第7話 釣り針に掛かった獲物
「エス! 無事で何よりだ!」
仙波達は鉄車でエスメラルダの家、シルガネフ邸へ到着した。
すると、館の前に口髭を生やしたスラッとした男が出迎えており、恐らくエスメラルダの愛称であろう名前を叫ぶ。
これが、エスメラルダの父親か。
「ただいま戻りましたお父様」
「道中襲われたと聞き心配したぞ」
「ソイファもいるのだから大丈夫よ。それに、ソウイチ、挨拶なさい」
「仙波宗一と申す。この度は縁あって貴殿の娘へ仕える事になった」
ソウイチは深々と頭を下げる。
エスメラルダの父は困惑しながら問いかける。
「あぁ、私はジルコアという、エスメラルダの父親だ。…しかし、話には聞いたが、本当の事なのかね? とても信じられん…エス、騙されてやしないか」
「あら、ソウイチ。貴方嘘をついたの?」
「神に誓って真実じゃ。まぁワシの中では、という形になるがの」
「うーむ…我が娘が信用しておるなら良いが…」
ジルコアはジロリと仙波を睨む、その目は「娘に手を出したら承知しないぞ」という念が込められていた。
何はともあれ、これで仙波は当主公認のお嬢様付きとなった。
そして、エスメラルダは父親と一緒に邸内に入っていき、玄関前にはソイファと2人になった。
「センバ、館の案内をするから着いてこい。使用人達にも挨拶しないとな」
「うむ、手間をかける」
そうして、ソイファ先導の元、シルガネフ邸を回る仙波。
館は非常に大きく、前世の記憶と照らし合わせても大豪邸である。庭も広く、綺麗に刈りそろえられた草木があり、心なしか空気が美味い。
また、仙波が驚いたのは室内に電球?がありスイッチ1つで光を放つものだった。
「そんなに驚く事か? お前の前世ではもっと便利な物がいっぱいあったと言ってたろう?」
「確かにそうなんじゃが、原理が違うしのぅ。以前は考えもせんかったが、こういった物を考えた人物は天才じゃのぅ」
「まぁ言われてみると確かにな。鉄車も同じ人物が発明したものだぞ。他にも色々便利な物を発明している、確か今は王都にーーー」
ソイファは言葉を途中で切り、険しい顔をする。
視線の先、廊下の奥から1人の男が歩いてきた。
背は高く180cmは超えている、引き締まった身体をしており、やや痩せ型。軽薄そうな笑みを浮かべながらこちらへと歩いている。
「ムガド……」
「よぉ、ソイファちゃぁん。相変わらず可愛いねぇ俺に抱かれにきたか? ヒャヒャヒャ」
仙波はムガドを観察する。
(ふむ、
「センバ、こいつがムガドだ」
「あん? なんだこのガキは」
「お初にお目にかかる、ワシは仙波宗一と申す者。お嬢…エスメラルダ様に護衛として雇われてここにおる」
すると、ムガドは一瞬惚けた顔をしたが、すぐに大笑いをしだす。
「ブッヒャッヒャッヒャ! おいおい、テメェみてぇなガキが護衛だぁ? 舐めてんのかオイ?」
「舐めてるのはムガドお前だ。センバは強い、だからエスメラルダ様付きとなったんだ」
「エスメラルダ様付きだぁ!? ふざけんなっ! 俺は認めねぇぞ!」
別にムガドに認めてもらう必要はないのだが、まぁお嬢の言う通りケチを付けてきたな。と仙波は思った。
(もう一押しするか)
「ムガドとやら、聞いておる限りお主の態度はすこぶる評判が悪いようじゃの」
「なんだぁ、ジジイみてぇな喋り方しやがって、殺すぞ?」
「威勢だけは良いのぉ」
ムガドと仙波の距離が一歩でお互い触れられる距離まで縮む。
見上げる仙波、見下ろすムガド。
一触即発の状態のところへ声が掛かる。
「何をしてるのかしら?」
エスメラルダが仙波達の後ろから声をかける。
「エスメラルダ様…いやね、このガキが、アンタの護衛だとかふざけたこと言ってるんでね」
「あら、本当のことよ」
「んなっ…!? ふ、ふざけるなよ! 何でこんなガキが! 俺の方が専属に相応しいはずだ!!」
「なんでと言われてもねぇ。ソウイチは強いから私が拾ったのよ」
すると、ムガドは顔を真っ赤にし、震えながらも言う。
「強いから…じゃあ俺がこのガキより強ければ俺を専属にしてくれんのか? こんなクソガキより俺の方が確実に強い!」
「そうね…考えても良いわ。ただ、もし負けたら
エスメラルダは扇子を取り出し、口元を隠しながらムガドに伝えた。
恐らく扇子で隠れた口元は、罠に掛かった。と、口角が上がっていることだろう。
「おい、ガキ。今から俺と闘え!」
「おい、ムガド! 仙波はここに来たばかりで何の準備も」
「あー、良い良いソフィア殿。ワシは一向に構わんよ」
「ククク…なら練兵場へこい。殺してやるよ」
ここまではエスメラルダの計画通り。
あとは仙波がムガドに勝てば良いだけのことになった。
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