第6話 最終回 半月後

 地球に飛来した最終破戒獣ギガロザイアスとその眷属は富士の裾野を焼き払い、富士山も山体の三分の一を失いはしたが、集結した光の戦士軍団の活躍によって爆炎の中に沈んだ。ギガロザイアスが死の直前に吐き出したマイクロブラックホールも、月軌道上に運ばれ待ち受けていた光の戦士によって消滅した。

 つまり、地球は救われたのだ。


 銀色の約束通り、おれは特に何もすることはなかった。光の戦士軍団はそれでもウルトラマンとなって趨勢を見守っていたおれの肩を親愛の情を込めてぽんぽんと叩き、それぞれがよかったよかったと頷いて去っていった。

 「でもね」

 あの戦いから三日後、おれは自宅のソファに座って、グラスに注いだジュースを飲んでいた。

 「この地球にもともと怪獣はいないし、闇の連中も活動をしないなら、光の力なんてもういらないんだけど」

 銀色は肩をすくめる。

 「そう言われても、簡単に取り外しができるようなものじゃないよ」

 おれはあの日、光の力をこの身に受け入れることを承諾した。そして誕生するウルトラマンの正体を決して公開しないこと、おれの人間としての生活を尊重することを日本政府と国連に約束させ、また、そして人間同士のいさかいには不干渉を貫くことを宣言した。

 但し、再び宇宙からの脅威が現れた場合には対応する。そこはまぁ仕方のないことと諦めるしかないのだろう。

 「これさ、こっそり逃げたらどうなるの」

 「全宇宙に指名手配されて牢獄入りかな。軽く何千年かくらい」

 「なんだそれ」

 「光の力を正しく使わないものが入れられる牢獄だよ」

 「そうじゃなくて、軽く何千年ってほう」

 「だって君はほぼ不死身なんだよ。改心したと認められるまでは出してもらえないさ。ベリアルは何万年か入って、それでも改心しなかったけど」

 げんなりした。そしてぞっとした。きっぱり断るなら今のうちだよと言ったあの闇の言葉が頭の中でエコーした。でももう遅い。

 「おれはこの後どうなるんだ」

 「どうもならないよ、このままこの地球に生きるんだ。君は宇宙警備隊の所属じゃないし、力を与えられたとは言えどうもこの地球の意思も背負っているらしい。まぁたまにはどこかの星にいる仲間から助けを求められることはあるだろうから、出張することはあるかもね。入りたければ警備隊に入ってもいいけど、やること自体は変わらないと思う」

 「そうじゃない。おれはもう死ねないのか」

 「うん」

 銀色の答えは明瞭だ。

 「だけど君は今回正体を世間に対してはっきりとは明かしていないから、今の君の社会的な命、つまりその名と姿を使って過ごせるのはあと数十年ってところだろう。とりあえず周囲に合わせて歳を取って見せて、周囲の人々が代替わりしたその後は若者に見た目を変えるといい。人間から成ったウルトラマンはだいたいそんな感じだ」

 「だいたい、ね」

 「正体を明かした上で、同じ姿と名前でずっと過ごす人もいるよ。でもそういうのもあんまり長続きしなくて、そのうち死んだふりでもして姿と名前を変えるね」

 「どうして?」

 「さあ、光の国出身の私にはわからないな。ただ聞いた話では、どうしてもその星の住人がウルトラマンの力に頼り切ってしまって堕落するかららしい。そりゃそうだ、隣に神様みたいな存在がいたら誰だって頼るからね」

 「ふうむ」

 「とは言えウルトラマンは神じゃない。人々を導くなんて烏滸がましいものさ」

 とりあえず、謝礼としてそこそこの金額が毎月口座に振り込むようモリシタ氏が計らってくれたので、僕は仕事を辞めて日がなぶらぶらできる環境を手に入れた。これについてはまぁ、ウルトラマンへの待機料、国からの給料みたいなものかも知れない。

