第4話 この世界と現状
さて、襲撃者達を倒した仙波だが、現在襲撃された側から警戒心むき出しの質問を受けていた。
「で、君は気付いたらこの森にいて何も分からないと」
「そうじゃ、先程から説明しておるだろう?」
仙波は自分が知っている事を洗いざらい説明した。
前世と言って良いのか、自分では無い記憶があること。
また、この世界の記憶は全く無く、何故自分がここにいるのかすら分かってない事。
襲撃者達を倒したのは前世で得た力、技術である事。
「…にわかには信じられん。その、センバ殿は別の世界で80年近く生きていた。と…」
「うむ、まぁ病には勝てず死んでしまったと思ったがな」
「…どうしますか、ソイファ殿」
「エスメラルダ様の御判断を仰ぎましょう」
「あら、じゃあ連れて行くわ」
伺いを立てようとした人物から即答があり騎士達とソイファは振り返ると、鉄車の中から金色の髪をした少女が降りてきていた。
思わず見惚れてしまうのは美しさだけでなく滲み出るカリスマの成せる技か。
仙波の前世では会った事のない種類の人物であった。
「お嬢様出てこられては危険です!」
「そう? だって襲って来た者はみんな倒れてるじゃない。それともその子供が危険なのかしら?」
「あ、いえ…しかし…」
「それにいざとなればソイファがいるわ。そうよね?」
「…はっ、勿論でございます」
これは、なるほど普通の人間とは一線を画す、産まれながらの上位者。
まだ子供の身ながら騎士達を心から仕えさせるだけの事はある。と仙波は自分とはまた違った強さをこの少女に感じた。
「それで、貴方センバソウイチと言ったかしら。変わった名前ね」
「うむ、お嬢さんがこの者達の主人か。いやはや随分と可愛らしいお嬢さんだ」
「貴様っ! エスメラルダ様にその口の利き方はなんだっ!」
「下がりなさいソイファ」
ソイファと呼ばれた女性に激しく敵意を向けられる仙波。
このソイファという女性、先程の巨漢の男とは比べ物にならない程の武の練度を感じる。
このような若い女性から前世の格闘技のチャンピオン以上の圧力、この女性がこの世界でどの程度の位置にいるのか非常に気になる。
もし、このような実力者がゴロゴロいるような世界であれば、そしてそんな実力者達を軒並み倒せたとしたら、自分は過去よりももっと、もっと強くなれる。
さらなる高みへ。
せっかく若く健康な身体で生まれ変わったのだ。これは神様か何かが自分の願いを叶えてくれたのだ。前世で悪さもせず、格闘技界へ多大な貢献をした自分へのご褒美であるのではないか。
そうだ、そうに決まっている。ならば先ずは身体作りをーーー。
「ーーーイチ。センバソウイチ。聞いているかしら?」
「っと、すまんの。考え事をしていた」
「そう、ならもう一度言うわ。センバソウイチ。……長いわね、確かセンバは家名でソウイチが名前だったわね。ソウイチと呼ばせて貰うわ」
「ん、好きなように呼んでくれて構わんぞ」
「では、ソウイチ。貴方、私に仕えなさい」
金髪の少女、エスメラルダからの提案。
恐らく貴族であろう彼女に仕えるということは、首輪を付けられるという事に近しい。
名誉な事なのだろう。
だが、主従関係に縛られると色々動き辛そうだと仙波は思う。
「仕える…か。ううむ、有難いお誘いであるが、ワシはこの世界で強くなる為に鍛錬を積みたいと思っておってな…」
「でも貴方、今ここがどこかも分からず、何も持ってないでしょう? どうやって生活するの?」
「まぁ、街か何かで力仕事でもしつつ金を稼ごうと思っておったが…」
「街に入るのに身分はどう説明するのかしら、まさか先程の話をそのままするつもり? 私達は貴方の強さを見たからまだ信じる気にもなるけど、他の人はどうしからね?」
確かにその通り。
この世界とは別の世界で生きていて、死んでしまったのでこの世界に産まれ変わりました。
前は80年近く生きてました、この世界の事はよくわかりませんが悪い事は致しません。
趣味は身体を鍛える事、特技は殴る、蹴るです。
ああ、牢屋一直線だな。と、仙波は思った。
ううむ…と唸り声をあげる仙波にエスメラルダが畳み掛ける。
「その点、私に仕えるならば衣食住は勿論、身分も保証されるわ。まぁ私の護衛と言う事になるかしらね」
「なるほど、確かに…ううむ、しかしなぁ…」
しかし、次の一言に仙波は堕ちてしまう。
「私に仕えるなら、強い人と闘えるわよ」
考えるよりも先に返事をしていた。
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