第三章 出会ってはいけない二人
第21話 蝶野丈太、致命的なミス
「み、『見つけた』……? 闇猫って……例のStrey catの奴じゃねーか! ……何なんだ、何なんだ、この気色悪いコメント製造機は……!!」
アパートの部屋で一人、頭を抱える俺。『俺が闇ノ宮美夜を引退に追い込み、セレスティア・ティアラを誕生させた』という衝撃の事実を聞かされてから1時間以上がたっていた。
闇ノ宮美夜が彼氏バレで引退したということは、闇ノ宮美夜が京子だった場合、その原因は京子の彼氏である俺という存在にある――。
いやいや、そもそも俺は『セレスティア・ティアラ=闇ノ宮美夜』は認めたが、『闇ノ宮美夜=京子』だとはまだ認めてないんだから、その理屈は成り立たないんだよ!
そう、俺は認めてないんだ……。信じない……京子を信じているから、そんな陰謀論は信じない……!
だって、もし本当に、京子が闇ノ宮美夜であって、セレスティア・ティアラなのだとしたら……、
「よくよく見返してみたら、ティアシコとかいうワード生み出したのもこの闇猫とかいうキモオタじゃねーか! やべぇよこいつ、他のオタクとは一線を画してる! 完全にセレスティア・ティアラを性的対象として見てるし、完っ全にガチ恋してやがる!」
闇ノ宮美夜時代から、高価なプレゼントとかも送りまくってたっぽいし……もはやストーカーだろ、こいつ……って、え?
「いや、結局ストーカー被害も受けてることになっちゃうじゃねーか! 京子がセレスティア・ティアラだったら!」
頭の中で、「あはっ♪ 京子さん=セレスティア・ティアラ説を裏付ける新たな根拠が見つかっちゃいましたね♪」とかいう声がする。確かに、以前俺たちが検討していた、京子が妙に防犯対策に詳しくなっていた理由が、ここに来て繋がってしまう。
加えて、『セレスティア・ティアラに彼氏がいる』とネット上でバレたきっかけが、彼女の書いた小説だったというのも俺の心臓を跳ねさせた。京子がこっそり執筆活動のようなことをしているのに気づいていたからだ。
まぁ、文学部の俺たちの周りには創作趣味を持ってる人間なんて全然珍しくもないのだが。
それに、さすがにそんな変態っぽい内容をあの京子が……いや、京子だってベッドに入れば豹変すると、俺は知ってるじゃないか。あいつにはMっ気と同時にSっ気もあって……ダメだ、考えれば考えるほど、どんどん関連付けてしまう。
「これは……まずい……」
いや、別にそんな理由の一つや二つで、京子の不貞を疑ったりなんてしちゃいない。
そんなことよりも、万が一京子がセレスティア・ティアラなのであれば、ストーカー被害という危険に晒されているということにもなってしまうわけで。
これは、何とかしなければならない。
杞憂に終わるとわかっていても、京子に危険が迫っている可能性が僅かでも存在するのであれば。見逃していいわけがない。
スマホで保科さんとのライン画面を開く。
京子が俺を裏切っていない、つまり京子がセレスティア・ティアラでも闇ノ宮美夜でもないことを証明するため。そして、万が一、京子がセレスティア・ティアラだった場合に、ストーカーからあいつを守るため。ついに俺本人が俺の足で動くべきときが来たのだ。いつまでも女子高生一人に任せてなどいられない。
数十分前に保科さんから届いた『例の新人君の研修、丈太さんに任せていいですか?』というメッセージ。俺はそれに『もちろん』と返す。事前に決めていたサインだ。正直こんな回りくどいことする必要はないと思うが、保科さんがやりたがるのだから仕方ない。完全に遊びだと思っていやがる。
まぁ、仕方ない。保科さんの能力は認めざるを得ないし、今回の作戦で彼女が提供してくれる人脈も、問題解決のために必要不可欠なキーだ。
本当にこんなことが上手くいくもんなのか自信はないが……いや、やるしかない。成功させるしかないのだ。俺と京子の未来のために。
俺は決意を固めて、今日も愛する京子に『おやすみ。チュ(●´Д`)ε`○)』とラインするのだった。
間違えて保科さんに送ってしまった。一瞬で既読ついた。くそぉ、絶対明日にはパートのおばさん連中にまで広まってるよ、この誤爆。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます