第8話

 宿屋を出る時にエクセリア店員に会う。

 冷の隣にはリリスとアリエルが立っていて、なぜか下を向いていて恥ずかしそうにしているのを確認する。

 アリエルとリリスは昨晩はほとんど眠らせてもらえない程の夜を過ごしたからであった。


「冷さん、おはようございます。出発ですか、今日のご予定は?」


「今日は昨日と同様に冒険者ギルドに行きクエストを行いたい。またその帰りに来ますので」


「ありがとうございます。ぜひ泊まってください」


 エクセリア店員は丁寧に受け答える。

 だが彼女の顔は赤くなっていたのを、冷は気付いた。


「昨日よりも顔が赤いですが、どうかしましたか?」


「いいえ!!! 冷さんの気にせいでしょう」


「そうですか。また来ます」


(やっぱり赤いよな)


 冷は気付いたのは真実であった。

 エクセリア店員は実際に赤くなっていたから。


 宿屋を出て冒険者ギルドに立ち寄ることにした。


「今日も冒険者ギルドに行こうと思うがいいよな」


「生活していくにはお金は必要ですし、当分は避けられないの。ギルドにはお世話になりそう」


 ギルドに到着すると、またも女性店員ユズハが対応してくれてラッキーと感じる冷であった。


「今日もクエストをしたいです」


「昨日は驚きました。職業が無職であるとステータスは大幅ダウンして経験値を積んでもいっさい攻撃力や防御力などの数値も上昇しないんです。にも関わらずゴブリンを討伐しちゃうのは理由が全くわからないのです。理由はともかくその能力ならクエストランク2も行けるでしょう」


 ユズハ店員が言っている無職の説明は正しい。

 無職は初めの初期職業であり、他の職業とするのが常識であった。

 無職で冒険者登録しクエストをする者は皆無であろう。

 しかし冷の持つ無職狂戦士は通常の無職とは違った。

 とてつもない力を持っている。

 その違いをユズハ店員は知らない。

 知らないのは当然と言えて、歴史上で初めて取得したのが冷だからである。


「ランクが2ですか、ぜひ2でお願いします」



クエストランク2

 メイジラビットの討伐

 報酬 1匹 1500マリ

 盗賊クマの討伐

 報酬 1匹 1500マリ



「どんな魔物なのかな?」


「メイジラビットはゴブリンと違いウサギ系の魔物です。また魔法を時より使用してくるので苦手な冒険者もいますから、注意してください。盗賊クマは力が強いので絶対に組み合わないように」


「ウサギとクマか。全くタイプが違う相手だな」


「冷もクマは怖いのかな?」


「そんなわけないぜアリエル。俺には怖いものなんて無いに等しい。ウサギやクマは小さい頃からよく戦った相手だ。戦い方はわかってるから問題ないよ。それよりも君たちがどうするかだな」


「まぁ……冷の戦いの様子を見ながら戦いますわ……」


 アリエルはこうなると弱気になる。

 リリスはというと、


「……ウサギなら戦ってやるぞ」


 とクマは棄権したようだった。

 

「君たちなぁ……」


 やや弱気になる2人に戸惑う冷で、少しでも実践で鍛えるようにしたいと思う。


(おいおい君たちは、大丈夫かよ……)


 冒険者ギルドを出て探索開始する。

 出現場所はユズハ店員が教えてくれた場所へ向かう。

 

(交換金額が増えてるから、美味しいな。金はやっぱり必要だし)


 日本では無職であったため金を得る経験がなかったわけで、獲得したことに初めて得る気持ち良さを感じていたのである。


「私はレベル1になって戦闘には向かないしそもそも戦闘経験がない上、武器を使用したこともないの。冷にお願いするわ」


「神族っていうから強えのかと思ったけど。今のままじゃ困るな」


「私もクマは苦手。デカイし凶暴だし」


「リリスもかよ。2人揃って戦う気ゼロってとこか。よし昨日から考えたんだけどさ、クエストに行く前に戦える様に鍛えてやろうと思う。どうだいい考えだろ?」


 アリエルとリリスはともに戦闘向きではなかったのであり、素材の収集する要因となってしまった。

 冷は宿屋でお楽しみがあるので、怒らなかったが鍛えていくのを検討していた。


「鍛えてって、私達を?」


「アリエルは本来は神族だろ。今は戦闘経験が乏しい。だから戦うと負けるのだとしたら、俺が鍛えてやれば強くなれると思った」


 この時、冷はハッキリとではないがアリエルの潜在能力の秘められた力を感じ取ったのであり、普通の女の子ではないと思う。


「そうは言ってもな。冷の指導と言われると心配な気もするの」


「どうして俺の指導が心配なのかな。別に死ぬ程に訓練させたりしないぞ。ちゃんとアリエルのことを考えた指導をするさ」


「だって冷ったら、昨日の夜の事……あんな指導されたら……」


 アリエルは昨日の夜にあった出来事を思い出す。

 冷の人並み外れた体力によるもの。

 もうアリエルの体力ではまかないきれない。

 それを戦闘訓練でもされたらと思ったのだった。


「夜の事か、アレはアレだろう。戦闘訓練は別物さ。無理はしないさ。心配することはない」


(昨日の夜は、俺が頑張り過ぎたからな。きっとアリエルは勘弁してってことか)


