第10話 仙波の日常

「うむ、今日も良い天気だ」


 エスメラルダに雇われ、数週間が経った。

 仙波は毎日、日が昇る頃に起き練兵場の端の方で鍛錬をする。

 先ずは走り込みを小一時間行い、少し汗をかいた後は柔軟、その後体捌きなどの型を行い、時折り練兵場に置いてある木の人形に軽く打ち込む。

 最初、打ち込みを行う際に勁を使い、人形を壊してしまいエスメラルダに怒られてからは使用はしていない。

 およそ、そんなルーティンをこなし終えた後、兵士やソイファが起き出してくる。


「センバ、今日も精が出るな」

「おはよう、ソイファ殿。早速始めるかね?」

「ああ、よろしく頼む」


 そして、ソイファへ仙波の持つ発勁の技術を教え、組み手を行う。

 このソイファとの組み手は仙波にとって非常に勉強になるものだった。


 まず、闘気の使い方が抜群に上手く、未だ十分に扱えていない仙波は勉強になる。

 加えてソイファは魔気を持っており、魔法が使える。

 初めてそれを目の当たりにした仙波は顎が外れるほど驚いた。何せ、何も無いところから火を起こしたり水が出たりするのだ。そして、それを闘いに組み込んでくる。


(実に面白い。ワシも使いたかったものじゃ)


 ムガドとの闘いの後、仙波の気量を測定した。

 結果は

 闘気量B、魔気無し、聖気無し。

 という結果であった。

 闘気量はあのムガドより少ない、多い方ではあるが異常量ではない。これについてはソイファは少し驚いた、仙波であればかつてない程の闘気量があってもおかしく無いと思っていたからだ。

 魔気、聖気については持っていない。そもそも保有者が絶対的に少なく、3種の内、2つ持っている者は100万人に1人と言われるほど。

 そんな、希少な人材の1人がこのソイファであった。


 だが、両者本気では無いとしても組み手は今の所仙波の全勝である。


 今もソイファの打撃が空を切り、仙波の拳がソイファの腹部に添えられる。


「くっ…参った…」

「随分良くなっておる。が、隙を見つけた際に力んでしまっておるのぅ」

「わざと見せている隙だとしても、お前にそうそう隙など出来ないからな…引っかかってしまう…」

「まぁその辺りの虚実を見極めるのは至難じゃからな」


 組み手が終わり、呼吸を整え、仙波は闘気を身体に巡らせる。

 闘気法【装束しょうぞく

 闘気法四技のうちの1つ、全身に闘気を行き渡らせる技である。

 今、仙波はこの1つを修練している。


 他にも

 闘気法【操気そうき】、必要な場所に自由に闘気を集める技。

 闘気法【隠し《かくし》】、闘気を消したり、見えなくする技。

 闘気法【狂奔きょうほん】、一時的に通常よりも多くの闘気を使う技。


 この四技を闘気法と呼び、順に習得が難しくなっている。


「【装束】はだいぶ形になってきたな。流石に習得が早いなセンバ」

「ふぅむ、いややはり前は闘気などなかったからのぅ難しいわい」


 魔法が使えなかったのは残念ではあったが、この闘気は奥が深いと仙波は感じていた。

 極める事が困難であればあるほどやり甲斐を感じる仙波は若干マゾヒストの気があった。


 そんなやり取りをしていると珍しく練兵場へ顔を出したエスメラルダから声が掛かる。


「ソイファ、ソウイチ。仕事よ」


 何の仕事かはわからないが、とりあえずエスメラルダに着いていく2人。

 邸内の執務室へ連れて行かれた先には当主のジルコアが待っていた。


「来たか、まぁ座ってくれ」


 ソファへ促された2人が座ると、ジルコアは話を切り出した。


「センバ、お前が我が家に来た際、エスが襲われたのは知っているだろう?」

「確か、イジリーケなる貴族の仕業ということじゃったか…そういえば襲撃者達はどうなったのだ?」

「実は迎えに行った騎士が見たのは死体の山だったそうだ。残した騎士含め、全て殺されていた」


 そもそもの発端はシロガネフ領とイジリーケ領の境にある山。

 その山から宝石類が出土した事から始まった。

 当然、両者ともに権利を主張。話し合いで決着が付かず、代表者同士の闘技で決とする事になりシロガネフ家が勝った。


 それが約100年前、先々代での出来事。

 だが、今になってイジリーケ家が再度主張し始めた。当時の決着は不正の疑いがあり、再度闘技で決着をつけよう。と。

 当然、シロガネフ家は拒否。当時の王が認めた決着を反故にするなどふざけている。

 だが、何故かイジリーケ家の主張は却下されないのだ。恐らく、背後に懇意にしている大物貴族がいるのだろう。


「で、だ。先日センバがムガドを倒し、奴を解雇した。奴は元々イジリーケ家の繋がりがあったので戻った際に何か動きがあったのだろう」

「私が襲撃を受けたのも、人質として交渉するつもりだったんでしょうね」

「うむ。それについてはセンバには感謝しきれない。で、だ。とうとうイジリーケ家からの書状が届いた。しかもヨーガ公爵の押印付きでな」


 ヨーガ公爵は先々代国王の弟の孫。つまり現国王の再従兄弟に当たる。

 王位継承権を持っている大物貴族で、あまりいい噂を聞かない人物だ。


「ふむ、で、肝心の書状の内容は?」

「それがな…困っているのだよ…」


 60日後、サンジャ平原にて代表『5』名により勝敗を決める。


「5名とな」

「我が家にいる闘技者はセンバ、お前とソイファの2人だけだ」

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