第2話 青春活動応援部
「そのすぐ後に、性懲りも無く、私達のところに来たって訳?」
青い空の直下、四方を柵に囲まれた屋上に底冷えするような声が響く。
声を発した薄い唇の主は、
その状態でも尚、美貌を崩していないのだから、大したものだ。
整った顔の輪郭、大きな目に掛かる長い睫毛、艶やかな黒髪は白皙の耳朶を伝って、か細い肩へと垂れる。
大和撫子の四文字が脳裏に浮かぶような美人、
「まぁ、そうなるな。」
すると、彼女は
大人びた姿とは裏腹の拗ねてしまった子供のような姿が、微笑ましくて、ニヤニヤしてしまう。
「もう駄目ですよ。そうやって態と怒らせるような言い方するのは。」
そう言って咎めたのは、
亜麻色の髪を二つ結びにした少女で、小ぶりなパーツから成り立つ人形のように整った顔は、綺麗というよりは可憐と言う言葉がしっくりとくる。
梨沙は、翡翠のような緑眼を俺から夏鈴へと移動させる。
「夏鈴も。私達は学年が一個上なんだから、ちょっと後になるのは分かってるよね?」
「そうだそうだ!」
言い含めるような梨沙の言葉に、明朗な声が追従する。
声のする方向は、ブルーシートの上に座る俺や夏鈴よりも下。
梨沙の膝の位置からだ。
所謂、膝枕された状態のまま、遥は揶揄うように野次を飛ばしている。
ちょっとムカつくな。
そう思ったのは俺だけじゃなかったのか、梨沙の手が高速で閃き、ぺしりと遥の脳天を打ち据える。
「あっ、痛!?」と言う間の抜けた悲鳴が響く。
何故かは知らないが、いい気味だ。
「分かってるわよ、そんな事。」
頭を押える遥の姿に溜飲が下がったのか、梨沙の口撃を恐れたのか、夏鈴は溜息を一つついて、怒りを鎮めた。
「実際、お前らの方が近くにいたら、お前達を先に誘ってた訳だし。」
遥よりも先に二人を誘わなかったのは、単に距離が遠かっただけだ。
「え〜」と遥が抗議するが、無視する。
「今、誘ってるのは私達だけなの?」
「そうだな。他の人にも声をかけるつもりでは有るが、先ずお前らだ。結局、お前らと一緒に何がするのが一番、しっくり来る。」
俺、遥、夏鈴、梨沙。
男1人に女3人とアンバランスなグループだが、俺達は幼馴染という繋がりがある。
それこそ7歳から8年弱の付き合いだ。
ぶっちゃけ、家族みたいなものだ。
「ふぅん、それなら手伝ってあげるわ。」
夏鈴はふいと目を逸らした後、横髪を耳にかける。
満更でもなさそうだ。
それを言うと、怒られそうなので言わないが。
「私も良ければお手伝いさせてください。」
「あぁ、頼む。」
梨沙からの協力も取り付けて、早々に部員4名の確保に成功した。
「これで晴れて部活成立。」
頼りにはしていたが、こんなに早く上手くいくなんて幸先が良いな。
「それは良いけれど、そもそも何をする部活なのかしら?」
「あっ、それ私も思った。」
根本的な疑問が屋上へと投げ落とされる。
色とりどりの瞳が俺へと向けられ、回答を促す。
「現状、考えてるのは、『学校のプラットフォーム化』だな。」
「ごめん、どういう事?」
上手くイメージしにくかったのか、遥が話を遮る。
整った柳眉は、気難しそうに顰められ、彼女の困惑具合を物語っていた。
「生徒一人一人にやりたい事を自分で考えて貰って、イベントにしたり、発表したりして貰う。その為の舞台を用意したり、準備を手伝ったりするのが、俺達の活動になる。」
「プラットフォームビジネスみたいな感じでしょうか?」
「そうだ。」
プラットフォームビジネスとは、サービスの提供者と利用者を仲介する
某通販サイトだったり、SNSなんかもこれに当たる。
「なんか意外ね。もっと自分のやりたいことをやるのかと思ったけれど。」
「異能バトルとか、か?」
夏鈴の率直な感想に苦笑いしつつ、俺はパチンと指を鳴らす。
すると、俺を囲うように巨大な火の玉が現れ、轟々と猛りを上げる。
「ファイアーボール!」
夏鈴のいる方へとびしりと指を差すと、火の玉は勢いよく発射される。
そして、夏鈴の身体をするりと通り抜け、虚空へと消えてしまった。
残ったのは、不機嫌そうに眦を吊り上げる夏鈴だけだ。
「引っ張ったくわよ?」
「すまん。」
恐らく、冗談だろうが、素直に謝っておく。
ごほんと一回、咳払いをして、話を戻す。
「今みたいにAR空間上にオブジェクトを出したり、ホログラムを作ったりするのも、今の時代、即興で出来る。」
これも『脳の機械化』の齎したものだ。
『電脳』とは、インターネット空間に人の意識を接続するだけのことを指すわけでは無い。
外部装置としての超小型コンピュータの演算支援や情報の受信・発信の機能も併せて言う。
もっと言うと、《エンライトシステム》による、他者と思考を共有と知性の拡張も、『電脳』技術の一環だ。
それらを応用すれば、プログラミング言語とその使い方をインターネット上からダウンロードし、脳内でプログラムを完成させた後で、AR空間上にアップロードするのぐらい造作もない。
2045年は、かつての世界のようにPCを用いて、プログラミングしたり、スマホを使ってSNSにアップロードしたりしない。
そんなものがなくても、『脳みそ』一つ有れば事足りるのだ。
「VRやARを使っていいなら、異能バトルも、ロボットバトルも、何でもアリだ。それでも俺のしたい事だけしてたら、皆はつまらないだろ。」
俺がしたいことをするだけなら、部活動なんか作らずに、個人で勝手にやるべきだ。
学校からの支援を受けて、部活動として活動するなら、皆が楽しめるものを作るのが筋だと俺は思う。た。
「だから、『学校のプラットフォーム化』ですか?」
「そうだ。学校に行かずとも良い時代で、
『学校』という舞台をコンセプトとして、自由に皆が活動する場所。
それが『学校のプラットフォーム化』プロジェクトだ。
「勿論、俺も楽しませてもらう。」
ニヤリと唇を曲げ、悪どい笑みを浮かべる。
3人は、仕様がない子供でも見るように目尻を緩め、立て続けに賛同を示した。
「良いんじゃないかな。なんか楽しそうだし。」
「はい、素敵です。」
「まぁ、悪くは無いわね。」
好評みたいだな。
「それなら部活動名も決めないとね。」
「そうね、部活って呼び方じゃ締まりがないもの。」
「基底部とか、どうでしょう?縁の下の力持ちという意味合いも込めて。」
「それじゃあ、どういう部活なのか、分かりにくいわよ。」
遥が提案すると、夏鈴も賛同し、意気揚々と話し合いが活発化する。
こういうのも彼女達が乗り気になった証明だ。
「シンプルに『青春活動応援部』とかで良いと思うだけどな。」
終わりの見えない議論に呆れるように言うと、普通すぎるという理由から却下された。
しかし、全然決まる気配が無かったせいか、最終的に一番無難という理由から、『青春活動応援部』になった。
物凄く解せないんだが。
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