第6話
「それでは冷さん、アリエルさん、リリスさんの登録は終わりました。今日から冒険者としてクエストを受ける事が可能となりました。クエストは冒険者レベルに応じてランク付けされており、最初はランク1からのスタートがいいでしょう。慣れてきたらランクを上げるのも可能となり報酬もランクが上がれば高くなります。ただし報酬に目を向け過ぎると失敗となることもあります。最悪のケースでは死ぬ場合だって無いわけではありません。そこは私どもギルド側も十分に配慮して受け付けします。無理は絶対にさせません。それは王都からも注意をされてるからです。スタンダール国内において今は危機が迫っていて魔物、更には魔人をも現れつつある。特に上級魔人、中級魔人が存在していて国の脅威となってるのです。ギルドとしては有能な冒険者は数が足りてない状態。いくらでも欲しいのです。冷さんにも強くなってもらい、国を守ってもらえるようになってください」
「俺が国を守るか。要は魔人を全員倒せば良いのですよね。わかりました俺に期待していいです。先ずはクエストを紹介してください」
(俺って期待されてるのか。しかもこんな可愛い子にだ。答えないわけにはいかないよな)
冷はユズハから説明を受けて調子に乗って答えた。
それだけにユズハは苦笑いする。
「そ、それはありがたいです。クエストをご覧になってください。経験を積めば高ランクのクエストを受注できます」
慌てる素振りを悟られぬように落ち着き提示する。
クエストランク1
ゴブリンの討伐
報酬 1匹 1000マリ
マリはこの世界の固有通貨である。
冷は通貨の単位には興味なく、ゴブリンがどれ程の魔物なのかと考えていた。
すでにリザードマンを倒したので比較もできる。
リザードマンは下級魔人である。
対してゴブリンは普通のノーマル魔物。
戦力は落ちる。
よって今の冷なら十分に可能なクエストと言えた。
「ゴブリンを倒せばいいんですね。それともし倒せたとして何匹倒せばいいのかな」
(俺なら少なくとも複数匹は倒せるだろうからな)
「はい、倒したら魔物の一部を剥ぎ取ってください。素材として買い取ります。素材を入れる袋が必要ですから差し上げます。もう倒せる気満々ですね冷さん!」
「ありがとう。そういうことでランク1から始めます」
「無職狂戦士ですから、無職でしょ、無理しないで。危なくなったら帰ってきて。まあ神族と魔族がいるのでゴブリンなら大丈夫でしょうが、ゴブリンは1匹単体では弱いですが、集団で生息する習性があります。無理はせずに避難してください」
女性と会話するのにまだ慣れていない冷は会釈してギルドを後にした。
店員はその日一日、ぼう然と立ち尽くし仕事上で普段は決してしないミスを連発し上司に怒れていたという。
その原因は全て冷たちが原因であるし、店員にはいっさいの責任はなかったのだ。
(よ〜し、ゴブリンを倒すぞ〜)
と、ユズハ店員の立場など考えずにクエスト討伐を意気込んでいた。
町を離れると草原が広がっていて冷達はゴブリンを探しに出発する。
「ゴブリンてどんな魔物かな。俺のゲームのイメージだと小さくて品の無い小汚い奴なんだけど」
「そう思って違いはないと思う。ギルドで説明があった通りに最弱的な魔物としても有名。だから冒険者の最初の対戦にはいい相手となる」
「俺なら問題はない。ゴブリンとやらを殺ってやろう。そこで君たちにも戦ってもらうぞ、なんてったって仲間なんだから」
「えっと……ゴブリンは結構な数で来ますから、危ないって言うか……」
アリエルは冷に戦いを求めた。
途端に先ほどとは違う反応に変わった。
「最初の説明した時は、最弱とか言ってたよな。だからアリエルも大丈夫なんだろうと思ってさ」
「それはだな……冷が戦うと言う前提で話してたわけで……」
「俺としてはみんなで戦うのが前提だよ。とりあえず戦ってみな」
冷は優しくゴブリン戦を勧めた。
アリエルにとっては、誤算である。
アリエルの女神は神族だけに与えられた最上位の職業であった。
しかし戦うことをする必要がなかった。
女神は戦闘ではあくまで補助的な位置。
はっきり言って戦いには自信がない。
「ええっ……わかったわ。それじゃ私は冷の後方支援とする」
「後方支援だな、わかった頼むぞ。次にリリスは魔族でしかも有名な血を引いてる淫魔だそうだな。魔物など怖くはないだろう。だから俺とともに前衛で斬ってくれよな」
「ええっ! いきなりか。それはお前の役目だろう。だから私も後方支援とする」
実はリリスは魔族のそれも淫魔と言う選ばれた魔族の出身であった。
だがリリスは能力が極端に低く、親類からもダメ出しされて魔族から追い出されたのだった。
つまりはとっても弱い。
かろうじて初級の冒険者を相手にしていたのだった。
「まあ、そう言うなら仕方ない。リリスも後方支援としよう」
「あら、有名な魔族の一族だったのではなかったの?」
そこでアリエルがひと言言う。
「有名な魔族さ。淫魔は選ばれた魔族だ。でもその……冷が戦いたいのだから任せてやろうと思って。それよりアリエルこそ神族なのだろう。さぞかし強いはずですが?」
