第17話
「それでは3人目です、名前はドール18才、人族であります。職業は裁縫となります。編み物が得意な大人しい性格であるから、部屋で仲良くしていたい方にはもってこいな子でして、50万マリとなります」
今までで1番グッときた子であった。
顔はおしとやかな感じで好印象で価格も前の2人と比べてもそこまで高くない。
ここで決めるも有りだと思わされるが、果たして役に立つかと考えた時に疑問が残ったのだ。
戦闘向きでもない子に多額のマリを支払うのに。
(インドアな子は好きなんだ。ちょっと編み物を一緒にするのはなぁ)
結局は決めきれずにパスする。
「次の子を頼む」
「4人目は魔族の子というレア物でしてキルギス、15才。魔術を使えます、魔族との戦いで敵から拾い上げたと聞いております。ただし魔族が奪い返しに来る可能性があり狙われる可能性もあるとだけは言っておきます。70万マリです」
キルギスは睨みつけるようにして冷を見た。
人間に拾われたことに、ムカついていて人間を毛嫌いしており、最悪の場合には隷属魔法が効かず殺された者もいた。
しかし世の中には変わった趣味の者がいて、それでも欲しいという要求がある。
(魔族っぽいのが、ひとり仲間にいるからなぁ)
「ふん、よろしくな」
キルギスは冷に向かい言った。
明らかにこれから奴隷になる態度ではない。
図々しい態度であったが、冷の横に座っていたリリスと目があった時に態度は一変する。
「な、な、なにあなたは、魔族ですか? 魔力は低いかどとてつもない異様な物を感じるわ」
「ああ、これはリリスって言って淫魔の職業持ちなんだ」
「淫魔!!!!! 淫魔は存在するわけない。魔族でも淫魔の職業を持つ、それは特別な方で、まさかあの一族だとでも言うの? ふざけるのもいい加減にしなっ」
キルギスは怒りながら冷に言った。
「ふざけるのはお前だ。淫魔のこと知った口きかやがって、私が淫魔のリリスだって言ってんだろ!!!!!」
リリスは立ち上がりキルギスの目の前まで行き、逆に睨みつける。
「ええええええええ!!!!!失礼しましたーーー」
キルギスは何度も頭を下げた。
「わかればいい」
リリスは許したのか椅子に座り直した。
リリスの存在を知っていたのはキルギスだけではなく、支配人バタも動揺していて顔からは汗が滴り落ちていた。
「まさかあの淫魔が仲間におられるとは知りませんでした。どう致しましょうか、この4人でお気に入りの子はいましたか?」
「どの子も可愛いし好きなんだけど、一番の高額な奴隷はいますでしょう、その子も見てみたいんだ」
冷は欲が出てきて、商館の目玉の奴隷も必ずいると予想したからだ。
(大金持ちもいるだろうし、もっと上級な奴隷がいるんじゃないかな)
冷の直感は見事に当たっていて、バタにはまだ隠し事をしていると読んだからだ。
冷が持つスキル邪眼は使っていない。
あくまでも冷の読心術と呼ばれる技術を使ったのだった。
長年に渡って人の顔の仕草や表情で、嘘を見抜ける技である。
冷のわがままに支配人バタは厳しい表情を作ったのは、普通は何度も商館に来て買っていくお得意様の客の為の奴隷はいた、しかしそれは初めて来た冷には見せたくないので教えていなかった。
特別なお客にだけ特別な販売をするのは商人にとって必須な能力である。
冷はまだ一度も購入してない客であるから、隠すことにした。
「これが商館でも最もいい奴隷でございます」
「そうかなぁ、俺にはまだバタが隠してる様に思えるんだよな」
「今日は購入せずに見るだけでと、ならば閲覧はここまでにします」
バタもしつこい冷に買う気がないなら帰る様に迫った。
しかし冷は引く気はない。
むしろ見たいという欲が爆発しそうなのだが、どうしたら見せるのかわからないでいたら、リリスがキルギスに対して言う。
「おいキルギス、支配人バタが言ってることは本当か。まだ隠してる奴隷が実はいるのだろう。本当の事を言え!」
「そ、そ、それは………」
キルギスは言いかけて途中で口を閉じた。
変な終わりかただと冷は気がついたが、何か無理矢理話すのを止めたような気がした。
(キルギスに何か魔法でもかけてるのか?)
支配人バタは危うく言いかけたキルギスにあせりを覚えたが、直ぐに冷静さを取り戻した。
キルギスにはバタと奴隷契約しており、バタに対して逆らう発言や態度は押さえ込まれ不可能となっていたのだ。
当然だが商館にいる奴隷の人数はキルギスもわかっていて特別な超レア奴隷を知っていた。
だからキルギスは絶対に言えない。
支配人バタは安心していた。
「キルギス、私が誰だか知ってるよな!!」
「げっっ! はい、リリス様です」
「本当は居るのか?」
リリスが再び尋問するように言った。
「……はい、ネイルです。超レア奴隷の獣人ネイル」
「よく言った、褒めてやろう」
「ありがとうございますリリス様」
キルギスは冷には大きく態度に出るがリリスの前では違った。
魔族においてはそれ程に淫魔リリスの影響度が強いという事実であった。
結果を見て驚いたのはバタである。
「な、な、なんでネイルの件を話した! いや話せたのだ、話せるわけないのはキルギスには隷属の契約をしようしてあるのだ! それを簡単に話し出すことなどあり得ん!」
「でも話したぞ」
「リリスさん、きっとあなたが言うとキルギスは隷属契約の効果が弱まり話してしまうようだ。あなたの淫魔の力が影響してるのかもな、こんなのは初めてだ」
バタは汗を大量に流してリリスの恐ろしさを感じる。
長年奴隷商人をしてきて隷属契約を破られるのは初めての経験であった。
バタが持つスキル隷属契約は淫魔の前では効果が弱ったのであった。
「話はついたなバタ、ネイルを読んで来てくれ」
「……はい、呼んで来ます」
しばらくしたらバタは戻って来た。
そこにはひとりの獣人がいた。
耳は頭の上にあり猫耳で髪の毛は茶色、胸も大きく膨らんである。
獣人猫の種族のネイルはオドオドしながら現れた。
その姿を見た冷は相手に心の動揺を悟られないようにしていた。
武術家として世界最高にまでなる為に必要な能力のひとつであり、決して表情、態度、声に変化があってはならないのだが、その冷の本心はというと。
(こりゃー可愛いぞ! アリエルやリリスと比べてもそん色ないレベルだな!)
「ど、どうもネイルで、です」
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