 「それで、君はどうする」

 「どうするって?」

 「脅威は去った。次に何かあったらおれが戦うことになりそうだ。で、君は」

 「私はもちろんここで暮らすよ」

 「え、帰らないの?」

 おれの声は自分が思ったより大げさに響いて、銀色は少し肩を落とした。

 「なんだか帰って欲しいみたいに聞こえるな」

 「いやまあその、ここに来た用はもう済んだんじゃないかって」

 「いいや、むしろこれからが本番だよ」

 もういいか、と銀色は呟いて両手を頭の上にかざし、振った。光の粒子がはらはらと舞い落ち、その粒子の中で銀色は……可憐な少女へとその姿を変える。

 「え?」

 「この姿では初めまして。そしてこれからよろしくね」

 「よ、よろしくって」

 銀色……じゃない、元銀色の少女はいたずらっぽく笑って右手を差し出した。おれはおずおずと右手を伸ばしてから引っ込め、手のひらをズボンで擦ってから彼女の柔らかな手を握った。

 「これから私はこの星で君と暮らす。これが後で話すって言った、君の心を救うために思いついた方法ってやつさ」

 そういえばそんなことを言っていたような気もする。気もするのだが。

 手を離すと、彼女は両手を腰に当てて胸を張る。

 「そして、君はその力に対する責任と約束を果たさなきゃいけない」

 責任……と約束だって?

 「ちょっと待って。何か増えてるよ、約束って何」

 「だって君は約束したろ?脅威には対応すると」

 「ああそれか、そうかそうだった」

 「大丈夫、何かあれば私も加勢する。私の力はこの間見たでしょ?」

 そうだった。彼女はものすごく強かったのだ。ギガロザイアスの三本ある首のうち、二本までをへし折ったのは彼女だった。

 「ちなみにあの姿は仮のものだから、次があったら本当の姿で戦うよ。その方が動きやすいし」

 「へー、あれで制限かかってたのか」

 おれはソファーから立ち上がり、冷蔵庫からジュースの瓶を取り出して新しく出したグラスに注ぎ、彼女に差し出した。彼女は笑顔でグラスを受け取り、一口飲んだ。

 「私はね、宇宙警備隊内にある特務部隊、文明監視部の一員なんだ。部隊の任務は、まだ星間連合に参加できないような星に降りて、その星の文明を見極めること。光の宇宙のメンバーとしてふさわしい成長を見込めるかそうじゃないかを調べるんだ。根気のいる、それでもやりがいのある仕事なんだよ」

 「はー」

 「はーじゃないよ、つまりこれからは私と君とでこの星を見守るのさ。なぁに、社会としてはかなり健全に成長しているし、星全体がここまでの文明レベルまで来ていれば、統一政府の実現まであと二百年もいらないんじゃないかな」

 「にっにひゃくねん!?」

 声が上ずった。

 「ちょっと甘めに見積もってそんなものだよ。統一政府ってね、どんな星でもなかなか成立しないものなんだ。今回の騒動がそのきっかけにはなるだろうけど、次がなければ動かないかも知れない。その前に人類同士が争って、文明そのものが消滅するかも知れないしね」

 「そうなのか」

 「君たちも宇宙人の存在を空想して、でも今まで出会えなかっただろう?それはね、宇宙に出ていくレベルにまで社会を発展させることがとても難しいからなんだ。だから簡単に相手に見つかるようなレベルでは、宇宙には出ていけないんだよ。この星にだって隠れ住んでいる宇宙人は結構いるけど、ほとんど噂にもなってないだろ?」

 「そりゃ……そうかもなぁ」

 「宇宙に出るには相応の科学と社会のレベルが必要だけど、それを揃える難しさを知っているから、星間連合はゆるい組織として作られてる。連合に所属できる文明はだいたい常識的に育っているから、そこまで強く縛る必要はないんだよ」