「ギクッ……。女神は平和主義者なのよね。戦いはイケないことだとなってるのよ」
お互いに戦いを避けたい気分が冷には十分に伝わる。
(この分だと、俺が倒さないとダメそうだな)
近くの草原は草が高く魔物が隠れるには、もってこいな場所であり、油断すると突然の不意打ちを食らうのを頭に入れて気配の察知に集中させた。
冷には魔法で魔物を察知する並の強い察知能力を有する。
「ところでお前、ゴブリンを討伐するのはいいが見たことあるのか?」
「そういえば……なかった」
「じゃあわかんねーーだろ!」
リリスの的確な指摘はその通りであるのだが、冷には問題なく思えた。
ゴブリンを探して討伐しギルドに持ち帰るのが目的なのであるから。
ただ冷は違った。
(ゴブリンじゃなくても何でも魔物なら倒してやろうじゃんか)
魔物なら種類関係ないという状態で臨んでいたのである。
そこへ前方に冷は気配を感じ立ち止まる。
「ゴブリンか?」
「2人は下がってろよな」
(先ずは様子見だ)
「お前に任せるぞ」
アリエルとリリスは一歩下がり冷は気配の方へ進んで行く。
草むらから一匹のゴブリンが現れると冷に襲いかかる。
背はとても低く冷の腰くらいの身長で、全体的に緑色をした肌をし耳が異様に長いのが特徴であった。
邪眼のスキルを試してみるとゴブリンと表示される。
(こいつがゴブリンか。緑色してて気持ち悪いなあ)
ゴブリンが突っ込んで来るのをナギナタを出して待ち構える。
小さな斧を持っていて振りかざすところを、瞬時で見きりナギナタを数発打ち込んだら、その場に倒れた。
「この程度なら余裕だな」
(楽勝て感じか。1匹ならば)
「よく倒しました」
「お前なら倒せる相手だ」
自分では戦わずに偉そうに褒めた。
ゴブリンは魔物であるからして弱くはないのであり、見習いの剣士レベルではかなりの死闘になるのが一般的である。
冷にはゴブリンよりも早い動きの格闘技と死闘した経験があり、まるでスローモーションでも見てるかのような動きに思えた。
つまり冷が楽勝に倒せたのは異例と言える。
倒した後は素材を回収する必要がある。
(素材を取るのは面倒くさいなあ)
戦いは好きで楽しいが、どうも素材を取るのは退屈に感じる冷。
ゴブリンから素材の部位を剥ぎ取る作業は2人に任せようと思いついた。
「おい、君たちさ、素材を取るのやってくれよ」
「えっ! 気持ち悪いんですけど」
アリエルは死んだゴブリンを見て近づくのさえ嫌がった。
「ざけんな、お前の仕事だろそれは。押し付けんじゃねえ」
リリスもやる気無しと意思表示する。
この反応は冷にとっては計算済みであり、密かに奥の手を考えていたのだ。
「収集が嫌なら、じゃあ戦いをどうぞ前衛に」
(どうなるかな?)
「い、いくらなんでも、やらない…………」
「仕方ないか、収集するか…………」
「ちゃんと収集するのだぞ! 俺が魔物と戦い君たちが素材を収集する分業の方がたくさん探索できるだろう」
素材を収集するのは任せることで探索の分業ができ、時間短縮に繋がるのであった。
冷はと言うと素材収集しているアリエルとリリスが、しゃがんで作業する際にパンツが見えないかなと大いに期待していて、それが目当てでもあったのは2人には絶対に言えなかった。
(う〜〜〜〜ん、いい眺めだな)
クエストの条件であるゴブリンは、さい先よく倒すのに成功。
この調子でゴブリンを倒すため周囲を探索開始する。
するとゴブリンが現れるのだが、1匹ではなく3匹登場し冷に襲いかかる。
「今度は3匹よ冷!」
「わかってる、俺が全部まとめて倒すぞ!」
宣言したからには倒さないと格好がつかない。
慌てることなく近づくゴブリンをナギナタで頭を投打し始末し、その勢いのまま拳で腹を殴ると遠くに吹っ飛んでいった。
さらにもう一匹は回し蹴りを食らわしてこれまた吹っ飛んでいった。
冷の拳と蹴り技は普通の人間の物とは桁違いであり、たとえ魔物といえど人類最強の繰り出す衝撃に耐えられなく絶命した。
(3匹でもまだ余裕があるな)
ゴブリン程度では冷の敵ではなかったのである。
倒した後に余裕を持っていたらアリエルとリリスから不満が言われる。
「ちょっとお前な〜〜〜〜何てことしくれてんだ!!」
「えっ、俺は3匹倒したんだぞ」
「違う! その倒し方が問題だって言ってんだ!」
「ナギナタで殴る、拳と蹴りで吹き飛ばして完璧だろう」
誇らしげに冷は自慢した。
(何が問題なんだろうか、俺にはさっぱりわからないが……)
「吹き飛ばしたのが問題なんだよ。素材を収集するのは私達だろ、あんなに遠くに飛ばして収集するのが大変だろが!」
リリスの言うとおり、ゴブリンは遥か先に飛んでいった為に素材の収集も一苦労になるのであった。
「あっ、イケねえ。ちょっと力入れすぎちゃったな」
言われて初めて気づいた冷は照れ笑いして誤魔化すしかなかった。
「照れ笑いされてもゴブリンは戻って来ませんから」
アリエルにも説教される。
結局は遠くまで収集しにいくのを待っていながら反省する。
(う〜〜〜ん。力入れすぎるのも問題だな)
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