第9話 【センシティブ】ティアシコ民専用!!セレスティア・ティアラ喘ぎ声シーン集!!【切り抜き/VTuber】

 てか、なに? シコらせ? シコ、って……つまりはそういう意味のシコだよな? 

 は? 何でそんな性的な行為が、コンプライアンスに厳しいであろう昨今の動画配信活動と関係あんだよ?

 いや、コンプラがどうとか何よりも、そんな卑猥な話が、あの気品高く、凛々しく純潔な京子に繋がるってのが、もうわけわかんねぇ。繋げんな、マジでそんな話! 神聖なる京子のイメージを汚すな!


「ま、説明するより、見てもらった方が早いですね。これです、これが先輩の知らない、京子さんの真のお姿です♪」


 笑いを堪えているのか、口元をヒクヒクしながらスマホを差し出してくる保科ほしなさん。恐る恐る、その画面を覗き込むと……


「…………っ、こ、これが……」

「セレスティア・ティアラです」

「は?」

「セレスティア・ティアラです」


 ディスプレイに映るのは、白人美女のような2Dキャラ。

 緩くウェーブがかかった金髪が腰まで伸び、大きな瞳の色は鮮やかなブルー。頭には宝石で飾られたティアラが載っており、西洋童話の絵本に出てくるお姫様を思わせる……が、纏う衣装が、そのイメージを正反対のものにしていた。


 ミニ丈の純白ドレスはがっつりとしたオフショルダーで、巨大な胸の谷間が丸見えなのだ。なぜかお腹部分の布がひし形にくり抜かれたデザインで、真っ白な肌とおへそがこれまたがっつりと見えてしまっている。端的に言って、性的だ。


 さらに特徴的なのは背中から生えた白く大きな羽で、おそらく天使をイメージしたキャラクターなのだろうが……羽が外に飛び出してるということは、背中側の露出も激しいということなのだろう。2Dキャラなので、今は正面からの姿しか確認できないが。


「こ、これが、京子、なのか……?」

「はい、セレスティア・ティアラです」

「セ、せれな、セレス、ティナ? え? セレスティナ、ティララ……」

「セレスティア・ティアラです。で、そうだなー、うん、これ辺りにしましょう! こちらがセレスティア・ティアラのライブ配信の切り抜き動画です。再生してみてください。京子さんが……うぷぷっ、セレスティア・ティアラがキモオタ視聴者さんに向かって話しかけていますので!」

「あんまり人のことキモいとか言うなよな。よくないぞ、そういうレッテル貼りは」


 頭に入ってくる情報を処理できなくなった俺は、逆に冷静になってきていた。難しいことを理解するのを諦めた結果だった。うん、もうわかることだけシンプルに考えよう。


 このセレスティア・ティアラというアニメキャラの声優を、京子がやってるってことだよな……。うん、にわかには信じがたい。

 京子も俺と同じでアニメ系の文化には疎かったはずだし……と、思ったが、仕事としてやっていると考えるとあり得なくもないのかもしれない。


 京子には子役として活動していた過去がある。

 世間一般に名前が知られているほどのものではないが、全国放送のドラマやCMに脇役として出ていたくらいの実績は持っている。本人は恥ずかしがっていたが、頼み込んで映像を見せてもらった俺としては、有名子役に引けを取らない演技力だったんじゃないかと思えた。

 校則が厳しい私立中学に入るのを機に引退してはしまったが、演技力は人並み以上。加えて、不特定多数に向けてキャラクターを演じるということへの抵抗感が、俺たち一般的な人間よりは低いのかもしれない。


 そして、京子は子供が好きで、子供に優しい。


 このセレスティア・ティアラはおそらく、女児向けのキャラクターなのだろう。うん、そうだ。何か妙に露出度は高いが、天使っぽいキャラデザインといい、お姫様っぽい雰囲気といい、日曜の朝にやってる女児向けアニメのキャラクター感がある。

 きっとファンシーな魔法とかで町の平和を守っている、正義感が強くて優しい天使のお姉さんという設定なのだ。すこしばかり露出は多いが、天使のイメージなんて全裸だったりすることすらあるし、そんなもんなのだろう。

 うん、それに、昔の魔法少女アニメとかも変身の際に服が脱げたりとかしてたっぽいもんな。冷静に考えて、女児向けアニメのキャラクターを性的な目で見る人間なんて存在するわけがないし。むしろ抑圧されてきた女性性の解放という前向きなイメージを女児に発信しているのかもしれない。


 なるほど、こんな役割であれば、何らかのきっかけで京子が引き受けたとしても、さほど違和感はない。


 あの京子の凛々しくも透き通った声で、小さな女の子たちに向けて、ボランティア活動の尊さや交通安全の大切さなどを呼びかける京子――いや、セレスティア・ティアラ。


 うん、良い。応援できる。応援したい。

 そういうことだったのか、京子。いや、わかるぞ? 照れくさい気持ちはわかる。世界一大切な彼氏の俺にだからこそ明かせなかったという気持ち、確かに理解できる。

 でも、こんな誇れるような仕事なら、話してくれてもいいのにな。


 まぁ、いいか。温かく見守ろう。

 いつか京子の口から俺に話してくれるときが来るまで、陰ながらセレスティア・ティアラの活動を応援しよう。


 ――10年後。3LDKのマイホーム。

 並んでソファに腰かける俺と京子、そして俺の膝の上に座る、最愛の娘。小さな両手でタブレット端末を持って、動物愛護について優しく語りかけてくるセレスティア・ティアラをキラキラとした目で見つめている。

