる。前世含めお前よりも年上だ」


 106歳…なるほどそれは引退して然るべき年齢だろう。

 ソイファ1人では全てに対応が難しく、仕方なくムガドを雇った。が、ムガドは信用に足りるはずもなく、ソイファには負担をかけるがこれ以上ムガドを置いておくわけにもいかなくなった。

 そんな時に仙波という拾い物をしたのだった。


「センバ、ここ数週間お前の様子を見たが問題はない。使用人からの評判も良い。ちと、鍛錬し過ぎの傾向はあるがな」

「ソウイチ、貴方また木人形壊したり、練兵場を穴だらけにしたりしてないわよね?」

「その節はすまんかった…」

「ンンッ、話を戻すが、闘技者が足りん。現状、センバとソイファが勝利したとしても、最低でも後1人欲しい。当初は知り合いの貴族を当たるつもりだったが」


 ジルコアはそこで言葉を切り、隣に座るエスメラルダを見る。

 エスメラルダは1つ頷くと、自慢げに身体をそらしながら仙波へと命令する。


「ソウイチ、探してきなさい」

「探す…? え? ワシが?」

「そうよ、貴方なら見たらある程度の闘技者としてのセンスみたいなのわかるでしょ。探してきなさい」

「いや、それは相手が強いかどうかはわかるが…完全な素人から…」

「いいから行きなさい。10日で見つからないなら他をあたるわ」


 仙波の言葉を遮り、エスメラルダが告げる。

 上司からの無茶振りであった。


 ジルコアの執務室をあとにし、廊下を歩く仙波とソイファ。

 ソイファが気遣いつつ仙波へと話しかける。


「センバ、大丈夫か?」

「わからぬ…。そんなにホイホイその辺にいるものなのかの?」

「闘気を持つものは見つかるかもしれないが、その後対決の日までにモノになるかは…」

「そうよなぁ、お嬢も無茶を言いなさる」


 まぁ、この世界にきてずっとこの屋敷で過ごしていた仙波にとって、街を見て回る良い機会だ。

 もしかすると、エスメラルダは引き篭もって修行ばかりの仙波に対する休暇をくれたのかもしれない。


「まぁ、出来る事はしてこようかの」

「すまんな、私は同行できない。一人で平気か? 帰ってこれるか?」

「ワシはこれでも齢80近い記憶があるのじゃぞ? 迷子になどならんわ!」


 ふん、と息を吐き、仙波は街へと駆り出したのだった。




 ◇



「ふぅむ…しかし何処から探せば良いものか…」


 街をフラフラと歩く仙波だが、何処か目星があるわけでも無く散歩をしているだけになってしまっていた。

 ふと、仙波はソイファから闘技者について聞いた時の事を思い出す。


「確か…何処にも雇われていないフリーの闘技者がいるということじゃったな。何処におるのか誰かに聞いてみるとしようかの」


 目指すはフリーの闘技者の居る場所。

 そうと決まれば誰かに聞き込みをして情報を収集すれば良い。

 と、決めた瞬間仙波の腹が鳴る。


「そういえば昼時か。ソイファ殿から路銀を貰っておるし何処かで飯を食べてからにするとしよう」


 ちょうどタイミング良く、仙波の目の前にそれらしき店がある。

 看板にナイフとフォークの絵が描かれている事から飯屋に違いないだろう。

 仙波は迷いもせず店の木製ドアを開ける。


「すまんの、ここは飯屋で良いか? 1人なのじゃが……」

「あ、ハイ。いらっしゃいませ!」


 返事を返してきたのはエスメラルダと同い年くらいだろう少女。

 ただ、その少女が普通と違ったのは頭の上に獣の耳が生えている事だった。

 シロガネフ邸でこの世界についての座学は受けた仙波、そういう人種がいることは知識として知っていたが見たのは初めてだったので驚いた。


「お客様、カウンターでよろしいですか?」

「ん、あぁ…すまんの」

「こちらへどうぞー」


 元気よく案内する少女に思わずほっこりとした仙波は案内された席に着く。


「なにかオススメはあるかの?」

「それでしたら、今日はラグーの香草焼きがお勧めですっ!」

「ではそれを頼む」


 注文を受けた少女は元気よく返事をし、恐らく厨房の奥にいるであろう店主へと注文を伝える。

 仙波が料理が出来るのを待っていたところ、この静かな店内に相応しく無い人物が入店してきた。


「オイ! いるんだろ!? 今日こそ支払って貰うからなぁ!!」



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