第15話
恐るべしアゴを持つアントキラー。
いったん距離を取り、試しに冷は皮の靴を片方脱いで手に持つ。
皮の靴をアントキラーめがけて放り投げると、アントキラーは皮の靴をアゴで受け止め噛み付いたら、あっという間にボロボロに成り果ててしまった。
普通の人間なら大怪我では済まない致命傷であろう。
(何て強いアゴしてんだ。噛まれたら痛いし、彼女達が噛まれたら痛いじゃ済まない。あれをやるしかないな)
冷はこのような相手とも戦ってきた歴史があり、亜熱帯地方の濁流での戦いを思い出していた。
年は若く小学生の時で夏休みを利用して武者修行に行かされたのだ。
その相手はワニ。
それもクロコダイルと言われる凶悪な爬虫類である。
クロコダイルと戦ったときも同じように強力なアゴを持っていたが、川の中という悪条件でもクロコダイルを撃沈させた。
翌日にはニュース番組でトップニュースとして報道される。
川のクロコダイルが100匹溺死しているとされ、ワニ皮として高価に売れるので死体の奪い合いになったことがあり、全て小学生の冷のしわざであった。
現地の人間はその事実を知るものはいなかった。
冷はクロコダイルを倒した時と同様の武術を披露する。
アントキラーのアゴを持つと噛む力とは反対に上下に引き離した。
するとアゴは音を立てて関節が外れて二度と噛むのは不可能な状態にしてしまうのだった。
あらゆる武術を心得る冷は敵の最大の武器が最大の弱点でもあると身につけていた。
アゴが動かないアントキラーはもはや大きなアリに過ぎないので、ナギナタで殺す必要もなくなっていた。
そこで仲間達に倒させて経験値を上げるようにもしたのだ。
(これなら噛めないから安全だろ、みんなに倒してもらおうかな)
「お〜〜い、もう怖くないから後は任せたぞ」
「ようし、賢者の杖で! 硬いわねこのアリ」
あっけなく賢者の杖は硬い殻に弾かれた。
「ならば魔剣グラムで。アゴが外れても襲ってくるぞ!」
ダンジョンでは魔物はどこからともなく現れる。
囲まれてしまい苦戦中。
「聖剣ヴェルファイアの威力を発揮するわよ〜〜。やっぱりダメだ、昆虫苦手なのよ〜〜逃げ足!」
ミーコは大の昆虫が苦手だったため逃げ足が使われたのは言うまでもない。
冷はその光景を見て頭を抱えてうなだれた。
あまりの情けない仲間に情けなくなった。
なんとか経験値を積ませたいので、どうしたら倒せるのか考えるのも一苦労であった。
「慌てるなみんな。先ずはアリエル、昨日と同様に風魔法を使うんだ」
「やってみるわ!」
後方に下がって呪文を唱える。
その間にリリスとミーコはアリエルを守るようにして、剣を振るった。
「硬くて斬れにくい……」
リリスはアントキラーの硬さに戸惑っていた。
腕力が冷ほどない女の子には、難敵と言える。
「リリス、1度で斬れないなら同じ所を狙ってみろ!」
「やってみるわ」
魔剣グラムで斬っても斬れないのはリリスもわかった。
アントキラーの攻撃に注意しつつ、先ほどと同じ箇所を打撃した。
やはり致命傷とはならなかった。
「ダメそうだな……」
「落ち込むのは早いぜリリス。さっきと違いがあるだろう」
「違い……わずかだけど傷が入ってる」
同じ箇所での攻撃は有効であった。
硬い殻も複数回の攻撃には耐えられないのだった。
「そうだろ、そのまま繰り返してみるんだ!」
リリスは言われたことを繰り返すと、遂に結果が変わった。
「やった〜。斬れたぞ!」
「その調子だぞリリス!」
「何とかイケそうだわ」
リリスが奮闘中のころミーコは先制攻撃を仕掛けていた。
「ミーコ、相手を怖がるな」
「だって昆虫嫌い。デカイし」
「俺だって嫌いだ。好き嫌いはこの際捨てるんだ。大事なのはどうやって倒すかだ」
「わかったけど、難しいわね」
ミーコは頭では理解したけど、なかなか攻撃には繋がらなかった。
だけどミーコが前に出ることでアリエルが魔法を繰り出す時間は稼げた。
「ミーコ、もう大丈夫よ。私の風魔法出しちゃうから。シルフィード!」
シルフィードが放たれて突風がアントキラーに襲いかかる。
ダンジョン内でもシルフィードは効果はあった。
半数のアントキラーが致命傷を負った。
「やったわ!」
「ナイスだアリエル。もう少し頑張れみんな!」
「はいよ」
時間こそかかったが数匹は全滅させるのに成功した。
その後もアントキラーに遭遇したら冷は同じようにしてアゴを外すと仲間に倒させた。
