第2話 現地人発見
森の中を気配のする方へ走る事数分、現場に到着した仙波は様子を見る為、周囲を見渡す。
なにやら揉め事が起こっている場所から20mほど離れた所に身を隠すにもってこいの大きな木があった。
気配を消しつつ、スルスルと猿顔負けの木登りをみせ、枝の上から様子を伺う。
(アレはなんじゃ? 鉄の箱? それを守るように4人、ああ1人倒れておるな。元は5人か。しかし、あの格好は西洋の鎧のようだの。騎士という奴かのぅ)
それなりに舗装された道に鉄の箱が停まっている。
その箱にまるでオートバイの前半分がくっ付いている事から車のような移動手段であろうと仙波は推測する。
その周りに騎士が4人、抜剣している。
そして、それらを囲うように10人ほどの男達がいた。
騎士のような金属鎧ではなく、革か何かで作った簡易的な防具を急所や手足の末端に装着している。
(あの鉄の箱の中にも気配、2人かの。恐らく中にいる人物を襲撃している側と、それを守る側。さて、どうしたものかのぅ)
◇
「守れっ! お嬢様に近づかせるなっ!」
「隊長! ロビンの意識がありませんっ!」
「クソ、イリジーケの手先めっ!」
騎士は応戦するも、他勢に無勢かつ相手もただのゴロツキではなかった。
徐々に追い詰められる騎士達。
そんな中、鉄の箱の中にいた人物は
「やだわ、すっかり冷めてしまったわね」
優雅に紅茶を飲んでいた。
まるで外で起こっている事など関係ないとばかりに座って寛いでいる。
ウェーブのかかった金色の髪の毛に整った顔立ち。
歳は10歳になるだろうか、美しい少女だった。
普通であれば慌てふためき涙を流すであろう場面だが、歳に似合わず落ち着き払っている。
不思議なカリスマ性があった。
そんな少女に声を掛ける人物。
鉄の箱の中にいたもう1人。
「お嬢様、私が出ますか」
青みがかった髪色を短く切り揃えたどこか冷たい印象を与える鋭い目付きが特徴的な女。
歳は少女よりも5、6歳は上だろうか、こちらも美しい女だった。
「そうね、これ以上遅くなるとお父様が心配するかしら」
「では」
「…あら? ソイファ待ちなさい。出なくて良いわ」
「え? しかし…」
「何か面白い事が起きそうな気がするわ」
◇
「うおおお!」
騎士の1人が気合と共に剣を振り上げ切り掛かる。
しかし、それは相手に防がれてしまう。
防いだのは相手の腕。
普通であれば剣の一撃を腕で受けたなら、その腕が落ちる。しかし、そうはならなかった。
「くっ!」
「馬鹿が、そんなナマクラか闘技者である俺に効くかよォ!」
そう言って騎士を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばしたのはスキンヘッドの太った巨漢。
その巨漢は続けて言う。
「さっさと鉄車の中にいる小娘をよこしな。そうすれば命だけは助けてやるぜ」
「やはり…狙いはお嬢様か…っ!」
数mほど飛ばされた騎士は剣を杖にして立ち上がる。
立ち上がるが、先ほどの蹴りのダメージがあり若干ふらついてしまう。このままでは負けは必至。
「雑魚がよぉ、手間かけさせんなよ」
「黙れっ! 貴様にはお嬢様に指一本触れさせんっ!」
「良う言った。良い気迫じゃ」
急に聞こえた声に驚き、騎士は振り返る。
すると鉄車の上に人が立っている。
「こ、子供っ!?」
驚く騎士の横に軽やかに降り立つ子供。
突然の乱入者に騎士もそれを襲っていた者達も動きを止めていた。
そして、その不思議な乱入者を鉄車の窓から覗いている者が2人。
「子供? 一体いつの間に…」
「あら…貴女でも気付かなかったのね。予想よりも面白くなりそう」
その不思議な乱入者は言う。
「事情は全く分からぬが、ワシが手伝ってやろうか?」
「え!? い、一体なにを…?」
「察するに彼奴らに襲われておったのじゃろ? ワシが加勢しても良いか?」
いきなり現れた子供がこんな事を言っている。
騎士は言っている言葉は理解できたが言っている意味は理解出来ないでいた。
混乱している中、スタスタと騎士達の前へ歩いていく子供。
「まっ、待て! 何を言っている!? 危ないから下がるんだっ!!」
騎士は叫ぶが子供は意に介さず手を振って答える。
「なに1人硬気功が使えるようじゃが、鍛錬が足りぬのが見て取れる。ワシもこの身体で今どこまで出来るか試す良い機会じゃ。譲ってもらうぞ」
見かけと異なる喋り口調の変な子供は、薄笑いを浮かべながらそう言った。
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