 「半面、闇の組織みたいな存在も産んだ」

 「うん、あいつらについては今も別の捜査チームが追ってる。前に接触した時の情報は送ってあるから、あとはそっちに頑張ってもらうしかないね」

 彼女はグラスの中身を飲み干して、空いたグラスをテーブルに置く。

 「例えば」

 「ん?」

 「例えば統一政府が作られて、この地球が無事宇宙デビューを果たしたとして、そこから先はどうなる?」

 「さあね」

 屈託なく彼女は笑う。

 「さあねってそんな無責任な」

 「だって、宇宙に出たからと言って地球人は地球人だよ?いきなり変身したり超能力を得られるもんじゃない。人々の暮らしはそんなに大きく変わらないだろうし、君と私の任務も変わることはない。この地球の命がどう育っていくのか、そしてどう滅ぶのかを見届けるのが君と私の任務であり、運命だよ」

 なんてこった。星が滅ぶまでだって?途方もない話に頭がくらくらしてきた。

 「でもいいじゃない」

 「何がいいんだ」

 「君はもう一人じゃない。私は君の新しい家族だ。私はずっと君と一緒だよ」

 可憐な少女にそう言われて喜ばない男はいないと思うが、しかし目の前のそれは永遠の命とものすごい力を持った宇宙人なのだ。逃げて捕まったら何千年も牢獄行きとか言っていたし、これはヤンデレものとか地雷系もののバッドエンドに近いんじゃないか、と思い至っておれは軽く身震いした。

 「正直言えば、任務とは言え辺境の惑星でずーっと過ごすなんて嫌だなって思ったこともあったよ。宇宙の平和と正義のためとか言っても結局は仕事だしね。でも君に出会えた。ウルトラ兄弟や歴代の先輩方が地球人に魅せられたのと同じく、私は君に強く惹かれたんだ」

 「べ、別にそんな褒めたもんじゃないと思うが」

 「いや、自信持って。君は自分が思うより遥かにまっとうな人間だ。伴侶として申し分ないしとても誇らしい。他の誰にも渡すわけではいかない」

 どうしてこんなことになったんだ、とおれは思う。そもそもなんでこいつは女なんだ?伴侶っておれと結婚するのか?言葉の端々から覗く独占欲みたいなものちょっと怖くないか?頬を染めて恥ずかしそうにくねくねする彼女を前にして次から次へと疑問が沸くが、いずれにせよもうおれだけの意思ではどうにもならない事態に発展しているということだけは理解できた。

 「おはなしのウルトラマンは、最終回に現地の人間と分離して帰っていくもんだけど」

 「まぁあれは、人智を越えた力に対して極度に依存心を作らせないためのおはなしだからね。【地球は人間の手で守るべき】ってキーワードも混ぜ込んだ、深層心理に対する教育番組みたいなものだよ」

 「そういうものなのか」

 「天啓とかひらめきとか、ああいう感じでこちらから伝えたいことを送信してこちらの人間に受信させる。より良い方向に文化を導くためにね。その逆を闇の連中はする。全く嫌な連中だよ」

 なんだかスケールが大きいのか小さいのかよく判らない話になってきた気もする。そしておれは、ちょっと前に浮かんだ疑問を口にしてみた。

 「ちなみに君……いくつ?」

 彼女は照れたように答える。

 「んっと、四千歳ってとこかな……ってレディに歳訊いたらだめだよ」

 それがこちらのスケールに変換してどれくらいになるのか全く判らないが、超年上であることだけは確かだろう。見た目はレディというよりガールなんだけど。

 「大学までは飛び級で卒業して、宇宙警備隊で働いてたんだ。普通、宇宙警備隊に入るのは五千歳くらいなんだよ、すごいでしょ」

 「ああ、すごいね」

 途方もない話になってきた。何がすごいのかすらもうわからない。

 「文明監視員って派遣先の現地人と結婚することも多いって話だったから、私はどうなるのかなー素敵な出会いでもあるのかなーって、色々考えもしてたんだ」

 「それって、希望出したりしてるの?出会い希望とかそういうの無しとか」

 「そんなわけないよー」

 話し方がどんどん砕けてきた。多分地が出てきたんだろう。

 「仕事だよ?結婚相談所じゃないんだからそんなのは一切無し。でも定例報告で帰ってくる先輩の話とか色々聞いたら、色んな人と出会えるっていうから全く期待してなかったか?って言ったら嘘になるけど」

