第5話

 冷達は、しばらく歩くと町を発見する。

 冒険するには絶対に必要な宿屋や道具屋などあり、近くにあったのは幸運であり、リリスの知識が役に立った。

 

「あそこに町があるだろ、ピルトの町だ」


 リリスが指した先には町が広がっていた。


「まずは町で準備するのが冒険の第一歩だから。お前は最初に冒険者ギルドに行くのがいいわ」


「冒険者ギルド?」


 リリスの説明を聞き冷は初めて聞く言葉であり何のことか意味不明である。


「ギルドに登録することでクエストを紹介してくれるって仕組みだ」


「詳しい話は行ってみりればわかるのよ」


 とアリエルが冒険者ギルドへ行くので、意味も分からずついていくのであった。

 町の名はピルト。

 小さな田舎の町で農作業も盛んであった。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへ」



[ユズハ]

性別 女

種族 人族

職業 ギルド店員



「は、は、は、は、は」


「?」


 冷は目の前にいるギルドの店員ユズハを見て緊張して言葉にならないでいて、理由は単にコミュニケーション能力のなさが影響し、見とれてしまう程の可愛い子であった。

 

「お前な、しっかり話せ」


 リリスにそそのかされ否応にも話すしかなくなる。


「は、初めて来たんだけど」


「初めての来店ですね。それでしたら先ずは冒険者ギルドへ登録してもらいたいのですがよろしいですか」


「はい」


「私は冒険者ギルド店員のユズハです。最初に名前と職業レベルを記入してください」


 店員ユズハから紙をもらい書くように言われる。


(職業は確か無職狂戦士だったな。いいのかな無職で。ちょっと恥ずかしい)


 恥ずかしい気持ちもあるが嘘は書けないし無職であることを正直に書いた。


「柳生冷 職業 無職狂戦士レベル301ですね。こちらの情報で登録させてもらいます。無職狂戦士?? 初めて聞く職業ですが、本当に初心者に近いようですが養成所研修を受けますと見習い剣士、見習い魔術師、見習い弓士などに職業を変更できます。ステータスは職業によって異なるのですが無職ですと全てのステータスが上がりません。ずっと初期のステータスのままで変わりませんから、通常誰も無職は選びません。無意味な職業ですし損をします。初期は誰でも無職設定されているのを、早い子だと子供の時から養成所研修を受けさせて訓練させる親もいるくらいです。あと木を伐採するのを続けていると木こりが開放されたり、料理をこなしていると調理士といったぐあいに開放されますから、冷さんには見習い養成所研修を勧めます」


「養成所研修、覚えておきますが俺には必要ないかな」


 丁寧に駆け出しの冷に説明してくれたにも関わらず、なぜか断る返事をしたのである。


(研修て、学校みたいで面倒だよな。俺は学校などで教師から教わるの苦手なんだな)


「どうしてです?」


「教わるの苦手なんだ」


「無職狂戦士のままで冒険すると?」


「無職狂戦士で行きます」


「いいのかよお前。無職狂戦士より剣士の方が強いだろ」


「いいんだ。俺には必要ないんだよ」


(だって無職狂戦士って、すげーんだよな。どうやらユズハさんは知らないらしい)


 無職狂戦士のままでも構わないといったのは、教師から教わるのを考えると憂鬱になり、事実中学高校は授業が大嫌いであった。

 あの嫌な授業を受けるくらいなら無職のままのほうが増しと判断したからで、店員も本人が説明を無視するのだからしかたないと了解する。

 それにステータスインフレーションによって膨大にステータスの数値は上がっているのもある。


「後ろの女性も登録しますか?」


 アリエルとリリスが後ろで見ていたので、一緒に登録をお願いするのかと。


「一緒にお願いします」


 冷と同じようにして記入後に渡すとユズハ店員の様子がおかしくなった。

 記入された紙をみつつ、首を傾けて、


「アリエルさんですね、あの〜〜〜職業が女神と書いてますがギルドでは取り扱いのない職業です。どのようにして開放されたりしましたか?」


 さすがのギルド店員も女神という職業をみたのは初めてであり、意味がわからないのであった。


「神族にだけ与えられる職業ですから、見たことないのは当然ですし生まれつき女神でした」


「神族? 神族って神ですか? いやいや冗談は止めてくださいよ」


「いいえ神族のアリエルです。嘘ついてません」


「て、アリエルですって! 学校で教科書に出てくるお方ですよ! あり得ないような人物ですよ!」


 それもそのはずで、転生地の振り分けを行っていて決して異世界の地には降り立つことはなかったのだから。

 冷の自己中な行為が原因である。


「女神アリエルで登録をお願いします」


「わ、わかりました。その辺は深く突っ込みません。もうひとりの方が、えっ!!! リリス! まさかまさかまさかの教科書に出てくるリリスさんですか?」


「知らねえ。教科書を見たことねえし。職業は淫魔だ」


「淫魔! 実際に存在していたのですか? 魔族のなかでも実在してるかさえわからないと教わりましたが」


「いいから早く登録しろ」


「は、は、は、はい登録します」


 リリスが強めに言ったので、その威力で慌てるように登録を済ませる。

 実際に淫魔とは魔族でも超レアな存在であり、ごく一部の者しか見たことがなかった。

 それゆえに、実在していないとさえ囁かれる立場にあった。

 リリス本人はもちろんそれを知ることはなかったのである。

 3人はレベル的にはまだ低いと言えた。

 当然、初心者には冒険者としての心がけをしっかりと説明するのが役目。

 なぜならギルドが紹介するクエストは危険である。

 初心者を死なせないためにも、十分に気をつけて配慮がいる。

 だがなんだこの初心者たちは。

 初心者らしさがみじんもない。

 ユズハは不思議でならなかった。

 無職のままでいいと言い張るし、女神は来るは、淫魔も現れるはで、夢でも見てる気になっていた。

 こうして無事に、何がどうなったなのかわからないまま3人の冒険者登録は終了した。

 

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