だがそこはダンジョン。
そんなに甘くはない。
3人の出来立ての陣形でいつまでも通用するわけではない。
「ヤバイヤバイよ、数が多いな〜」
「ミーコ、リリス、奥に引っ込んでな。ここは俺が倒してやろう」
ダンジョン奥に行くと適数が増えた。
その為、冷が代わって前線に舞い降りた。
丈夫な殻だけに拳よりも蹴りを多用する。
1度蹴られたアントキラーは衝撃で吹き飛びダンジョンの壁にまで飛ばされていった。
まるでサッカーボールを蹴るような光景となった。
次々と蹴り飛ばして、結果は全滅に成功した。
(ふう〜。これで全滅か。蹴りの練習には持っってこいだな)
冷には準備運動程度にしかならなかった。
「蹴りだけで倒すとは……」
アリエルは自分の仲間で良かったとこの時思った。
「お前なぁ、もう素材がいっぱいだぞ!」
「これ以上倒しても素材は持てないようだ。このへんで町に帰るとするかな」
「私達の貢献が大きいのは確かですなアハハ」
「ミーコは半分逃げるだけだったろ〜〜」
素材が集まりダンジョンから地上に出た。
柳生 冷 やぎゅう れい
性別 男
種族 人族
ユニークスキル スキルストレージ
職業 無職狂戦士バーサーカー
レベル1201←200アップ
体力 4709←1200アップ
攻撃力 4709←1200アップ
防御力 4709←1200アップ
魔力 4709←1200アップ
精神力 4709←1200アップ
素早さ 4709←1200アップ
剣術レベル 699←100アップ
柔術レベル 699←100アップ
槍術レベル 699←100アップ
弓術レベル 699←100アップ
斧術レベル 699←100アップ
[冷]
毒耐性を覚えました。
またまた冷のステータス数値は格段に上がり、自分でもどこまで上がるのかと誰かにききたい気分であって、しかし歴史上で初めての件の為、過去に前例がないのでレベルの上限値は不明というのが現在の正解となる。
さらに今回は3人の職業レベルが上がったのは収穫となった。
ある程度の3人による攻撃フォーメーションがで来つつあり、冷も辛抱強く見守る。
町に帰り冒険者ギルドに寄った。
大量の袋を見るやユズハ店内はまた冷がと会話のネタになった。
店員さんももはやこの状況に笑うしかない。
「…………この短時間で大量のアントキラーを倒せるのは冷さんしかいません。びっくりを通り越して笑ってしまいますよ」
「俺は半分見てただけだから、いつもより5倍時間かかったんだけどなぁ〜」
「5倍ですか、あははぁ」
この発言にはため息をつくしかなかった。
ユズハ店員は冷の言ってる意味がわからなくなってきていて、中級、いや上級魔人をも倒せるのではと考えてしまったのだ。
魔王がまだ復活していない以上、上級魔人が最も危険な存在でありこの世界を恐怖で覆い尽くしていた。
冷なら対等に戦える気がした。
目の前にいる冷は特別な物を持っていると感じてしまうし、期待感が高まるのだった。
ギルド店内にも変化が起こる。
「アレが冷達だろ」
「いったい何なんだろう、あの強さは。ルーキーと呼ばれる冒険者はいたが、スケールが違う。超ド級のスケール感といったらいいかな……」
「その通りだな、この先がすえ恐ろしい存在だぜアイツは……」
ギルド店内にいた冒険者達は、冷の活躍を賞賛する一方、怖さも感じ取ったのであり、その噂は町中に、そして近隣の町にも広がっていた。
大量のマリが入りギルドを出たところでミーコがある事に気がついた。
「おかしいなと思ったら靴が片方ないですよ?」
「あっ、そうだったな。俺も忘れてたわ。アントキラーに噛まれたから捨ててきたんだった」
「そんな大事なこと忘れるとは、いかに冷氏が魔物討伐のことだけ考えてるかがわかりました」
この点においては、ミーコは尊敬しようと思った。
「うん、靴がないのはどんな人でも気付くわね、冷は戦いのことしか頭に無い。それは冒険者として一番必要な要素のひとつよ!」
アリエルも絶賛し冷にウインクしてあげた。
「お前らしいな。戦う為に生まれた来たようだぞ!」
滅多に褒めないリリスも大絶賛する。
「いやぁ照れるなぁ〜〜〜」
この時3人は冷と仲間になって良かったなと心から思っていて、羨望の的となった。
しかしその憧れは間違いであり勘違いであった。
冷は靴がないのはクエストのことを考えていたのではないのであるだけでなく、これっぽっちも考えていなかったのだ。
