第6話 二戦目の相手

 ある人物と闘って欲しい。

 そうエスメラルダから言われた仙波は聞き返す。


「ワシはお嬢に仕えるようになったからの、よほどの理不尽ではない限り従うがの。理由を聞いても?」

「そうね、簡単に言うと邪魔になったのよ」

「エスメラルダ様、その言い方は流石に…」


 ソイファの説明によると、その男の名はムガドと言い、シルガネフ家の闘技者である事。

 今因縁のあるイリジーケ家からの紹介で、当時は揉め事も無かったので断りきれず雇う形になったのだが、力を誇示し、何しろ素行が悪い。

 特に近頃は裏稼業の人間を集め、何か画策しているようだ。

 解雇すれば良いのだが、契約期間が残っていること、また暴力による反抗が考えられる為中々上手くいっていない。

 ということで


「そんな感じだからソウイチ、貴方に排除してもらうわ。理由はそうね…貴方見た目は子供だし、こんな子供に勝てない闘技者は不要。と言ったところかしら。ちょうど契約期間の更新時期だから都合が良いわ」

「ふむ、状況はわかった。しかし、それならばソイファ殿で解決を図るのは難しかったのかの?」

「ソイファは色々忙しいのよ。万が一怪我を負ってその後に支障が出るよりも、現状を我慢した方がマシだったのよ」


 事情は理解した。

 なにやら悪巧みをしているようだし、向こうに非が無く一方的な排除というわけでも無い。

 それならば何も問題は無いのだが、仙波は1つ気になる事があった。


「して、そのムガドとやらは強いのかの?」

「強い。特に闘気の量だけであればA急に匹敵するほどだ」

「すまんが、先程も魔気やら今の闘気やらは一体なんじゃ?」

「ソイファ」

「はぁ…本当に何も知らんのだな。簡単に言うぞ」


 人の持つ力として、闘気、魔気、聖気の3つがある。

 闘気は身体強化。

 魔気は魔法。

 聖気は浄化、治癒。

 大雑把にだがその3つ。闘気を持つ者は1000人に1人と言われており最も保有者が多い、魔気、聖気を持つ者はとても珍しく、何処においても重宝されている。


「ほう、魔法。ではワシにもその魔気やら聖気を持ってる可能性があるのか」

「その辺は帰ったら調べましょう。さて、この後の段取りなのだけれど」


 エスメラルダの説明によれば、先ず帰宅後、当主である父親に紹介。その後、使用人などに挨拶に回り、その際高確率でムガドがちょっかいを掛けてくるだろうから、条件を突きつけ、決闘に持ち込んで勝利する。

 これが今後の目論見である。


「ソウイチ、はっきり言うわ。冷たい言い方かもしれないけど、貴方が負けたとしても私達は特になにも失わない、だから余計に貴方の存在は都合が良いのよ。あと、負けた場合でも家で雇うわ、私の専属護衛は難しいかもしれないけど、路頭に迷う事はないから安心なさい」


 エスメラルダは、仙波の強さの上限がわからない。

 ただ、一般兵よりも強い事は確かであるし前世で80年近く生きたといっても今はまだ子供だ。将来性ということも考えると手放すという選択肢は無い。


 エスメラルダは考える。


 恐らく、ムガドとは5分。前世に裏付けられた強さはあるとはいえ、闘技を知らない仙波は素人同然。

 ポテンシャルは計り知れないものがあるが、闘技においては相手に1日の長があるだろう。

 仙波が勝つのならば、それは大儲け。

 そうでなくても、元々ムガドの件はこちらで処理するつもりだったのだ、何の問題も無い。


 そんな事を考えていたエスメラルダだが、ふと疑問に思った事がある。


「そういえばソウイチ、貴方いくつなの?」

「む、歳か…ちなみにお嬢は何歳になられたのかの?」

「あら、女性に歳を聞くなんてね。ソウイチはデリカシーが無いようね」

「す、すまぬ…」

「まぁ良いわ。私は10歳、ソイファは17歳よ。それで貴方は?」

「そうさな、流石に80歳は不味かろうし。そういえば闘技者になるのに年齢制限などあるのかの?」

「無いわ。無いけど、早い人は一般学園の卒業と同時に登録する人が多いかしら。13歳ね」

「ふむ、ではワシは13歳ということにしようかの」


 なんとなく、仙波は目の前の少女より年下となると気恥ずかしさもあり13歳ということになった。


 さて、そんな事を話つつも鉄車は街と思われる外壁に到着する。

 鉄車を操る御者が警備兵に一言二言告げると、街の門が開く。


 門の先は左右に建物が建ち並ぶ大通りだろうか、所々に街灯と思わしきポールが整然と並んでおり、人も多く賑わいを感じさせる。


 そんな街並みを鉄車はゆっくりと進んでいく。


「ようこそ、メグラの街へ。どうかしらソウイチ?」

「活気のある良い街じゃの」

「ふふ、そうね。それじゃ、私の家へ行きましょうか」




 3人を乗せた鉄車は街道を奥へと進んでいく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る