「私も訓練するのかよ。寝不足なんだよな、誰かさんのせいでよ!」


 リリスが不満を言う。

 その目線は冷であるのは間違いない。


「いや〜つい、ハリキリ過ぎて」


「訓練は程々にしろよな。じゃないと体力がもたな……からさ」


「わかったわかった。手加減するから」


 実はアリエルだけでなくリリスの潜在能力にも興味がある冷であって、魔族を見るのは無かったが特殊な力を秘めていると感じ取っていて、恐らくはとてつもなく恐ろしい潜在能力だと判断していたが、このことはまだ彼女達には言わないようにしていた。


(今日は初めての訓練だから、ちょっとずつ鍛えるように心がけよう)


 冷は町にある広いスペースを偶然にも見つけた。

 人が近くに居ると危ないのもあるからだ。


(武器を振ったりするから、広い方がいい、町の人が怪我したら大変だし)


「先ずは基礎体力が必要だ。君たちは魔物と戦えるだけの体力がなってない。そこから訓練を始めるぞ」


「体力と言っても私は女の子だからね冷」


「そういう時だけ女の子ぶるなアリエル!」


「は〜い」


「お前に聞きたいことがある。体力って言うけどどうする気だ」


「体力を鍛えるなら手っ取り早いのは、走り込みだな。俺もよく親父に走り込みさせられたもんさ。だからこの広場を走り込みしてもらうぞ。よし2人同時に走れっ!!」


(リリスが指導者の俺に向かってお前って呼ぶのは気にはなるが、まあいいか)


 走り込みを言い渡された2人は、あからさまに嫌な顔を作った。

 

「ただ走るのか。仕方ないな」


 結局は走るのを開始。

 アリエルは軽々と走り始める。

 青い髪が走ると風になびいていく。

 白い肌が印象的である。

 対してリリスはペースが遅い。

 赤い髪が揺れるが、顔は不機嫌なのがわかる。

 その走り込みを10分程続けると変化が起こった。


「冷、もう走れません。疲れました」


 開始間もなくアリエルが弱音を吐いて、呼吸を乱して言った。


「私も。今日はこの辺で終了して」


 続けてリリスが膝に手を付いて言う。


「もうバテたかよ、早すぎるな。まあ最初だから多めにみてやろうかな」


「助かったわ!」


「水をくれ〜」


 冷の言葉を終わりと判断したので、あんどの表情の2人。

 だがそれは早とちりであった。


「おっと、まだ終わったとは言ってないぜ俺は。ラストもう1周してもらう。それと防具は脱いでくれ」


 もう終わったと思ったところで言い渡した。


「どうして防具を脱ぐのですか?」


 アリエルが疑問に思うのは無理もなくて、すでに疲れ果ててるのに何の意味があるのかと。


「それはだな、防具は重い。少しでも軽くしてやろうと思ってな。最後くらいは」


(本当は違うのだけど……)


「お前が、優しく言うのは気にはなるが、軽い方が楽だからいいかな」


「……そうね。脱ぎます」


 冷の説明で2人は防具を全て脱ぎ捨てた。

 そうなると冷の思うツボとなった。

 防具を脱げば下に着ていた衣服だけになる。

 通常防具の下には多くを身に着けない。

 なぜなら動きが悪くなるからだ。

 出来るだけ身軽な方がいいのである。

 つまりは2人は、ほぼ下着姿となり変わっていた。

 コレが冷の狙いだったのである。

 露わな下着姿を見て冷は。


(可愛いな〜下着姿は)


 訓練と言っても楽しい方がいいと言う考えであった。


「これで走るのかしら。リリス、胸が半分以上見えてるわよ」


「どうしよう。でも後1週だろ。早く終わらせようぜ!」


「そうしましょう!」


 あきらめて2人は走りだした。

 残り1週と言うのもあったからだ。

 走り出すと冷は驚がくした。

 アリエルは胸は小さいが足は長くスタイルは抜群。

 リリスはと言うといわゆる巨乳。

 走る度に胸が大きく上下に揺れる。

 防具を着てるときは分かりにくい。

 しかし今はモロに露出されてるので、冷は2人に視線がくぎ付けとなったのは、当然だろう。


(すげーな。まるでグラビアアイドルが2人いるみたいだ〜)