 「期待」

 「そりゃまあ、警備隊は忙しいから。同僚以外と出会うチャンスなんてあんまりないの。別に結婚相手とかじゃなくて、同性の大親友を作った先輩もいるんだよ。それに、職場にいる男なんて何万年も生きてるくせに面白味のないやつばっかりだもの。そこから出られるだけでも大ラッキーなんだよ」

 「何……万年か」

 まぁおれの時間スケールで考えても仕方ないのだろうが、何万年も一人でいた挙句の果てに年下の異性からこき下ろされるなんて途方もなく嫌な話だと思った。なんだそれ、ウルトラマンだからってそういう苦悩とは無縁じゃないのか。というかたぶん、いや間違いなく本来おれはこき下ろされる側の人間だ。

 「それでこの地球の文化を色々調べてさ、異類婚姻譚とかすごい多いじゃない」

 「いるい?」

 「神とか妖とか宇宙人とかと人間が結ばれる話のこと。神話、伝説、物語、小説に映画に漫画もゲームも、男女問わずそんなお話がいっぱいあるでしょ」

 「ああそういうあれね」

 脳裏に浮かんだのは鬼娘と軽薄男のSFギャグだった。まあ確かにその手の話は世間に満ち満ちている。何なら向こうから来るだけでなく、異世界にまで進出する話もある。

 「あれ見た時にこれだ!って思ったのよ。こういうフィクションが流布されてる文明ならきっと突然の話でも受け入れてくれるって」

 そりゃまあフィクションならなんでもありだろうが、という返しをおれは飲み込む。途方もなくまずい状況に巻き込まれていることを自覚はしていたが、今さらどうにもならないだろうし希望に目をきらきらさせている四千歳の見た目少女を失望させるのも良くない。

 「君は今でもたぶん、自分はそんなに立派な男じゃないって思ってる。でもそのへんについては、地球人と宇宙人では判断基準が若干違うってところで納得して欲しいな。年増宇宙人チョロすぎ!でもいいよ」

 「変な漫画とか読んだろ?」

 「ま、まあラブストーリー的なものには片っ端から手を付けたからね、もうちょっと精査すべきだったかも知れないけど。この見た目だって」

 「見た目?」

 「そう。白状するけど、この姿は100%嘘偽りなしの、私の人間としての姿。まだ子供」

 彼女は少し俯く。

 「こういう話を持ち出すなら、外見年齢は君に釣り合うくらいに変えた方がいいんじゃないかとも思ったんだ。どっちにしたってこの星の人類に比べたら遥かに年上にはなるんだし、お化粧みたいなものだからいいんじゃないかって。でも君は、自分の心の中を包み隠さず話してくれたでしょ?そしてそんな君だからこそ私は惹かれたんだって思う。

 正直な話、私のこの姿はずっとコンプレックスだった。どんなに優れた能力を披露しても、見た目だけで判断されるのは本当にやるせないのよ。だから任務の話が出た時に、まだ誰も知らない銀河系に行くと決まった時に、これはチャンスだと思ったんだ」

 彼女の声は微かに震えていた。

 「外見なんかいくらでも変えられる。維持するのに余計な力を使うけど、私ほどの力があればそんなことは些細なこと。ここでなら理想の自分を演じられる、なりたい自分になれるって思ったんだよ」

 「それがさっきまでの姿なんだね」

 「そう」

 目を閉じ、静かに彼女は続けた。

 「頼りがいのありそうな正体不明の異星人。この星の原住民に見せる姿はそれでいいと思った。性別すら超越した神秘の存在。宇宙警備隊から派遣される予定の戦闘部隊とは直接の面識もないし、何か聞かれたら【未開の人間に話をするにはこうした姿が必要だ】って言い訳も用意した。そして半月前、私は君の前に現れたわけ」