あることで頭がいっぱいにならざるを得ないからで、その頭の中とは。
(宿屋に帰ったら、楽しみだなぁ〜〜〜。今日は誰を可愛がってやろうかなぁ〜〜〜〜)
これが世界一の武術家の頭の中であった。
もちろん3人には絶対に知られてはならない秘密である。
そこから防具屋に立ち寄り靴を新たに購入。
風のブーツ
(耐久性は低いが軽くて動きやすい。金属製の靴よりも素早い動きが特徴)
ここで普通の冒険者なら宿屋に帰るのだが、冷は違う。
クエストの後にも訓練を行う。
いつもの広場に連れて行く。
「さあ、こうれいのイベントと行こうではないか」
「またか、だって今日は3人とも活躍したはずよ」
「そうだな、確かにアリエルの言うのは当たっている。今日はキミたちには強敵と言える相手。それを多く倒せたのは褒めてあげよう」
「だったら訓練はいいのでは」
「いいや必要だな。なぜなら倒せたのは俺がアゴをあらかじめ外しておいたからであって、完全にキミたちの力ではないからだ」
「まあ、そう言われると……」
アリエルは返す言葉を失う。
「それでだな相手が硬い場合にも対応出来るように鍛えておくべきだろう。それに必要なのは腕力。腕力が決定的に弱いんだな3人とも」
「腕力を鍛える訓練をやらせる気か?」
「正解だリリス。先ずは俺が手本をみせるからな」
(腕力を鍛えると言えば腕立て伏せだろう)
冷は地面に手をつける。
いわゆる腕立て伏せの体勢だ。
そして上下に腕を曲げてみせた。
軽々と冷がするので3人は楽勝に思える。
「なんだ簡単そう」
「おお、ミーコ、簡単に見えるか。じゃあさっそくやってみるんだ。とりあえず10回だ」
「いいわよ。余裕でしょ」
冷と同じ体勢になって腕立て伏せを開始。
最初の1回は言うように問題ない。
だが2回目で異変が起きる。
「うう〜」
「どうしたのミーコ。まだイケるでしょ」
「アリエル、それが……曲げられないの腕が……」
腕立て伏せはやってみると意外とキツイ。
ミーコは2回目で実感した。
すでに限界に達していた。
「そうだろう。腕立て伏せは腕力が相当に必要だ。10回でも大変だぞ。嘘だと思うならアリエルとリリスもやってみな」
「どれどれ」
2人ともはじめてみると同じように直ぐに限界に達していた。
「どうしても曲げられないわ。く、苦しいわ」
「腕がぷるぷるしてきた……」
「これがキミたちに現状だよ。腕力が引くて剣の持つ力が発揮されてないのさ。よって10回出来るまで頑張るんだぞ!」
「ええええ!!!」
3人同時に悲鳴が上がった。
たとえ悲鳴が上がろうとも冷の判断は揺るがすことはならなかった。
それは彼女らを強くしたいという想い。
しかしそれだけではなかった。
なぜなら腕立て伏せとは体を下向きにするわけである。
必然的に胸が地面と平行となる。
平行となればあることが起きるのだが、実はそれを期待していたのだった。
(う〜ん、女の子が腕立て伏せすると胸が露出されていいな〜)
教官めいた偉そうに言ってはいるが、なんてことはない、ただのエロい教官であった。
「9…………10。ふう〜〜〜〜終わった〜」
「よく頑張れたな。これを毎日すれば腕力もついてくるだろうよ」
「ま、毎日!」
「そうだぞ」
(毎日この胸が見れるのは楽しいもんだ。裸とは違い見えそうで見えないのがいいのだ)
その足で夕食を取り宿屋に帰った。
「リリスよ、魔剣をまともに振れないし、困ったもんだな」
「う、うるせえ。お前に体を心配されるほど体はヤワじゃない」
「心配して言ってるんじゃない、見たいから言ってるんだよ」
「誰が脱ぐか。お前なんかにお前なんかに」
「果たしてそうかな……」
「しまった!!」
冷は一瞬の速さでリリスの防具類をはぎ取った。
「えええっ!!! 速い! 裸にされた〜」
「よ〜〜し、ダメ淫魔よ、今日はお前がメインだぞ〜」
「う〜〜〜ん」
冷はリリスを中心に楽しむこととし、アリエルとミーコは手加減したのでリリスは大変な事態に陥った。
淫魔という隷属系の最上位職業をもってしても無職狂戦士を前にしたら単に可愛い女の子となっていた。
(淫魔の体で楽しむーのって楽しいなぁ〜〜〜〜)
歴史を書き換える事態が起こっていた。
かの有名な淫魔を自由自在にしてしまう人族の登場を誰も想定していなかったのである。
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