 ラストを終えて走り込みの訓練は終了した。


「ご苦労さま。今日の訓練は終わりとしようか」


「疲れた〜」


「もうクエストは無理!」


 冒険者ギルドでクエストを受付けていたわけだが、すでに2人はご覧のあり様に。

 

「とてもクエストに行ける状態じゃないと言いたいところだが、そんな俺は甘くないぞ。もちろんこれからクエストだ!」


「ええええ!!」


 

 びっくりする2人を引き連れて、魔物が出現すると言う地に向かって出発。

 文句を言いながら歩くしかなかったアリエル。

 リリスも同じくふてくされてちたが、置いていかれるのも嫌なので結局は歩き出した。

 出現場所に到着するとさっそく魔物が現れ、襲いかかってきた。


メイジラビット

[睡魔]


盗賊クマ

[盗人ガード]


「……魔物がいるわ!」


「……アレが今回の獲物だろう」


 現れたのは目的であるメイジラビットと盗賊クマの2匹。

 狙い通りの出現で冷はナギナタを身構える。

 初心者の冒険者なら、大きなクマの魔物に脅えるものであるが冷はまるで脅える様子はない。

 

(ウサギとクマか。クマなら少しは強いだろうな)


 盗賊クマは襲いかかるが、なぜか足を止めてしまい近くに来ない。

 盗賊クマの動きに合わせるかのようなにしてメイジラビットがスキルを発した。


[睡魔]

敵全体に睡魔の効果を与える


 メイジラビットが発したスキルは睡魔であった。

 全体に効果があるため冷だけでなく、後方にいるアリエル、リリスにも影響が与えられる。


「な、なんだ、メイジラビットめ、何かしてきたな!」


 冷は極限まで研ぎ澄まされた神経でメイジラビットの睡魔を感じとれ、直ぐに対応する。

 しかしアリエル、リリスは対応するもその術がなかった。


「あ、あれれ、眠くなったわ冷……」


「眠いぞ、まずい眠いぞ……」


 2人とも崩れ落ちるように寝入ってしまったのを見て冷は察知する。


(これがメイジラビットのスキル睡魔か。あなどると大事故になるな。だが俺には通用せん)


 邪眼で始めから知っていた上に、ゴブリンから習得していた睡魔封じが発動し打ち消していたのだった。

 睡魔という眠りの誘いを精神的な面で麻痺させ肉体を完全に眠りにつかせる、効けばとても恐ろしいものであるが冷は幼い頃からいつ何時にも敵が襲って来るやもしれない状況下で生きてきてことで、三日三晩寝ずに意識を保つという超人的な経験を持っていた。

 その経験があったからこそ睡魔封じのスキルを即座にマスターし使用したのであった。

 よってメイジラビットの睡魔は無効となった。


(2人とも寝ちまったようだ。今度は俺が攻める番だ!)


 一瞬で間合いを詰めると、メイジラビットが睨みつける頭部をナギナタでひと振りし倒した。

 あまりの素早さに防御する間もなく死んだ。

 残りは盗賊クマ一匹であり、冷の速度に目がついていかないことに驚き叫び声をあげる。


「うおおおおおお!」


 身の丈は冷よりも遥かに大きな体を持つ盗賊クマは、両腕を高くかかげより大きくみせる体勢をとった。

 3メートルは達する高さで敵を脅えさせるのが得意の戦法で冒険者によってはこれで動けなくなる者も多い。

 しかし冷は脅えるどころか笑いを含んでいる。


(山にいた熊と比べたら怖くねえし!)


 冷が比べた熊とは修行を兼ねて山にこもった時に遭遇した熊のことで、大きさは4メートルをゆうに超えていて、大きさに臆することなく素手で倒したのは冷が10才の時であった。

 それ故に盗賊クマの目前までゆっくりと歩いて間合いを詰めると、がら空きの腹に素手の一撃を食らわしてしとめた。

 戦闘が終わったのも気づかず寝てるアリエルとリリスは、ゆっくりと目覚める。


「あ、あれ魔物は?」


「もうとっくに倒したさ」


 アリエルは申し訳ない顔をするしかないとし、リリスは。


「もっと寝かせてくれ」


「まだ探索は続けるから起きろ!!」


 探索はその後も続けるとしたが、問題は発生し戦闘時になる度にアリエルとリリスが寝入ってしまったことである。

 2人とも絶対に寝ないと宣言こそするものの、必ず睡魔の効果が効いてしまい戦力外どころか単に足手まといとなった。

 本当なら魔物の討伐後に素材の収集は冷の仕事ではなかったはずだが、寝てる者に収集は出来るわけもなく冷自身で収集するはめになり困ったのであったが、その分宿屋に帰るのが楽しみであった。


