第9話

 少しの時間の睡眠で今日の探索の準備に取り掛かる冷。

 準備運動を部屋でしていた。

 メイジラビットの睡魔と盗賊クマの盗人ガードが新たにスキル庫にあり、無職レベルも上昇していた。

 スキルは順調に増えて便利になっているが、相変わらず無職である。

 このまま無職を貫くのもどうなのかと少しだけ疑問に思いなやんだが、見ず知らずの者に講習を受けるなど嫌であった。

 ベッドではアリエルとリリスが下着姿で寝ているので、起こして不満を言われるので、そっとしておき昼過ぎにようやく起きてきた。


「……おはよう冷」


「……もう朝か、まだ眠いぞ」


「昼だよ。今日も冒険者ギルドに行くから早く起きて準備しろよな」


「女神の扱いがひどいわ。もっと丁重に扱いしてもいいのよ」


「これでも丁重に寝かしてあげてたのに」


「転生の場では寝るのや起きるのは自由だったからだろアリエルはさ。それと、お前に起こされるのは魔族の淫魔としては不満だ」


「俺のせいじゃないだろう。それよりも疑問があってアリエルは転生の場から来たわけで今はどうなってんのかな。代わりの神族が居てくれてるとか」


「他にも仲間がいますので誰かしらが異世界転生を振り分けてるでしょう。なぜ居なくなったのか騒ぎにはなってるでしょうが。まさかここに居るとは思いもつかないわ。ああ帰りたい」


「俺が悪いという目で見るなって」


「だって悪いでしょう」


「それより腹減った」


「わかったよ、ご飯にしよう、俺も腹が減ってきたしな、アリエルもだろ」


「ええ、減りました」


 リリスが不満気味なので食事をとりに宿屋を出発し食事を食べた。

 基本的に冷は幼い頃から空腹には慣れていて、もし遭難し食事が取れなくても生きていける胃腸にする訓練をしてきたからである。

 1日くらいなら水だけで食べなくても問題はない肉体へと鍛錬されてあるが、魔物と戦闘したい欲求が高まるので冒険者ギルドへ足を運んだ。

 冒険者ギルドでは他にも多くの冒険者がテーブルについていたが、店内ではすでに冷は注目される存在となりつつあった。

 まだ駆け出しの初心者冒険者で職業は無職なのに異常なまでに成果を残しているからで、普通ではあり得ないような成果であった。

 クエストを終える速度は異常なほど早く、とても初心者の域を超えてると噂になっていたのだが当の冷は噂など知るよしもなかった。

 ユズハ店員が笑顔で接客。

 

「いらっしゃい冷さん、今日はクエストランクを3にあげても良いと判断がくだりました。普通では初心者冒険者がギルド登録してランク3などとても無理な話ですし早すぎますが、冷さんはとても信じられない例外な冒険者として判断されてランク3が許可されましたがどうしますか、無理する必要はありませんよ。何かあって死んだら大変ですし今までにも無理をして死んだ方がどれ程いたか」


「ギルドでは適切なランクを設定して紹介してるんですね。俺としては無理じゃないですし内容をみたいかな。他に2人仲間が居ますから」


 自分の心配はいいからクエストの詳細が知りたい冷であった。



クエストランク3

 カマイタチの討伐

 報酬 1匹 1800マリ


 

「カマイタチってのは特徴を知りたい。教えてください」


「特徴はイタチに似た姿をした魔物で、非常にすばしっこいですので気を付けてください。あなどると素早い攻撃で大怪我をします。冷さんでも驚くような速さで来ますから、撤退するときは早い段階で撤退の判断をお願いします。メンバー全滅した例もある強敵です」


