本編メンバーこぼれ

ハッピーハロウィン 狼少女ー0.1

 それは芦原環が望月朔の弟子になる少し前の事。

「でさー、たまちゃん。……たまちゃん?」

 窓際の席で空を見たまま上の空になっていた環を、ポニーテールの同級生三橋茜みつはしあかねが覗き込んだ。

「わわ!ごめんね。ぼーっとしちゃってた」

「あはは、たまちゃんは天然だもんねー」

 そんなことは無いと環は返そうと思ったが、ぼんやりしていたのは事実なのでとりあえずはそこは置いておくことにした。

「むぅ……それで、茜ちゃんのご用は?」

「ああ、忘れるとこだった。1・2年でハロウィンの仮装パレードに参加することになったじゃん?」

「え」

「もうそこからー?さっき先生が言ってたじゃんか」

「私たちもう高校生なのに仮装……?」

「むしろ高校生だからじゃない?渋谷とか若い子いっぱいいるじゃん」


 去年地元の女子中学生がイベントに参加し傷害事件にあったらしく、昨今話題になっている都心の仮装集団に生徒を行かせないために一番盛り上がると想定される日に地元商店街と近隣小中高校が協賛でハロウィンイベントをやることになったそうだ。

 高校生は仮装をして半分が運営スタッフ、半分がパレード参加。

小学生中学生はパレードのみの参加になるらしい。

 環たちの通う新涼高校は9月に文化祭をやっているが、校外からの招待なしの小規模なものなので皆盛り上がっているらしい。


「正直うちもハロウィンってそんなに根付いてない気もするけどねー」

「はは……」

 黒板に貼られたかぼちゃと魔女のイラストを見て環は魔法使いの事を想う。

「でね、コスの話なんだけどさー。うちら狼男やらない?」

「……特殊メイクとかするの?」

「しないしない。用意が簡単だしかわいいから」

「百均で売ってる耳としっぽつけるだけみたいな?」

「そうそう!それだけだとなんか言われそうだから口のとこだけフェルトで作るの。布とかは型紙引いていったら商店街の松乃屋さんが無料で必要な分カットしてくれるって」

「口ってマスクみたいな感じにするの?」

「うんうん」

「……わかった。今度のテスト明けの週末にみんなで集まろうか」



そしてハロウィン当日

 環たちの衣装作りは親の協力もあり、つつがなく完了した。

「みんな可愛いねー」

 担任教師がデジカメを持って駆け回っている。学年全員の撮影を押し付けられたらしく、パレード前からヘロヘロしているが大丈夫なのだろうか。

「パレードの撮影はプロがやるから、私はここだけ頑張るの!」

 呆れ半分の生徒たちは教師を見送り誘導の看板やスタッフのビブスを分け合う。

「あれ」

誰かが空を指さした。

「流星……?」

 空に奔るほうき星。もう少し後の時代なら衛星を疑うものもいただろう。

 だが環は知っている。そんな予報は出ていない。

 彼女は天体観測を趣味にし、気象イベントは金星の観測コンディションレベルで記録していた。

「あれ、消えた?」

「流れ星にしては長かったねー」

 

「ごめん、ちょっと私お手洗いに行ってくる」

「ん?りょーかい」

 環は協力企業のビルに入って行った。

照明は入り口とトイレへの誘導だけ灯されている。

 環はそこを通り過ぎ非常口から外階段を登り屋上に向かう。

 環は、視力と記憶力は良い方だ。メモを取り出し光の角度から目的の方角を目算する。

 普段来ない方角、期せずしてようやく最後のピースが埋まった。


「やっぱりだ。やっと……見つけた……!」


 足元では賑やかなパレードが始まろうとしていた。

同時に彼女の物語も始まろうとしていたことを、誰も知らない。



おわり

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