「ママー、あたしね、おおきくなったら、せれすちな・ちららちゃんになるー」

「あはは、セレスティア・ティアラ、な。だってよ、ママ。琴音ことね、セレスティア・ティアラになりたいってさ」

 からかう俺の肩を、真っ赤な顔の京子が小突いてくる。あはは、参ったな、こりゃ今日の晩ご飯係で張り切らねぇと、機嫌直してもらえねぇかも。

 いつか、琴音がセレスティア・ティアラの正体を知ったとき、どんな反応を見せてくれるのだろう? これからの日々が、楽しみで仕方ない。

「セレスティア・ティアラの言うことを守っていれば、琴音もきっと、セレスティア・ティアラのようなカッコいいお姉さんになれるさ」

「……そうね、琴音は絶対、強くて優しい、この子のお姉ちゃんになってくれるって、ママも信じているわ」

 そうして俺たちは、京子の大きく膨らんだお腹をそっと撫でて――


「せんぱいが押さないならわたしが再生ボタン押しますね。一人でニヤニヤしてんのあまりにもキモすぎるんで気をつけた方がいいですよ」


 保科さんが俺の手の中のスマホをタップし、動画が再生される。

 よし、未来の琴音と京太のために今のうちから、おススメのセレスティア・ティアラ動画を探しておくか!


「丈太さん何も知らないでしょうから補足しときますと、これは戦争ゲームの実況配信ですね。一人称視点のゲームなんで、この手前に見えてる銃口が京子さんがプレイしている主人公ということになります」

「なるほど、戦争ゲー……え?」


 スマホの中で、戦場風のフィールドを駆けていくような映像が展開される。そして、そんな画面の右下にオマケのようにハメ込まれているのがセレスティア・ティアラの上半身。2Dといっても、ヌルヌルと左右に動いたり、表情も豊かに変化したり……って、は……?


『あっ、だめっ、あーっ、ちょっ、イクっ、イクっ、イっちゃうってっ!』


「は?」「うぷぷっ……!」


『待って待って待って、待ってくださいっ、何でもしますからっ、やんっ、あんっ、もう無理、ムリムリムリムリっ、おっおっおっおっ、おほっ……! 中で出しちゃダメだって、できちゃうできちゃうできちゃう、入っちゃう! おぅっおぅっおぅっ、やべっ』


 無駄に艶めかしく、性的で、まるで喘ぐような、まさに嬌声が、スマホから響いてくる。


「…………」「あはっ、あはっ♪」


『あっ、もうっ、ヤバいっ、ヤバっ、ヤバっ、おほっおほっおほっ……! イグっ……!

 え? 誰がセンシティブ・ティアラじゃ! 全然上手くないから! うふふっ、センシティブ・エチチは原型を留めてない! あっあっあっあっ、あぅっ! いや、「えっちだな・えちち」はもはやリズムだけ! 一万円投げてまで言いたかったことがそれでいいの、闇猫やみねこさん!? もはやただのあなたの感想ですよね! でも、ありがとう!

 あっ、おぅっ、おうっ、だめっ、死んぢゃうっ! え、うふっ、ちょっ、いちいち報告とかしないで、これ以上笑わせないで! 次、戦闘中にティアシコ報告した奴、出禁だから! いや、フリとかじゃない! 今回こそはガチのマジのティアシコ報告禁止令!

 は? 「これはティアシコ自体は黙認するという遠回しなお気持ち表明」「正式に許可された」「もはや推奨事項」じゃないのよ、どんだけティアシコ認可されたいのよ、あなた達! したけりゃ勝手にティアシコっときなさいよ! うふふっ』


「…………」

「あはっ♪ ゲーム実況しながら、チャット欄のキモコメとまで華麗に交流しちゃって、すごいですねーっ! さっすが、先輩ご自慢の才色兼備えちえち彼女さん……♪」

「……………………」

「で、どうでしたか、せんぱい? 良かったじゃないですか、ご病気でもストーカー被害でも浮気でもなくて。せんぱいのご自慢の彼女さんは、こーんなに元気で楽しそうにキモオタさんたちと触れ合ってますよ♪ ご感想は?」

「……………………セレス…………」

「ん? 何ですか?」


「セレスティア・ティアラぁあああああああああああああ!! セレスティア!! ティアラぁあああああああああああ!! 見せられるかこんなもん、俺と京子の大切な琴音に!!」


 崩れ落ちた俺は、もはやうつ伏せ状態で、床に向かって吠えていた。ブラジルの皆さんに聞こえてしまったかもしれない。


「ジョータ、ウルサイデス。店内にまで絶叫がモレてマス。コトネって誰デスカ」


 お仕事中のバビさんにまで聞こえてしまっていた。ごめんなさい。琴音は宝物。


「あはっ♪」


 呆れたように店内に戻っていくネパール人バイトリーダーを見送ってから、保科さんが破顔する。


「ねーねー、せーんーぱーいー、もっとちゃんと感想聞かせてくださいよーっ。うぷぷ、セレスティア・ティアラさんのドスケベ生えちち配信、どう思いました? 最高でしたよね?」

「あんなの俺が知ってるセレスティア・ティアラじゃない!!」

「知ったのついさっきでしょ、セレスティア・ティアラ」


 うぅ……うるさい、うるさい……! こんなのはおかしい……あんな卑猥な女がセレスティア・ティアラなわけが……


「――じゃ、ねーよ! 間違えた! あんな女がセレスティア・ティアラじゃないんじゃなくて、そもそもセレスティア・ティアラが京子じゃねーんだよ!!」


 そうだった。混乱してた。前提からしておかしいんだった。

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