「速度がある敵ですね。頭に入れておきます」


 クエストランク3を受付けると店を出ようとした。

 そこで冒険者が数人居て冷に向かって話しかけた。


「よお兄さん、新人だけど凄いじゃんか。しかも可愛い子まで連れちゃってうらやましいな〜」


「ありがとう。今日はランク3ですが気をつけるつもりですよ」


「頑張るのはいいが、くれぐれも魔人には手を出すな。命が惜しければな」


「魔人……もしやあなたは俺よりも強いと言うんですか?」


「強いと言うレベルを超えてる。キミなど一瞬で終わりだろう。ランクの高い冒険者ですら逃亡するほどにな。そうなったら今さらレベル上げしても無駄に思えるがな」


 見知らぬ冒険者が冷に魔人について説明した。

 魔人の話は聞いていた冷だが。


「もっと詳しく教えてくれませんか、知ってる魔人について?」


「魔人は魔族のなかでも最高レベルの魔族さ。国の最高予言者の予言。過去にも予言者の予言通りになったと言われてるから魔人が現れる未来が実際に来ると思っていいだろう」


「で、どうなったんすか?」


「人族、精霊族、獣人族などの民族は絶滅寸前までなった。魔王とその配下である魔人と魔族が支配する世界になった。だが絶滅寸前の中から勇敢な者が現れて魔人を滅ばした。さらに魔王をも封印に成功したと言い伝えられてる」


「おっさんの言いたいことはその魔人と魔王が人族を滅ばしに攻めてくるって解釈していいのかい」


「そうなる。5000万年前の話だがな」


「5000万年に1度起こるってか。ずいぶんと長い話だな。俺にはまるで想像がつかないぜ。ていうか、国は何かしらの魔人の対策をしてるんだろ、予言者が言ってるわけだしさ。俺が参加する必要もないだろう」


 冷は他にも強い冒険者が居て、対応すると考えた。


(俺は不参加でも大丈夫だろ。国だって軍隊があるだろうし強い奴らがいるはず。俺は俺で好きにさせてもらう。そんなにヤバイ魔人が来るなら死にたくないし、誘われても断ろう)


「当然に最高戦力の者を揃える予定だ。だが冒険者だって命は惜しい。必ず参加するとは限らないとか。まああんたは確か冷って言ったかな、冷はこの町でも期待の超大型新人として名が知られる存在だからな。国王から指名が来る可能性もあるぜ」


「ご忠告ありがとうございます、おっさん。俺は自分の好きにやらせてもらいますよ」


「大物らしい、言い方だ」


 そこで冷は会話を終えてギルドを出る。

 アリエルに体を向ける。


「なあアリエル、今の話は本当なのか。知ってたのか?」


「ええ、知ってたわ。本当のことを言うとね。魔王が来るタイミングに合わせて冷を転生させたの」


 アリエルはバレたかという感じで話しだす。


「知ってたじゃねって、直ぐに来るとか言ってたぜ」


「全部そのまま教えると怖がって絶望的になっちゃうと思って、あえて伏せてたのよ。3大魔王も来るのは、いずれは言わないとと思ってて、タイミングがなかったのよゴメン」


「ゴメンじゃないだろう。俺にも心の準備ってもんがあるしな。魔人は俺が戦えるレベルなのかがわからねえし」


「無理かな。はっきり言って死ぬわね」


「はっきり言ってくれるな女神さん!!」


「冷が戦うかは冷が決めたらいい。私は強制しないわ。ただ分かってることは魔王の復活は変えられない。必ずやって来る。そして絶滅する。魔族以外全ての民族が。他の1兆個ある異世界も」


「おいおい、そう絶望的になるなよ女神なんだからさ。女神が絶滅しちゃマズイだろ。そう思うぜ」


「……」


 アリエルは黙ってしまう。

 明るい笑顔はそこには無くなっていた。


「絶望的だろ。お前は魔王を知らないから言えるんだ」


 リリスがアリエルに代わって言う。


「リリスは魔族だろ。魔王は知ってるのか。知ってたら全部教えてくれよ詳しくな」


「魔王は会ったことないが、魔人なら知っでてることはある程度で厄災だな。突然に現れるとかで、私もそれしかわからないのが上級魔人だ。それプラス3大魔王が加わる。魔獣ヘルサモス、魔竜ガノラゴン、魔亀クロノガランだ。こいつらは別モン。前回は時空魔法で移動して9900万個くらいの異世界を破滅させたらしい」


「9900万個とはやり過ぎじゃねか。もう少し遠慮しろよな。そんなの手に負えねえだろもはや!!」


(普通じゃねえ相手なのはわかったが……)


