第3話 不思議な子供

 急に現れた子供が、大の大人それも闘技者を相手にする。しかも鍛錬が足りないと言ってのける。


 そんな馬鹿げた状況に騎士達は身動きが取れずにいた。

 それは相手も同じ。

 そんな中、巨漢の男が我に返る。


「なっ!? なんだこのガキはっ!? おい、お前ら、さっさとぶっ殺しちまえ!!」


 巨漢の男がそう叫ぶと、それがきっかけで数人の男達が子供に殺到する。

 それぞれが手に剣やナイフを持った者達。

 次の無惨な光景が目に浮かんだ騎士はとっさに叫びを上げようとした。


「逃げーーー」


 目の前で子供が殺される。

 この場に10人いたら10人ともそう思っただろう。

 しかし、現実は違った。


 子供に向かったのは4人。

 その4人の間を縫うように子供はすり抜けた。

 すると4人の男は倒れ込む。


「………は?」


 騎士は目の前で起きた事が信じられずにいた。

 というか、何が起きたか全く理解出来なかった。

 超能力とか超スピードとかでは断じて無い、恐怖の片鱗を味わっていた。


「今のは…とんでもないですね」

「ソ、ソイファ殿!? お嬢様は!?」

「中でこの状況を楽しんでおられます。しかし、途轍もない子供ですね…化け物ですかあの子供」

「み、見えたのですか!?」


 いつの間にか鉄車の中から出てきたソイファ。

 騎士の疑問に対して、かろうじて、と前置きしながら解説する。


 子供に襲いかかった4人。

 1人目、袈裟斬りを躱され、喉を突かれた。

 2人目、同じように攻撃を躱されたのち、顔をはたかれ怯んだ所を金的。

 3人目、前傾姿勢の懐に潜り込まれ、投げ。

 4人目、前の3人がやられた事で勢いが止まった所を目付き。


 流れるような動きで瞬く間に4人を戦闘不能にしたとの事。

 国で10指に入る闘技者でも同じ事が出来るかどうか、それほどの絶技だった。


 さて、当の本人はというと、余裕の佇まいで次を待っている。

 まるで歴戦の闘技者のような態度だった。


 闘技者とは闘いを生業とし、勝つ事で名声やお金を稼ぐ地球で言うところの格闘家に近い。

 大抵がスポンサー、所謂貴族や金持ちに雇われ、揉め事の解決や賭け事があった場合に代表として闘う者か大多数である。

 特に資格などは無く、強さこそ全て。その為、闘技者=強者という図式が成り立つ。弱い闘技者などいない、居てもすぐに淘汰されていまうからだ。


 そして、現在仙波と相対しているスキンヘッドの巨漢も闘技者の1人であった。


「こ、このガキ…テメェ何者だ?」

「それがな、ワシにもよう分からぬのよ。とりあえずお主を倒してそこの騎士様にでも聞くとするかの」


 そう言いながら巨漢の男へと歩きながら距離を詰める仙波。

 得体の知れない子供に警戒心を強める巨漢の男。

 気を引き締めるあたり腐っても闘技者と言うところではあるが、仙波にとっては先ほどの4人と大差ないものだった。


 ゆっくりと近付いてくる仙波に痺れを切らした巨漢の男は薙ぎ払うように右腕を振るう。

 単純な膂力に任せた打撃だが、この体格から繰り出されるのであれば十分な威力。

 普通の人間であれば吹き飛ばされるであろう。


 だが、無意識に仙波を子供と侮ったのか、そもそも技量が足りないのか、その両方か。

 その攻撃はが丸分かりなテレフォンな攻撃となってしまっていた。

 当然、仙波には当たらない。


(ふむ、この身体では剛法は難しいかの…まぁ中にか)


 巨漢の攻撃を躱した仙波は、相手の懐に入っていた。

 少し手を伸ばせば相手に触れられる距離ーーー





 ソイファはあの体格では巨漢の男を倒すのは難しいと考えていた。

 先ほど4人を打ち倒した技量は素晴らしい、しかし見た所自分の主人と同じような年齢の子供。

 加えて相手は闘気法も使えるようだ、これは自分が出るしかない。そう思っていた。

 事実、あの子供は懐に入ったあと飛び退いている。


「君、良く無事だった! 後は我々に任せたまえ」


 護衛隊長の騎士が言う。

 まさしくその通り、後は自分が。

 だが、その子供は全く想像もしてなかった言葉を発する。


「ん? もう終わっておるぞ」

「おわっ…え? は?」


 すると、巨漢の男は白目を向き、吐瀉物を撒き散らせながら前のめりに地面に倒れ伏した。

 今、何が起こっているのか理解が追いつかない。


 攻撃を避け、懐に入り、数瞬の後距離を取った。


 それだけのはずが、何故あの巨漢は倒れている?


 時が止まったかのように動けずにいたソイファと騎士達を現実に戻す声が聞こえる。


「さて、残りをさっさと片付けてしまおうぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る