 「なるほど」

 「私は君と話して、君の言うことを理解しようとした。君は、君がずっと心の内に隠してきた全てを私に話してくれた。私にはそれは衝撃だった。少なくとも孤独を、死を望み世界に絶望した人の心ではないと感じた。そして君が本当に望んでいるものは、私自身もずっと求めてきたものなんだと気付いたんだよ。

 だから素のままを晒すことにしたんだ。君の好みじゃないかも知れないし、釣り合わないかも知れない。この星の美的感覚から外れているかも知れない。でも、これから生涯を共に過ごそうって相手を、初手から誤魔化すのは違うと思ったんだ」

 「そうか、ありがとう。確かに見た目はまだ中学生か高校生にしか見えないけど……大丈夫、可愛いから」

 我ながら変なフォローをしている自覚はある。何より声も上ずっている。おれはこういうのは本当に苦手なんだ。

 「ありがとう。でもこれは、君が話してくれたこれまでの君の境遇に同情したわけじゃない。この惑星や星間連合のための選択でもないし、君に無理を押し付けた負い目からでもない。ある意味私と君とは似たような心の痛みを抱えている同志なの。だからこそ最大の理解者になれる存在だと思った瞬間、私はもう君への恋慕を抑えることができなくなったんだよ」

 まぁ同情心で傍に居られても鬱陶しいだけだな、とおれは思ったが口にはしなかった。

 「申し訳ないけど、君の生活の本質は力を受け入れた日から一変したよ。これはすぐに飲み込むことは難しいだろうけど、ゆっくりでいいから理解して欲しい。


 つまり、君にとって【人間としての平凡な暮らし】というものは、もう【物語】になってしまったんだ。


 君が元々望んでいたものとは違う形だけれど、君は様々な人間たちが織り成すドラマ、地球という劇場を舞台にした公演を【永遠の命】という舞台裏から見届ける裏方になった。登場人物たちへ主体的に関わることのできない劇場主となった。別の言葉で表現するなら、君はある意味この惑星と共に生きるたった一人の地球人になってしまったんだよ。そんな君に力に対する責任、国家に対する約束などを押し付けて済まないと思う。もし君が最初に望んでいた通りにこの星が滅んでいたら、君がそんなものを引き受ける必要はなかったからね」

 「いいんだ、もう過ぎたことだよ」

 おれは、それを聞いて胸のどこかにのしかかっていた重みが、すっと抜けていくように思った。

 「元々他人の存在なんて気にして生きてきたわけでもないし、半世紀近く生きてきて何も為せなかったのならそういうものだったんだろう。なんだかんだで立場が変わったのなら、ここから先に何かがあるかも知れないという君の話に騙されてみるのも悪くない」

 「騙したりしないよ」

 「判ってるよ、単なる照れ隠しだ」

 「そっか……じゃあさ」

 「ん?」

 「……最初のお願い、してもいいかな」

 「……出来る範囲なら」

 彼女ははにかんだように笑った。



 「私を受け止めて」



 言うなりふっとおれに体を預け、おれはそれを受け止め軽く抱く。彼女はおれを真っすぐに見つめて微笑んでいたので、おれたちはそのまま緩く抱き合ってソファに座った。

 そしてそれからおれは数時間に渡って彼女の話を延々聞かされた。若干四千歳で幸運を掴んだ自分に訪れるであろう薔薇色の未来について熱く語る彼女を前にして、おれはもうなるようにしかならないなと思っていた。部屋の隅で、闇が赤い光をゆらめかせるのが見えたので、おれが彼女に気づかれないように睨むと闇はすっと消え失せた。


 兎にも角にも地球は救われたのだから、まずはハッピーエンドなんだろう。釈然としないものも残るが、それはもう時間に解決を任せるしかない。なにせ時間だけは腐るほどあるし、おれと彼女の物語は始まったばかりなのだから。


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ウルトラマンになりたくなかった男 小日向葵 @tsubasa-485

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