「そこは私もわからない。同じ魔族から聞いた言い伝えだからな」


「アリエル、言えよな全部。知ってることを。俺がやるんだから知る権利はあるはずだぜ。それに今知っても、後で知っても一緒だ」


「3大魔王が暴れて、どうしようもなくなって、他の生き残った異世界から選りすぐりの強い冒険者を集めて転生させたのよね。それでも勝てなくて困った時に勇者に頼んで封印魔法で封じ込めたの。でも封印だから時間とともに魔力が弱まる」


「今がちょうど魔力が弱まって封印からお目覚めってか。そのタイミングで俺は来たわけだな。すげー絶妙なタイミングで嬉しくて涙がでる。とにかく話はなんとなくわかった。ヤバイのがもう直ぐ来るわけだろ。そうなったらこっちも準備が必要なのはわかるよな君たち?」


(俺が準備って言ったら、アレしかないだろうに)


「準備だと。お前が言ってる準備ってまた訓練のことか?」


「大当たり! 今日もどころか明日も明後日もだ。俺の訓練は毎日続くと思っていいぜ。覚悟を決めるとまでは言わないが、楽しんで鍛えるのが俺の考えだから」


「楽しんでるのは冷だけでしょう。私はキツイだけよ。可憐で幼い少女をイジメてホントにヒドい男だわ冷は」


 アリエルは自分を幼い少女にたとえる。


「あの〜少女ってどこですか?」


「どこって私しかいないでしょうが!」


「そういう時だけ女神振るなっての! それよりも訓練開始だ!!」


「はいよ〜」


 はりきる冷と違い、アリエルとリリスはそれほどテンションは高くはない。

 広場に行き訓練を開始。

 最初は体力の強化をはかった。

 予想以上に2人とも体力がないのには驚いた。


(恐ろしいほど体力がなかったからな。体力の強化と個人の適正も考えていきたい)


 昨日と同じく走り込みを行うことにした。

 

「さあ走った走った!」


「お前も走れっつーの!」


「文句を言わないで走れ!」


 走り込みの楽しみは昨日でわかっていた。


(やっぱり女の子の走ってる姿は見ていて楽しいもんだな。訓練にもなるし一石二鳥とはこのことだろう)


「走り込みはオッケーとして、ところでアリエルは魔法は使えるの。戦いには前衛と後衛があって戦闘向きなら前衛になるのが普通だ」


「魔法は今は使えないけど適正はあるの。転生の場にいた頃は沢山覚えていて使えたし。だから私の女神レベルを上げていくのが1番近道です」


「女神レベル上げなら実戦が1番なんだよな。だからアリエルにはクエストで頑張るのを期待するぞ。これは俺の願望でもあるぜ」


「わかりました。何事も経験ていうから」


「その調子だぞ! リリスはと言うと魔剣が使えるんだよな。その魔剣つーのは何なんだ。俺の住んでいた日本には無かった物だ」


 妖刀と呼ばれる剣は存在したが魔剣となると初耳であった。


(魔剣て名前からして強そうな剣だけど、リリスは使いこなせてないんだよな。剣に負けてるっていう感じ。俺の方が使えそうな気もするが。剣の特訓が必要だなリリスは)


「魔力を剣に込めれる特殊な剣の総称。剣によっては摩訶不思議な効果を発揮するのもあるらしい。私は能力的には魔剣を使って前衛って感じかな」


「よし。リリスには剣の特訓を俺が相手してやるから覚悟しろよな!」


「はいよ。特訓とか面倒くさいけどやれっつーんだからやってやるよ!」


 リリスには剣の個人レッスンを行った。

 もちろん冷にとっては、目をつぶっても相手にならないのである。

 しかし目をつぶることはなかった。

 ある理由がある。


(おお! リリスの巨乳が剣を振るたびに揺れやがるぜ。これはいい眺めだ。嬉しい訓練だから毎日でもやってやろう。本人には絶対に言えねえけど)


 こうして冷のやりたい放題的な訓練が終了した。





 情報を教えられいざ探索の開始。

 町を出ようとした時だった。

 何か後をつけられてるように冷は感じとると、周囲に怪しい人物がいないか警戒しながら歩く。


(ん? 誰か俺を狙ってる奴がいるな。さっきからビンビンの気配感じてますが。俺を殺す気か。理由は心当たりねえけどよ殺される。それとも俺が冒険者としてちょっと有名になったから、名を上げる奴が現れたとも考えられるな。実際に日本でも遭遇したことはある。そん時はもちろん返り討ちにしてやったがな)