(俺に全部押し付けやがって、このお返しは宿屋でたっぷりとしてもらうぞ〜〜〜〜〜〜)



柳生 冷

やぎゅう れい


性別 男

種族 人族


ユニークスキル スキルストレージ 


職業 無職狂戦士バーサーカー

レベル601←200アップ


体力  1309←500アップ

攻撃力 1309←500アップ

防御力 1309←500アップ

魔力  1309←500アップ

精神力 1309←500アップ

素早さ 1309←500アップ


剣術レベル 399←100アップ

柔術レベル 399←100アップ

槍術レベル 399←100アップ

弓術レベル 399←100アップ

斧術レベル 399←100アップ


睡魔を覚えました。

盗人ガードを覚えました。


[睡魔]

敵全体に睡魔の効果を与える。


[盗人ガード]

相手からアイテムを盗まれるのを防げる。



 無職狂戦士のレベルが大幅にアップ。

 それとメイジラビットの持つ睡魔とクマの盗人ガードを覚えた。

 今回も途方もない勢いでステータスの数値が上昇した。

 数値の上昇速度は衰えずに、さらに増していた。


 冒険者ギルドに到着しユズハ店員に素材を渡した。


「えっ、こ、こ、こ、これはまたもや本当に全部ですか? まだギルドに登録して2日目なんですし、これだけの量をこんな短時間で持ち帰るなんて見たことありません!!!!!」


 ユズハ店員は今日の成果を見て驚がくして、つい声を張り上げてしまった。

 袋に入れる素材の量は決まってるので、僅かな時間で帰ってきたわけで、冷としては袋の制限が無ければもっと収集出来たと残念に思った。


「そう言われてもな〜。本当に倒したんですから信じてもらうしかないな」


(もっと収集出来たけど、まあいいかな)


「確かに素材は間違いないです本物です。ただ今までの私の経験から言ってもあり得ない早さと数ですし」


「袋がもう1つあれば良かったのにな。入りきらなくて捨てて来ちゃったから」


「ええっ!! 捨てて来たと。じゃあこれよりも多く集めてあったと。と、とても初心者冒険者とは思えないです冷さんは」


 ユズハ店員は苦笑いする。

 ステータスの数値からして当然の結果である。

 ユズハ店員は冷の数値を知らないので、強さの理由がわからない。

 すると冒険者ギルド店内にいた他の冒険者が驚く。

 冷と言う新参者が現れて、とてつもない成果を叩き出したから。

 ゴブリンの件はマグレだろうとささやかれた。

 しかし今回の1件でマグレではないとわかった。

 実力で取ってきた成果だと。


「おい、見たかアイツを。新人君だろ。すげーぞ」


「何者なんだろうか。実力だとしたら、かなりの実力者だ。恐ろしい新人がデビューしたもんだ!」


 噂は冒険者の間で徐々に広まるのであった。


 マリに交換し懐が潤ったところで飯を食べた。

 満腹になると昨日泊まった宿屋に今日も宿泊する手続きをし部屋に。

 部屋に入るや冷は両腕を組んで二人の前に立ち尽くした。


「今日の君達ははっきり言って最悪だった! 寝てばかりで役立たずとはこのことだ!!」


 冷はさすがに2人に対して説教を開始した。


「も、申し訳ないです」


 アリエルは今日の自分のふがいなさに素直に謝るしかなくなった。


「役立たずとは無礼者! このリリス様に向かって無礼だぞお前! 何高何度も寝て疲れたから寝るからな!!!」


 リリスは役立たずと罵倒されて不愉快になり、ベッドに潜ってしまった。

 気の優しい冷はもちろん戦闘時の失態など許していたし、責めることなどどうでも良いのであったが、それはそれであり今晩のお楽しみは別である。

 

「な、なにその顔は、まさか今日もする気なのですか?」


「よくわかったな。さあ服を脱ぐんだアリエル!」


「何をバカ……な、お前なんかに」


 疲れたなどの言い訳は聞いてもらえずに無抵抗で服を脱ぐと冷に絡みつくようにして抱きついた。

 いくら探索を冷ひとりでしたといっても体力はほぼ残っており朝まで続けることに。


(朝になっても寝かせれないからな)

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