第27話 阿久津純の蝶野丈太に対する印象
白石さんが乗ったエレベーターのドアが閉まるのと、僕ら3人が建物内に突入したのは、ほぼ同じタイミングだった。
「4階か……! よし、階数さえわかれば、一旦見失っても何とかなる! 階段で行くぞ、純君!」
「ええーっ、だっるーっ。純、おんぶしてっ♪ 背中で存分おっぱい堪能していいから♪」
11号館と表記があった、6階建ての古めかしい建物。華やかな学園祭の中で、ここだけはどこか薄暗く、ジメッとした雰囲気を感じる。
入ったばかりで断言は出来ないけど人も少ないのではないだろうか。外の喧騒ばかりが聞こえて、建物内ではあまり話し声もしない。階段を上る途中の壁にはそこかしこにサークル勧誘やら、何が目的かわからない怪しいチラシやらが貼られまくっている。
僕ら二人のペースを気にしつつ先頭を行く丈太さんが、少々不満げに口を開く。
「そもそも誰かさんが計画通り一緒に行動してくれてりゃあ、もっと都合よくいったんだけどな。ターゲットの行動もコントロールできるし、必死に姿追わなくたって、位置情報送ってくれたりすれば簡単だった」
「ぷ。ちっちゃいなー丈太さんは。どこかと同じで♪ そんなんだから彼女さんに……♪」
「あぁ!?」
やっぱり……。
ここまで来て確信したが、丈太さんと華乃は、白石さんを尾行している。
何か突然プランAとか言い出してよく分からなかったんだけど、分かってないと思われたら嫌だから分かったフリして二人に付いてきた結果、やっと分かった。
京子さんを尾行することで、「まっかろん」にたどり着ける――それが、丈太さんが編み出したプランなのだ。
しかし、正直なところ、その方法には大きな疑問符がつく。
ティアラの正体が白石さんなのであれば、なるほど確かにティアラの友人であるまっかろんを見つけ出すために、白石さんを尾行するのは効果的なのかもしれない。
だけど、白石さんがティアラだとはまだ決まっていないわけであって……つまり、この作戦は前提から成り立っていないかもしれないのだ。
すなわち、今の僕らは、ただただ一般の美人女子大生をストーキングしているだけな可能性がある。
僕はストーカーみたいな卑劣で気持ち悪い奴がこの世で3番目に嫌いだというのに。ちなみに2番目がまっかろん。1番目はこの世に存在するはずがない、ティアラの彼氏。まっかろんは今日、彼氏デマの罪を認めさせて償わせるから、実質的にストーカーが1番嫌いということになる。
それはともかく、もしかしたら丈太さんは少し混乱しているのかもしれない。
本来は、「白石さんがティアラだった場合」のプランA、「ティアラじゃなかった場合、もしくはティアラかどうか判断がつかなかった場合」のプランB、と場合分けしていたんじゃないだろうか。
「あ、あの丈太さん、聞いてもいいですか?」
「ん? どうした、純君。何か気づいたことがあったら遠慮せずどんどん言ってくれよな。俺なんかより君の方がずっと頭が切れるんだからな!」
そう言ってくれて助かる。マッチョな年上に間違いを指摘するとかめちゃくちゃ怖いはずなのに、この人なら絶対僕の言葉を軽んじたりしないと確信できる。ほんとカッコいいと思う。
いつか僕もこんな人になって、そしてティアラの彼氏に……なんてね! 冗談冗談!
「もうムッツリ純はいいんで、丈太さんがおぶって……って、え? あれ? ちょっ、二人とも一旦ストップ」
僕が口を開きかけたタイミングで、華乃がそれを手で制してくる。おちゃらけた様子は封印し、なぜか真顔になっている。
ちょうど、目的である4階にたどり着くのと同時のことだった。
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