 尾行に気づいてはいたがあえて心配させないようにアリエルとリリスには伝えずにおいた。

 少しの間、町を歩くため遠回りし様子をみると2人も不信に思ったようだった。


「あれ冷、こっちは出口じゃないのよ。クエストに行くのでしょ?」


「わかってる、黙って俺について来い」


 理由はわからないが何か考えがあるのだろうと、冷の指示に従うことにした。

 その時だった、ひとりの人影が冷達に急接近してきた。

 アリエルはそのことに気づかないまま歩き何か過ぎ去った様に感じた。

 

「何今の?」


「どうかしたのかアリエル」


 リリスがアリエルを気づかう。


「あれっ、私の袋がないわ。確かに持っていたのに! リリス取ったでしょ?」


「取るわけねえだろ! 見てみろ1つしかねえだろ、あれ、ないぞ、私の袋もないぞ!」


 アリエルに急接近した者が気配を隠し盗み取ったのが原因であり、犯人である。

 少しして盗まれたことに気づいて慌てるのだった。


「盗まれたんだわきっと!」


「まあ落ち着けアリエル心配はないさ」


「だって袋がないと素材収集できないし困ったな」


「盗人がいるのもわかってる。奴はもう一度来るからその時に俺が捕まえるさ」


「大丈夫かしら」


 冷は盗まれたことにすでにわかっていたため、取り乱すことなく冷静でいられたのは尾行は知っていて急接近し盗み取った瞬間も見逃さなかったからである。

 その場は見逃したわけで、冷自身は何も盗まれていなかった。

 どんな暗闇でも相手の気配を察知する気配察知能力を鍛えるため目隠しをさせられ夜道を歩かされる修行をしてきた冷には、尾行した者の動きが手に取るように見えた。

 さらに昨日盗賊クマから習得したスキルの盗人ガードが発動し盗み取るのを無効化したのである。

 この盗人ガードは正に目隠しの厳しい習得をした冷にはうってつけのスキルであり、即座に応用出来たわけで一般的な冒険者にはとうてい出来ない芸当であった。


(あそこに隠れてるのは知ってる。俺には通用しないぜその程度の動きじゃよ。どうせもう1度来るのだろ。その時が勝負だぜ)


 冷からだけ盗み取るのに失敗した者はなぜ失敗したのかわからないでいて、もう一度冷の所持品であるナギナタを盗みに急接近した。

 

「あれ、どうして盗み取れないの! 変だわ!」


「誰よあんたは!」


 リリスが盗人の姿を見て言い放った。

 その場にいたのは可愛い顔をした女の子であり、2度も失敗したことに悔しがっていて、冷はというと女の子だったことには驚いていたのは、思い込みで男だと決めつけていたからだ。


(女の子じゃないか可愛いぞ。斬らなくてよかった。男だと思ってたから、斬り殺す予定だったから。危ねえ、でもなんでこんなにも可愛い女の子が盗っ人まがいのことを。訳ありなのかな)


「私はミーコ。袋は取ったけど返さないわよ。それと男の方は不気味。盗み取りたいけどなぜか取れないのは残念。どうしても取れない!」


「盗賊! 私達を狙う理由は何よ?」


「あなたが冷でしょ、調べはついてるわ。最近急に現れて話題になってる冒険者よね。どんな噂も耳に入る。今のあなたがたを狙えば確実に大金を持ってるだろうし、美味しいと思ったわけよ。ていう理由で持ってる金と所持品を全部置いてけば命だけは見逃してやる。さあどうする?」


 ミーコは注目を集める冷なら金を取れると確信していたが、冷はというと話を聞いてもなお冷静なままであった。

 はなから金を渡すつもりもないし、逃げることも頭にない。

 ただ盗賊の腕はあるようで、感心していたのであった。


(女の子なのに俺に喧嘩を売るとは、参ったな。こうなると俺もどうしていいかわからないですが、まさか殺すのは俺の気持ちに反するしよ)

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